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名波浩×吉田達磨×米澤一成│子どもの「個性」を育む方法とは?

 

選手の気持ちに配慮する
指導者としての思いやり

名波 サッカーをやったことがない親御さんから、子どもに「今日良かったよ」とか「こうしたほうが良かったんじゃないの?」というコミュニケーションが取りづらい、という相談をよく受けるんです。このあたりはどう思いますか?

吉田 僕も親御さんとの話の中で、よくそういう話は出ていました。僕は、自分の子どもに関わることは、言いたければ言ってもいいですし、本当に自由なことと思っています。ただ、言ったとしてもあまりいいことはないんですよね。子どもはグラウンドでコーチや友達からのプレッシャーも受けているので「家でまで話をすると、本人の心の負担が大きくなりますよ」とは伝えています。

名波 「これしか言わない」ということを決めておけばいいんですよね、きっと。

吉田 まあ、一番良くないのは、何も言わないことですかね。本当の意味のノーコメントというか。「言ったらダメな気がするから言わない」「チームに何も言うなと言われたから言わない」とか。それは少し悲しいですし、子どもにとっても良くないと思います。

米澤 僕も気をつけてください、と言っていることがあります。子どもたちが一番きついのは、帰りの車の中なんです。これは選手が言っているんですけど、一番何も言われたくない時間帯みたいです。ただ、何にも言われないというのも少し寂しいですよね。そこのさじ加減というか、距離感というのは難しいですね。

名波 指導者から見て、個性がある子っていうのはわかりやすいと思うんです。逆に、平均的な選手がいた場合に、どう評価していきますか? 例えば、どこかを少しでも伸ばそうと働きかけるのか、平均値のまま育てていくのか。そういう指導方法って人によって違うと思うんですけど、吉田さんはどうですか?

吉田 平均値であることをよしとするか、よしとしないか、というとことだと思います。すべて平均的にできるということがすでに良い点であり、チームに必要な人材ではあるんです。ただ、その子が高いレベルのところでプレーをしたいのであれば、どこかの力を抜くのではなく、すべての力を毎回出して、突出した才能を持つ仲間のサポートをしろ、というふうに指導していますね。

名波 面白いですね。僕だったら、どこかひとつでもレベルを上げようとかって言っちゃいそうですもん。

吉田 確かに言いたくはなりますね。ただ、本人が平均的であることをマイナスとして受け取って自分を卑下しているのなら、どこかを伸ばしてあげることも大切だと思います。

名波 米澤さんはいかがですか?

米澤 平均的な選手も、チームに必要であり、大切なことだと思います。僕は、光と影と言っています。例えば一点が秀でている子が光だとしたら、平均的な子は影なんです。光の子をより光らせるためには、大きな影が必要。光を引き立てようとしていくことによって、影の子もより大きくなっていくんですよ。

名波 サッカー以外の部分でも、学校という環境の中では個性を発見しやすいんじゃないか? という声もあります。

米澤 そうですね、学校はありますね。この子はこんなリーダー性があるんだな、ということとか。自分がやっている授業の時に見られることをうまく生かしていく、ということはできますよね。

 

指導を受けた環境が個性に影響する

名波 若い選手のポジションを変えて、2、3試合そのポジションで調子が出てきたとします。でも、使っていくうちにその選手がベンチからベンチ外になるということってよくありますよね。そういう選手とどうコミュニケーションをとっていきますか?

吉田 最初はうまくいっても、周りによく思われたい、というような気持ちが強くなることで、うまくいかなくなることはあります。それは誰もが通る道だと思うので、話していかなければならないと思います。

米澤 3年生でチャンスを掴んだという子にも多いです。あとは、大会が近いと、緊張感でプレーが良い方向に行く子の場合は「(この大会で活躍したら)ブレイクするから!」などと暗示をかけます。負けない、という直感がある選手にしか言えないですけどね。嘘はつけないので。

名波 個性を出せる選手というのは、育ち方や受けた指導などのバックボーンは関係あると思いますか?

吉田 あると思います。

米澤 ありますね。大きくあると思います。

吉田 親御さんと子どもさん……似ていると思いますね。家庭環境なのかわかりませんが。

米澤 生き方がサッカーに出ることもありますもんね。

名波 それがまさに個性ですしね。

 

個性が違うからこそ指導も慎重になる

名波 米澤さんに質問なのですが、高校サッカー選手権で勝ち抜くために必要なことってなんだと思いますか。そしてそのために、どんなことを選手に求めますか。

米澤 本当にたくさんあると思いますけど、どのようなチームでありたいのか、ということは大いに関係してくると思います。また、そのいろんなチームの価値観もあると思います。うちの場合はもともと女子校だったのが共学になったというのもあるので、「きちんとしていないと評価されない」という校風があります。「勝ち抜く」という点では、強い個性を持った選手が集まらないと難しいな、というのが正直なところです。ただ、個性を持っていても「チーム」にならないと勝てないとは思います。

名波 勝ち上がっていくために、モチベーションって必要なんですよね。それを目標設定としてわかりやすくするために、個性のある子達を同じ目標に向かせる難しさっていうのも、お二人は経験しているわけじゃないですか。そのあたりはいかがですか?

吉田 育成の面で言えば、プロの育成組織だともう「トップになりたい」「プロに上がりたい」と思っている子が多いので、高校選手を見ている米澤さんよりは楽だと思います。ただ、プロでいうと「出られる」「出られない」の世界なので。勝てば勝つほど面白くない選手もいるわけです。僕の場合は、そういう人のためにどれくらい良いトレーニングが提供できるか、というところが本当の勝負だと思っています。

名波 なるほど。米澤さんはいかがですか。

米澤 (試合に)出ている子、応援の子、リザーブの子と、立場がいろいろあるのが難しいところですよね。うちはチームビルディングというものに取り組んでいて、講師の先生を呼んで、外部の力を借りながら、チームを一つにしていくということにトライしています。ただ、やはり勝てば勝つほど乗っていく選手もいれば、本心で悔しいと思っている選手も多いんです。うちは「脇役が主役」ということを掲げながら、みんなで一つになるということを目的にやっていますね。

 

伸びる選手は顔に表れる

名波 子どもたちを教えていく上で、「プロの頂点はここだから、そこに向かって頑張っていこう」というのか、「プロになるのは大変だから、一つずつハードルを越えていこう」というのか、教え方としてはどちらのタイプですか?

吉田 間はなしですか……(笑)。それなら、「一歩一歩頑張れ」の方ですかね。個人的には「コツコツじゃないよ」というところもあるかもしれないですけど。

名波 米澤さんはどうですか?

米澤 僕も一個一個ですね、やっぱり。プロになることは目標なんですけど、プロになれそうな子には、「プロは目標じゃない」と言います。プロになったら目標を達成してしまうわけで。そうではなくて、いい選手になることが目標なんだ、そのために何をすればいいのかということを含めて一つ一つ進んでいこう、ということを伝えています。「プロにあることはあくまで通過点なんだよ」ということを言っていますね。

名波 お二人とも同じ答えなわけですね。なぜ僕がこれを聞いたのかというと、(UEFA)チャンピオンズリーグでプレーするくらいの日本人を意図的に育成していくためには、コーチ・指導者として何をするべきか、という質問があったんです。こういう考えを持つ親御さんがいるということは、そこを目標に教える人がいてもいいのかな、と思ったんです。これを踏まえて、先ほどの質問についてどう思いますか?

吉田 いやあ……それでも変わらないですかね。

米澤 一個一個ですかね。僕も変わらないと思います。

名波 まあ、チャンピオンズリーグに行く人も結局、一つ一つステップアップしているということですもんね。

吉田 そこは間違いないと思いますね。

名波 指導者としてみていて、「伸びていくなあ」「上手くなっていくなあ」という選手の共通点ってなんだと思いますか?

吉田 「我慢強い」というのはあると思います。あっちに行ったりこっちに行ったりせず、ブレないのは大きなポイントだと思います。

米澤 プロになっている子の共通点を聞かれたら、「人から好かれている」と答えるんですけどね。伸びている子と言われると……、うーん……。不器用な子が、何かを取得した瞬間ですかね。不器用な子が何かを得た瞬間というのは、何か点と点が繋がるというか。そういうところを見ているのは、楽しいんですよね。

名波 伸びる選手は、顔が変わってきますね。自信が表情に出るというか。

米澤 わかります。それはわかりますね。

 

チームのために動けるかどうか

名波 では最後に、プロのサッカーチームでチームとして勝ち続けるために必要な選手は、どういう選手だと思いますか。

吉田 これはとにかく、いつもベストを尽くしてくれる、また、尽くそうとする選手だと思います。監督としては点を取ってくれる選手がいつもいてくれたらいいなと思いますけど。でもやっぱり、望んだものは出してほしい、というのは監督として思いますね。こちらもそれを計算して試合に出すわけですから。自分を出すということは最低限絶対にやってほしいですね。

名波 それを言ったらプロでなくても、アマチュアでもそうですよね。

吉田 それは絶対にそうですね。

米澤 我々の教えている子は3年間しかないので、プロとの違いで言ったら「ベテラン」がいないことがあります。プロの監督としてベテランの存在感というのはどういうものなのでしょうか?

名波 ベテランのアイデンティティや持ってきたキャリアというのは、捨てがたいものがありますよね。その個性は、勝ち続けるために必要なものだと思えば(チームに)残しますし。プロも高校生と同じく3年契約や2年契約が多くなってきているので、変わっちゃう子はコロコロ変わりますね(笑)。5年間一緒にいる選手が10人いるクラブなんかほぼない。そういうことを考えると、キャリアのあるベテラン選手は重宝しますね。

吉田 (ベテランは)サッカーの指導をする必要は全くなかったですね。いいことは勝手に吸収してくれますし。確立されている選手が多いというのは、大きいですよね。

名波 なるほど。この辺で時間になりましたので、最後に今日のテーマを振り返って、一人ずつ言い足りないことがあれば、お願いします。吉田さんからどうぞ。

吉田 個性って答えのない題目だったので、なかなかリスナーの方も答えに結びつきにくいと思うんです。ただ、三人で話していて共通していたのは「認めてあげる」ということがメインだったのかなと思います。「個性を生かす」ことに関して、これを当たり前に持っている人がいる環境に身を置いていたので、そういう感覚が薄れていたんです。そういう点を改めて考えられたというのは、良い機会を与えてもらったなと思って、楽しかったです。

米澤 私も同じような感想です。今は新チームの最初でもある時期なので、二チーム持っているような感じなんですよ。「この子をもう少し伸ばしたい」と思っている時期であり、なんとか伸ばせないかというタイミングでこういうお話をいただけました。いい刺激をもらえて、もう一度考えるチャンスをもらえたな、と思っています。ありがとうございます。

名波 なるほど。個性を見出してあげるのは指導者ですが、それを認めて褒めてあげるというくすぐり方はもちろん、周りが気付いてあげることも大切ですよね。一番のポイントとしては、自分が客観的に見つけられて自己採点ができたら、より自分の個性が強さに変わってくると思います。そんな個性の見いだし方を、自分はもちろん周りが見つけてあげられたらいいな、と思いました。本日はどうもありがとうございました。

 

PROFILE

名波浩(元サッカー日本代表)

元サッカー日本代表。1972年生まれ、静岡県出身。 大学卒業後、ジュビロ磐田に入団し黄金期を築いた。 フランスW杯で10番を背負うなど、長らく日本代表も支えた。引退後は、テレビ出演やジュビロ磐田の監督を務めるなど幅広く活躍。1男3女の父。

吉田達磨(シンガポール代表監督)

1974年生まれ、埼玉県出身。東海大付属浦安高校を卒業後、1993年に柏レイソルに加入。京都、山形を経てシンガポールのジュロンFCで引退した。指導者に転身後は柏のアカデミーで育成に力を注ぎ、2015年にトップチームの監督となった。新潟、甲府の監督を経て、今年5月にシンガポール代表監督に就任。

米澤一成(京都橘高校サッカー部監督)

1974年生まれ、京都府出身。京都府立東稜高校、日本体育大学を卒業後、世田谷学園で指導者のキャリアをスタートさせる。その後、近畿大学工業高等専門学校のサッカー部監督を経て2001年、京都橘高校にサッカー部が創部されると同時に監督に就任。2012年には初の決勝に進出し、準優勝。京都橘を全国でも名の知れた強豪校に育て上げる。先日、全国高校選手権京都大会決勝で勝利し、2年連続9度目の優勝を果たした。12月31日に開幕する全国高校サッカー選手権に出場する。

 

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