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名波浩×佐藤寿人│「リーダーシップの資質と無敵の組織論」

 

周囲が好転していくために自分に何ができるのか

──今回、お二人のサッカー人生の中でリーダー力が高い要因はどういうところなのかな、というところを考えていました。それで今気付いたのですが、名波さんも佐藤さんも、いろいろなことに興味や関心を強く持たれる方だな、というふうに感じました。物事に関する探究心というのが、そこに繋がっているのかな、と。そしてそこが人を呼ぶのではないかな、と思いました。いかがですか。

名波 自分の人間力向上もそうなのですけど、周りの人間がマイナスに落ちていくのは見たくないんです。佐藤さんもそうだと思うのですが、監督や指導者に呼ばれて怒られた選手のケアに回るというのは、絶対にやりますね。自分がいい人ヅラをしたいわけではなくて、せっかくいいグループにいるのに、そのグループから落ちて欲しくないから。佐藤さんもそうだと思うんです。

佐藤 はい。

名波 会社でも学校でも部活でも、そういう人間が一人や二人いるというのは、クラブの財産でもあると思います。佐藤さん、どうですか。

佐藤 そうですね。自分が選手として結果を出すということもそうなんですけど、選手時代は、周りの仲間と一緒に結果を出したい、という気持ちが強かったですね。ストレスや問題を抱えている選手がいた時には、その選手がその状況から好転していくために、自分に何ができるだろうかと考えていました。あとは、単純に人と接するのが好きなんです。人に興味もありますし、逆に周りの人から学ぶことも多いなと思っているので。いろんな人と接していろいろな人の考えを聞くことで、信頼関係を作れていたのかな、というふうには思います。

名波 僕は結婚するまでは、割と冷たい人間だったんです。でも奥さんや子どもが悪く言われる可能性があるから、結婚してからは割とフランクになりました(笑)。メディア対応とかも冷たかったですね。雑誌で叩かれたこともありますけど、その雑誌は24年間、一回も(取材を)受けてないです。

佐藤 それ、なんだかかっこいいですね。

 

──そうなんですね。「選手として結果を出さなきゃいけない」というプレッシャーがそうさせたのですか。

名波 うーん。まあ、背番号もありますよね。雑誌に載る時というのは、「○番 名波」というふうに、数字が先にくるんです。それがずっと納得がいかなくて、背番号だけで責任を負わされている感があって。背番号なんかなくても責任は十分に感じているんだ、と。それで、少し重たかったな、というのはありますね。

 

──僕もこういう仕事をさせてもらっているのでわかるんですけど、海外と比べると、スポーツに対する理解度というのは、(数字などの)わかりやすいところでしか触れない、というところがあったのかな、というのは思いますね。

名波 引退してからは、「元日本代表、背番号10番、名波浩さんです」という紹介のされ方をするんですけど……子ども達には現役時代の映像なんて知らないから、10番ていうだけですごいって思われちゃう。それもなんだか納得いかないんです。まあでも、覚えてもらえるという意味では、嬉しいんですけどね。

 

──リーダー=プレッシャーという部分で、紐づくところもありますよね。

名波 ただ、ワールドカップ以降は、10番のユニフォームで自分が戦っているという責任感というか、意識するようにはなったなと思います。

 

あらゆる経験が「人の気持ち」を理解する洞察力につながる

──プレッシャーに対して、いい循環に持っていく術はありましたか?

名波 好調の波の時にくらうであろうプレッシャーと、不調時にくらうであろうプレッシャーだと、受け方が全然変わってきますね。好調の時は、何も考えなくてもいい方に逃げていくと思います。不調の時はどんどんプレッシャー自体が自分の中に入ってしまって、頭も体もどんどん重くなっていくんです。改善しようとしてどうすればいいのかなというような問答がずっと続いてしまうような感じで。ただ、僕は、数字を求められるようなポジションではなかったので。佐藤さんの方が大変だったんじゃないかなと思うのですけど。

佐藤 はい。それはすごくありましたね。3試合取れてないとか、5試合取れてないとか。中身はなかなか見られなくて。どうしても「何試合で何点取っている」というような、数字が表に出てきてしまうんで。ただ、それはこのストライカーというポジションであれば、受け入れなければいけないな、という部分でもあると思うんです。それでも、点を取るために何をしなければいけないのか、ということを考えていました。ストライカーであることによって、いい意味でその部分を向き合えていたのかな、とは思いますね。

 

──なるほど。でもそれはやっぱり、一回乗り越える経験をしないと、なかなか次に進めない、というのはありますよね。

名波 それは成功体験ですよね。成功体験があれば、確実に乗り越えられると思いますよ。だけど、そういう人たちばかりではない。そういう成功体験で次に進んでいける人っていうのは一握りなのかも知れないですね。だから、挫折した時にどう乗り越えるのか、というストーリーというのは、自分自身が描きながらチャレンジしていくというのは、一つの手段ですよね。また、後ろ盾や逃げ道を作らずに、とりあえず突っ込んでいくというのも、同じく一つの手段なのです。そこは自分自身の性格を見て、客観視をしながら考えることが大切です。過去に自分と同じ道をたどった人の経験談を生かしていくとか。こういうことをしていかないと、崩れた時に立ち上がれないかもしれないですね。

 

──逆に言うと、若い頃にそういう経験をしておいたほうがいい、というのが大切でしょうね。もう一つ言えば、リーダーになる人は、そういう経験をしていたほうが、落ち込んだ人の気持ちもわかる、というのもあるということですね?

名波 語れますしね。

 

──いろいろな人の気持ちがわかるというのは、大事ですよね。経験がないと、その価値観もないから、耳も傾けられないし気付かない……そうなってしまうということですよね。若い選手との接し方・育て方としては、どのようにお考えですか。

名波 監督の立場からいくと、僕の見ている選手は携帯電話・タブレット世代なので、その制限を少しかけました。スマホなどに依存をしてしまうと、スポーツ選手として重要なパーツである視力も落ちてしまう可能性があるし、頭の回転や発想力もいい方に行くとは思わないので。あと、SNSの面でいけば、自チームを紹介するということは、いいことをやっているように見えて、実はマイナスであるということもたくさんあると思うんです。例えば、サッカーくじでいうと、金沢城などをバックに写真を撮ってアップすると、前日に選手が現場に入っていることがわかってしまうので、サッカーくじ的にはアウトなんです。そういう知識がないから、「『楽しい』と思って撮っているだけなのに」と思ってしまう。そういうところを指導していかなければならないんですよね。そういうところを注意しながら、オンの場面とオフの場面の隔たりを作り上げていかなければならないというのは、選手の自覚としてももちろん大切ですし、リーダーとしても重要な役割だと思います。

 

──なるほど。育成のところに関する今のメッセージは、まさにその通りだと思います。選手も悪気があってやっているわけではないんですよね。わからないからやってしまって、言われて気づく。佐藤さんはチームでも若手と共存、というのが多かったと思うのですが、いかがですか?

佐藤 コミュニケーションをとっていくというところで、自分の世界に入る機会というのが多くなるので大変ですね。例えばシーズン前のキャンプなんかでいうと、どれだけピッチ外のところでいろんな話ができるか、どういうものを共有できるか、どいうところなので。なるべく人と接して考えを擦り合わせるというか、信頼関係を作る、というのを意識して行っていました。選手の中でも自分の時間を大事にしたいタイプなど、いろいろあると思うんですけど、組織の中でチームとしてやる上では、個人の時間は家に帰ってやればいいと思うんです。なので、チームでの動きの時は、チームの中でお互いを知るという時間を作った方がいいと思ってやっていました。なので、監督がある程度そういう線引きをしてくれると、選手としても経験のある立場からだと、伝えやすいですね。選手だけでルールを決めるというのは限界があるので。まあ、わからなくもないですけどね。今の若い選手は常にスマホやタブレットがある、という環境で年齢を重ねてきていると思うので。

 

自分に必要なものをどれだけ残してそぎ落とすか

──ビジネスの世界もそうかもしれないんですけど、これからの時代「会話」がもっと重要になってくると思うんです。この点に関しては、名波さん、いかがですか。

名波 僕はメールはしないんです。電話ばっかりですね。会話はすごく大事ですね。声を聞いて温度もわかるし、語尾や口調でコンディションもわかるかもしれないし。もちろん面と向かって話すのが一番いいんですけどね。

佐藤 僕は名波さんにメールしましたよ。電話で返ってきましたけど(笑)。でもやっぱり、電話の方が、伝えるニュアンスが文字とは全然違いますね。より深く話ができるというか。文字で返してしまうこともあるんですけど。

 

──今のはすごいいい例ですよね。佐藤さんは名波さんに気を遣うから電話がしづらくてどうしてもメールで連絡を取ってしまう、とか。そういうのもあるんだろうな、というのは今聞いてすごく思いました。かかってきたらすごくありがたいと思うんだけど、という。自分は相手が思っている以上にこういうことを考えているのに、ということがあった時に、ちょっと会話しただけでそういうことがわかってしまうんですよね。目に見えない部分を育成年代からもわかるようにしておかないと、組織の上に立つ時にきつくなってくる……というところがあるんじゃないかなと少し思いました。

名波 そうですね。一回強いチームにいて、弱いチームに行くと、組織としての佇まいが全然違うんです。それを一人で立て直そうとするのは、なかなか難しい。逆にそのプラス面とマイナス面を一社会人としてみるというのは、いい経験にはなるな、と思いますね。でも、アスリートとしては、プレーする時のストレスというのはそういうところで抱えたくないですよね。対人関係とか。

佐藤 はい。

名波 若い選手は全て揃った状態で入ってくるんです。自分が必要なものをどれだけ残して、そぎ落とすか、という作業をすんなりできた人が、すっと伸び始めると思うのです。

 

──なるほど。そういう部分もレベルはさておき、いい意味で負荷をかけることで、不要なものをそぎ落とすことができる、ということにつながるということですかね。

名波 そうですね。選手は日によって調子のいい時と悪い時がある。だから僕は選手に、「いいプレーを三週間続けろ。そうしたら使ってやる」と言っていました。それで成功した選手もたくさんいます。そういうモチベーションを持って選手にはプレーして欲しいんです。そしてチームの中で自分と同じような考えを持っている選手を作って、自分の意思を伝えてもらう。そうすることで選手自身も「今は試合に出れないな」ということを悟って、違う努力をしたりアプローチをしたりするようになるんです。これが僕のやり方です。いいか悪いかは別として。

佐藤 本当に若い選手は、その日その日でパフォーマンスが全然違うので、監督という立場体をなかなか決断をしにくいだろうな、とは思っていました。

名波 我慢し続ければものになるかもしれない、ということもわかりますけどね。優勝争いをしている時には、なかなか難しいジャッジになってきますね。

 

──なるほど。では、以上をもちまして、リーダーシップの資質というテーマでお送りしてきました対談を終わりたいと思います。お二人ともお忙しい中、ありがとうございました。

 

PROFILE

名波浩(元サッカー日本代表)
1972年生まれ、静岡県出身。 大学卒業後、ジュビロ磐田に入団し黄金期を築いた。 フランスW杯で10番を背負うなど、長らく日本代表も支えた。引退後は、テレビ出演やジュビロ磐田の監督を務めるなど幅広く活躍。1男3女の父。
佐藤寿人(元サッカー日本代表)
1982年生まれ、埼玉県出身。2012年にサンフレッチェ広島をリーグ初優勝へ導く原動力となり、その年JリーグMVPとJリーグ得点王を獲得。Jリーグ通算得点数の歴代最多記録を持つ。 2020年シーズン限りでの現役引退を発表した。3男の父
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