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太田宏介×太田大哉│スポーツを通した人間力向上 「『親孝行』が兄弟の合言葉」

元サッカー日本代表の太田宏介選手と、兄で年間約20万点を取り扱うリユースオークション「TIMELESS AUCTION」を運営する株式会社タイムレスの代表取締役を務める太田大哉氏。それぞれの分野で最前線を疾走する太田兄弟だが、ここに至るまでの道のりは順風満帆ではなかった。両親の離婚をはじめ、幾度も訪れる逆境にあっても、兄弟を支えた合言葉は「母への恩返し」だったと言う。厳しい逆風にさらされ、強いストレスやプレッシャーにも圧し潰されることなく“飛躍し続ける二人が、人生で学んだ「感謝」「初心」「挑戦」「謙虚」「自信」そして「仲間」の意義について語る。(※2022年1月に収録)

太田兄弟の成長の軌跡と母の教え

 

 

──本日はプロサッカー選手の弟・太田宏介選手、経営者として成功した兄・太田大哉さんの“太田兄弟”の成長の軌跡をお聞きしていきたいと思います。

 

宏介 両親が離婚したのは僕が中学2年生の頃、今から20年前のことでした。兄は6歳上で20歳手前くらいでした。

大哉 そうですね。ボロボロのアパートに引っ越して、母と兄弟の親子3人で再スタートしていこうと決意したのを今でも憶えています。

 

──学校帰りには家の前に借金の取り立てが来ていたなんてお話も聞きました。中学生の思春期にそのようなことがあると、人生の路線を踏み外してしまいそうになるかと思いますが、お二人が気持ちを強く持てた理由は?

 

宏介 学校から家に帰ると取り立ての人が家の前で待ってることもよくありました(苦笑)。でも同じ境遇の友人がいたんですね。彼の親が経営していた会社が潰れてしまい、苦しい家庭環境の中、心底落ち込んでいました。それまで一緒にサッカーをやっていたのですが、完全にグレてしまって……。彼の親がそれでさらに辛い想いをしていたのを見てきたので、僕は自分の母親にそのような気持ちにさせたくなかった。

 将来、自分がサッカー選手になって、稼いで親に楽をしてもらいたいという思いが芽生えていました。それを兄が父親代わりとなって引っ張ってくれたんです。中学から高校に上がるとき、学費はもちろん、サッカー用具も揃える必要がありますから、沢山お金が必要になります。そこで僕の見えないところで兄が深夜から朝までバイトをして資金を蓄えてくれまいた。そんなエピソードを知ったのは後のことなのですが、周囲の人の支えがあって僕は大好きなサッカーを続けることができたんです。家族一丸でこの生活から抜け出したいという思いでやってきたので、当時は苦しいという思いより、ここから上を目指すという野心・向上心の方が強かったですね。

大哉 当時僕は19歳だったので、母を助けるという考えがあったのは当然だと思います。それより、6歳も年の離れた中学生の宏介がそんなことを考えてくれていたことに救われる思いでした。幸いにも宏介にはサッカーの才能があり、母と僕は陰で支えながら、その姿を見て希望をもらっていました。

 

──18歳は世間ではまだ遊び盛りの年齢です。父親の代わりというプレッシャーは相当なものだったのではないでしょうか。

 

大哉 人生を投げ出す、投げやりになるという選択肢は当時の僕にはなくて、それよりも目の前の一日一日をどうやって生活していくかという状況でした。宏介には夢を追ってもらいたかったので、どうやったらお金持ちになれるのか、どういうふうにしたら商売がうまくいくのかを、ずっと考えながら学生生活を過ごしてきました。そんな状況下で僕たち兄弟は母から受けた教育、母の姿を見て多くを学んで成長してきました。

 

──お母さんの教えや行動をみて、とくに印象に残っているエピソードは?

 

大哉 ある時、僕ら兄弟が母に気軽に「再婚してみたら?」と言ったことがあったんです。その時に母が「あなたたちを生んで育てたことが私の人生一番の財産。だからそれ以上のことはないんだよ」と言ってくれたんです。20年近く前のことなので、母もまだ40代半ば、再婚しようと思えばできたかもしれない。僕の中で「母の人生とは僕と宏介の成功なんだ」とスイッチが入った瞬間でした。

 

──「誰かのために」という言葉が綺麗事ではなく本心から出たとき、その人は強くなるという印象があります。

 

宏介 離婚をする前から父親はずっと単身赴任で、母、兄、僕の3人での生活でした。振り返ってみると、いい時も苦しい時もとにかく3人で励まし合っていたので、本当にネガティブな思考になった記憶がないんです。それよりも「もっと楽な生活させてあげるからね」っていう前向きな話ばかりしていました。そういう話をしていく中で、母親のちょっとした言葉だったり行動が僕たちを突き動かしてくれたんです。

大哉 母親と祖父母、そして僕ら兄弟とのグループLINEがあります。そこで僕と宏介は「もっと上へ!」と発奮し合うことが多くて、それを母や祖父母が間接的に見ることで、二人が頑張っている姿を確認してもらえるんです。

宏介 祖父母は90歳以上なのにLINEで文字も普通に打てるし、絵文字も使いこなせるんですよ(笑)。本当に毎日LINEを送っていて、僕の移籍の話や、兄の事業の成功の話だとか、いろんな報告をするんです。それに対して母たちは「おめでとう!」って言ってくれるんですけど、僕たちは「いや、まだまだこれからでしょ」と(笑)。現状に満足することなく、そういう言葉をわざと発することで、高め合っているんです。

大哉 宏介は中学生の頃から感謝の気持ち、自分の想いを口に出すことが当たり前のようにできていました。それは本当にスポーツのおかげなんだと思います。宏介は試合を見に来てくれたお客様に最後までしっかり頭を下げてお辞儀をします。そんな姿をみて宏介から学んだことが非常に多いですね。

 

感謝の気持ちを伝える重要性

 

 

──兄弟を比較してしまう親御さんは多いと思いますが、お二人にはそんなことはなかった?

 

大哉 ないと思います。どちらかというと、母は僕と宏介それぞれの個性をしっかりと認めてくれました。否定されたこともなかったと思いますし、好きなことをやらせてくれましたね。母は今でも「二人が決めたことなら間違いないから頑張ってね」と言ってくれています。

 

──宏介選手は中学時代、サッカーを続ける中で、周囲の誘惑に引き込まれそうになったことはありませんか?

 

宏介 中学、高校時代、遊びや非行に走ってしまう仲間をたくさん見てきた中で、僕は「絶対にダメだ」と強く思っていました。それは母親にイヤな思いをさせたくなかったからです。僕のせいで母が学校に謝りに行く状況など絶対につくりたくなかった。週末に僕の試合を見に行くのが母の楽しみの一つだったと思うので、悪さをしてしまうような友達とは絡まないようにしていました。人間関係はすごく意識してたと思います。

 

──お二人は一歩先を考える癖を早い段階から身に付けられていたように思います。

 

大哉 考えなくていいことまで考えすぎた青年期だったと思います。本来であれば非行の道に走ってしまう可能性も十分にあったと思います。でも目の前の絶望と母の苦労している姿とを重ね合わせて「僕たちがもっと頑張ってこの環境を変えていこう」という気持ちになれたんです。

 

──3人で共有し、とことん話し合うことで乗り越えてきたと。

 

大哉 そう思います。何度も口に出して3人で話し合いをしてきました。母は僕たちに本音を話してくれたし、僕もそれが理解できる年齢だったので、それをしっかり宏介に伝える役目を果たしてきました。

宏介 離婚前、兄は深夜のアルバイトに行って家にいなかったので、夜は僕と母で過ごすことが多かったんです。遅い時間に何度かリビングで母親が一人で泣いている姿を見たことがありました。母に寄り添いに行くと「宏介は心配しなくていいよ」と優しい声をかけてくれて………。正直、その後親子3人で荷物を担いで家を出なきゃいけないことになるなんて、中学2年生の僕にとっては耐えがたい現実でした。それでも、テーブルも置けない狭いスペースでちゃぶ台を3人で囲んで話をしたんですよ。引っ越しをした初日だったよね?

大哉 そうだね。

宏介 「一日も早くここを出よう」って。兄は起業してお金稼いで、僕はサッカー選手になってお金を稼ぐ。そんな2人の成功ストーリーが現実となって、いつか本を出版できればいいよねって。まだまだゴールではないし、自分たち家族には目標があるんですけどね。

大哉 僕と宏介でよく言っているのは「親孝行にゴールはない」ということです。ゴールなき親孝行という言葉を僕はよく使っていて、一回とか回数ではなく、人生を通してずっと孝行をしていく。祖父母に対しても同様ですし、仲間孝行し、友達孝行し、恋人孝行し、いろんな人に対して感謝の気持ちを伝えていく。しっかりちゃんと口に出していくことをすごく意識してます。

 

──親の愛って理屈じゃないですよね。

 

大哉 子どもの頃、電車に乗ると母親に「子どもは座っちゃダメ」って教えられたんですよ。小学生高学年の時はその言葉の意味が分からなかったんですけど、成長するにつれ年配の方に席を譲ることが当たり前に思えるようになっていました。

宏介 ご飯の時の行儀だったりも母から口酸っぱく言われましたね。今でも食事中に肘を立てると怒られています(笑)。身近な友達に感謝の気持ちを伝える大事さを教わったのも母からでした。僕はスポーツ環境のなかでその理解を深めましたが、やっぱり母親が教えてくれたことが根底にあります。当たり前のことを当たり前にやる。社会に出てみると、意外にそれができてない人って多いんですよね。

大哉 感謝の気持ちを伝え合うって、スポーツをやっていると自然と身につくと思うんです。でも僕みたいにスポーツをやってこなかった人間でも、意識することで人生ってすごくよくなると思うんです。僕はスタッフによく言うんですけど、思ってるだけじゃダメだし、感謝の気持ちを行動で表わすだけでもダメで、実は口にも出さなきゃいけない。「思う」と「口に出す」と「行動する」って一つなんですよね。その3つが揃って初めて感謝になるんだとスタッフにも口酸っぱく言っています。

 

──「伝える」ことに関して、宏介選手はスポーツから学べたことは?

 

宏介 そうですね。僕がプロとしてのキャリアをスタートした横浜FCでは三浦知良選手、清水エスパルスでは小野伸二選手など、彼らが若手に発する言葉を目の当たりにしてきました。僕は本当に人との縁があって、たくさんのことを教えてもらえました。そういう人達の意見だったりアドバイスを素直に聞けたことで、ある程度自分の中で消化でき整理できていると思います。やっぱり人に伝えるって難しいじゃないですか。僕も人に伝えられるように、もっともっと追求していきたいですね。

 

スポーツは人生の縮図。愛情をもって接する意義

 

 

──スポーツは社会の縮図でもあると思います。非日常体験において、目標も作れるし、チャレンジすることもできるし、失敗することもできる。宏介選手は太田家の看板を背負って、プロのプレッシャーの中でプレーされていると思いますが、改めてスポーツで培ったチカラとは?

 

宏介 僕は太田家の看板を背負っているという意識はあまりないんです。太田家の看板をずっと背負ってきたのは兄で、ずっと先を走っている。僕はその背中を見て1歩2歩でも近づいて「追い越したい」という想いでずっとやってきました。スポーツの良い所って、どれだけ失敗してもいいことだと思います。例えばサッカーをやっていれば、今日とてつもないミスをしたとしても、次にトライするチャンスがすぐあります。失敗にくじけずに挑戦していく姿はファンの目にも映ります。いくつもの小さな壁を乗り越えて、大きな成功に至ることを実体験として経験してきました。当たり前のようにサッカーができていると思うのではなく、一人でも多くの方に勇気を与えたいと、常日頃から思ってます。

 

──感謝の気持ちを持っているということは、物事に対して当たり前と思うことは一つもないってことですよね?

 

宏介 そうですね。本当に小さいことでも感謝の気持ちというのが生まると、それがまた次のプレーだったり、普段の練習の姿勢につながっていく。それを絶対に忘れないでいきたいと思っています。

 

──結局、自分からやらない限り、成長は伴わないですよね。

 

大哉 おっしゃる通りです。仮にスポーツをやってなかったとしても、そういう姿勢を保つことができれば人は成長できる。でもスポーツがあることでそのきっかけを得やすい環境になると思うんですよね。人生の縮図がスポーツには詰まっていて、若いうちに成功したり挫折したりを経験できるのは本当にスポーツの素晴らしいところだと思います。スポーツに限らず、文化部であっても学生の時にそういう経験を積み重ねていくことが、教育にとっても大事なのかと思いますね。

 

──子どもが挫折を経験したとき、違う方に行かないようにするのも大人の役割だと思います。

 

宏介 そうですね。やっぱり子どもにとっては親っていうのが一番の存在です。僕も今、父親として子どもと接するようになって、やっぱり教育にしっかりと目を向けていきたいと考えています。

 

──子どもの教育と、社会において社員を教育していくことも似通っている部分があるかと思いますが、いかがですか?

 

大哉 愛情を持って接していくことが大事だと思うので、そういう意味では共通する部分はあると思います。愛情をしっかり伝えることで、子どもはそれを受け取ってくれると思いますし、僕の会社であれば社員もそれを受け取ってくれていると思います。

 

──大哉さんは学生時代から宏介選手がサッカーを続けられる環境をサポートされてきましたが、どんな想いがありましたか?

 

大哉 宏介がサッカーでプロになるという言葉を口に出した以上、僕は心から応援をすると決めていました。幸いにも宏介はサッカーの才能があって結果的にプロになったわけですが、例えプロになれなくても全力で応援し続けたと思います。宏介はずっと僕たち家族の希望でした。彼がサッカーする姿を僕たち家族に見せてくれることで、また前向きになれたんです。それはプロになれたからとかじゃなくて、本当に宏介が一生懸命やってる姿を見れることがありがたかったんですね。宏介は本当に親孝行だと思います。

宏介 試合を見に来てくれる時の兄は父親の顔をしています(笑)。オランダまでも試合を見に来てくれて、それがすごく嬉しんです。プレーしている姿を家族に見せることが、僕の一番のモチベーションですから。こうして現役を続けられていることは本当に幸せなことです。

 

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