つくばFC理事長である石川慎之助さんがホストを務める育成パネルディスカッション第2回。ジェフユナイテッド市原・千葉の育成普及部コーチや京都サンガF.C.育成普及部部長を歴任し、これまで延べ50万人の子どもたちにサッカーを教えてきた池上正氏、FC東京にてホームタウン活動の推進、街づくり、地域活性化を担い、さらにサッカースクールの運営をはじめとした普及活動に長く携わってきた久保田淳氏の2名をゲストにお迎えし、育成における「親子の関係」に迫る。(※2020年9月に収録)
目次
子どもの考える力は「ベース」がないと育たない
──今のスポーツの現場では「子ども達に考えさせる」ということがよく求められますが、本質的な部分に関してどうお考えですか?
池上 子ども達に考えてもらうことは、育成していくうえでは重要だと思います。30年ほど前に先輩の祖母井秀隆さんから聞いた話ですが、考えるためのベースがない子に考えなさいと言っても、何を考えたらいいか分からないんですよね。それ以来、最初にベース作りをしてから、徐々に子どもから自発的に考えを引き出せるようにしています。具体的には「他に考えられることはない?」みたいに聞きますね。ベースがあるからこそそうやって聞けるわけなので、ベース作りは大事です。今の指導現場では、「ちゃんと考えてるのか?」って大声で怒鳴っている指導者の方もいます。でも、「どうしてそう考えたの?」とか「本当はどう考えていたの?」とか、そういう聞き方をした方がいいと思います。
久保田 ベース作りは池上さんもおっしゃる通り、必要ですね。あとは、「考えること」が目的になってしまうのも良くないと思います。考えるとは判断するということです。サッカーは判断力が求められる場面が沢山ありますが、そこが楽しさでもあります。その楽しさをしっかりと認識することも大事だと思いますね。
親にとって身近な存在だからこそ、子どもが見えなくなることも
石川 私もつくばFCでは考えるということを念頭に置いてやっています。うちの子どもがスクールに来ている時、プレーを遠くから見ていたら、後で「どうだった?」って聞いてきたんですよ。結構いいポジションに立って考えていたので、中々いいプレーでした。でも、コーチじゃなく親の立場になる瞬間なので、どう言ってあげたらいいか悩みました。指導者だと褒めてあげやすいんですが、親子の立場だとサッカーならともかく、親と指導者、それぞれの立場で考える必要があります。
──指導者と親の立場は違いますよね。「親だから、指導者も気づけない子どもの変化に気づくはずだ」という意見もありますが?
池上 私の娘もサッカーをやっていて、そのチームを3年くらい教えていました。私が行くと、周りの女の子たちは「まりちゃんのお父さん来た」って皆言うんですよ。コーチではなくて「まりちゃんのお父さん」として指導していました。だからといって娘と他の子が違うってことはありませんけどね。親と指導者で比べたら、親の方が細かいことに気づかないと思います。親は毎日一緒にいて見慣れてしまうから。それに、相当先のイメージを持ってしまうから「どうしてそんなことが出来ないの?」と、マイナス目線にばかり目が行ってしまう。それで、いつまでも出来ない子どもを見るのが嫌で、見にいくのをやめたっていう親も多いですね。でも指導者は見るのが週一、二回しかない分どうしたら変わるかな、どんな風にしてあげたら良くなるかな、と考えています。だから、「今日はなんかちょっと違うぞ」とか「これが出来るようになってきたな」みたいに、間違いなく日々の変化を見つけられるんです。そこの違いは多分にありますね。
久保田 私も娘がいてサッカーをやっていたんですけど、結論から言うと私ダメでしたね(笑)。サッカーしていた時、池上さんがおっしゃっていた様にマイナス目線で見てしまって。もっとこうしなよ、ああしなよ、と言ってしまいました。あと、娘が「将来なでしこの代表になりたい!」って言ったら「もっと頑張らないと。今のままじゃ全然ダメだよ」みたいに厳しく言ってしまったこともあります。身近な分マイナスに見てしまったり、見えなくなってしまったのかなと、実体験として思いますね。体を動かすのが好きな子でダンスもやっていたので、最終的にはそちらの道に進みました。サッカースクールのコートで一週間会うなかで、コーチ達の会話も聞こえてきます。挨拶の時に元気がない子どももいて学校で何かあったのかな、と気にかけているコーチも多いようです。親御さん以上にコーチ達のほうが気づきやすいのかなと思います。
親の感情移入は、子どものストレスに
──親はどんなサポートや関係性が適正なんでしょうか?
池上 ジェフやサンガでスクールをやっているんですが、その時に「親御さんは子どもを送ったらすぐに帰っていただくスクールにしたいんですけど、どうですか?」ってお母さんたちに聞くんですよ。そうすると半分以上の親が「どうしてそんな冷たいことを言うんですか?」と言うので「見ない方が幸せですよ」って話をします(笑)。子ども達は自分なりに楽しんでいますが、それを見ていると親は「どうしてあそこで追いかけないの?」とか「あんなボールも取れないの?」とか、マイナス面ばかりを見てしまう。だから、帰りの車の中も暗い時間を過ごすことになります。でも見なかったとしたら、「今日は2点も入れて楽しかったよ」みたいに嘘をつくこともできるわけですよね。子どもの楽しむ時間を大切にしてあげるなら見ない方がいいんですよ。
──親が感情移入し過ぎる、気持ちが入り過ぎるということですよね。
久保田 FC東京のアカデミーダイレクターの奥原崇君と話しているときに、同じ話になりました。お父さんの方からアドバイスを求められたときに「お父さん、一か月お休みしましょうか」と話したそうです。もちろん関わるのがすべてダメというわけではありませんが、見ないのがプラスになることもあるんですよね。お休みした後にまた見て、それから考えればよいと思います。
──池上さんが前におっしゃっていた「家に帰ってきて親とやるのは遊びでなければいけない」というのが印象に残っています。
池上 やらなければならない、となるとそれはストレスになりますよね。今の子ども達の特徴は、正解を知らないと不安、正解を見つけたい、聞きたいと思う気持ちが強くて、不安だらけなことです。でも「遊び」なら失敗しても笑えるし、友達から何か言われても大丈夫。そういう環境が家ではあってほしいなと思います。実は私の娘もピアノをやっていて、すごくいい先生に出会ったんですよ。ピアノを一切練習せずに行っても「じゃあここで練習しよう」と、その先生は受け入れてくれました。「ここでピアノが楽しめればいいよね」と言ってくれるので、娘はその先生のところでピアノを弾くのが楽しかったでしょうね。だから、そういう遊びの部分は大切です。夢中になって遊んでいるときは指導者の声も聞こえなくなるから言っても終わらないし、いつまでもやっている。そんな時間を送ってほしいなと思います。「家でサッカーの練習しないんですよ」と親御さんからよく相談されますが、「家でやらなくてもいいんですよ」と話します。楽しく遊んでいて、やりたいと思ってくれた時にやればいいんです。でも親はもっと上手くなってほしい、もっと真剣にしてほしいと思ってしまう。
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