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【#01】鈴木義幸│「パーパス」がもたらすマインドセット<前編>

日本で最初に「コーチング」を持ち込んだ日本最大のコーチングファーム「コーチ・エィ」の代表を務める鈴木義幸氏。課題の複雑化、ダイバーシティ(多様性)、イノベーションの必要性が求められる現代社会において、人の主体性に働きかけるアプローチは必要不可欠だ。200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを行い、企業の組織変革を行ってきた鈴木氏が、スポーツの領域を例にコーチング・スキルを連載形式でお届けする。

 

スポーツを続けられる理由

スポーツを続ける理由を振り返ってみると、始めた当初、特に子どもの頃は、やってみて、少し結果が出て、他人からほめられたり、自分で成長を実感できたりして、それが楽しくてやり続けるというサイクルができていた人がほとんどではないでしょうか。これは、行動心理学でいうところの、ポジティブ・レインフォースメント(positive reinforcement)、つまり「正の強化(肯定的刺激を受けることによって行動が継続すること)」が働いている状態です。逆に、やってみて結果が出なかったり、ほめてもらえなかったり、成長が実感できなかったりすると続かない。そう単純ではないこともありますが、割と広く適用される法則だと思います。

 

目標をもつことの意味

さて、正の強化によって、ある程度のレベルまでは成長が牽引されますが、やがて、簡単には技術が伸びないという段階になります。そうなると当然、ただやっているだけでは肯定的な刺激を得ることが難しくなります。継続のための刺激がない。おそらく誰しも経験があることではないでしょうか。

そうすると、私たちは目標をセットします。目標が、継続のための行動を喚起し、意欲を引き立てくれるからです。つらくても、大変でも、何とかその目標を達成するまでは!

ですから、指導者は目標を選手に課そうとしますし、選手本人も目標を掲げようとします。前に進むために。

・今年の大会でベスト8に入る。

・このタイムを切る。

・誰々に勝つ。

さて、仮にその目標を達成したとすると、次の目標設定が必要です。一つクリアしたのですから、同じ目標を設定するわけにはいきません。ベスト8を達成したら、来年はベスト4だということになる。もう一度ベスト8というわけにはいきません。

 

どんどん高い目標をクリアしていければいいですが、残念ながら、必ずしも結果が出るわけではありません。

こうして、目標を達成したり、しなかったりしているうちに、最初のうちは新鮮なモチベーターとして機能していた目標も、「動力」を失い始めます。当初は「ベスト4に入るぞ! おー!」と盛り上がっていたのに、目標達成できない状態があまりに長く続くと、せっかくの目標も、行動を喚起するものとしてあまり機能しなくなる。「来年、もう一度ベスト4に挑戦するかー」みたいな感じになってしまいます。

 

目標の先には何があるのか

非常に高い目標を掲げて(たとえば、全国大会で優勝する、金メダルを獲得する、など)、「何が何でも、その目標を達成するまでは」ということもあります。高い目標であるが故になかなか達成できないけれど、「何が何でもその目標に到達する」という思いで、長い期間がんばり続けられる。しかし、その目標を達成した瞬間に、次に登る山が見つからなくなってしまう。全精力をそこに傾けて精進してきたが故に、陥りやすい状態と言えるかもしれません。

以前、あるプロゴルファーの方とお話しさせていただいたときに、その方からこんな話を聞きました。

その方は、プロテストに受かったその日に、〇〇勝を達成すると誓いました。そして、その決意を紙にしたため、壁に貼り、来る日も来る日もそれを見て、必ず〇〇勝成し遂げる、と自分に誓っていたそうです。そして、何年か経って、彼は実際にその目標を達成しました。とてつもない努力をし、自分を磨き上げ、到達した〇〇勝。

しかし、その後、彼は、文字通り目標を見失いました。次に何をしたらいいかわからなくなったのです。典型的な燃えつき症候群。自分を元の状態に戻して、また再びゴルフができるようになるまで数年かかったとおっしゃっていました。

多くの人が、ポジティブ・レインフォースメントで立ち上がり、目標で牽引され、しかしその後、目標だけではもう自分を前進させることができないというフローを経験します。結果、せっかく始めたスポーツであったり、楽器であったり、趣味であったりを、残念ながら途中で投げ出すということになります。

では、継続的に、楽しく取り組み続け、そして成長に向けて鍛錬し続けるには、ポジティブ・レインフォースメントと目標以外に何が必要なのでしょうか?

 

01後編に続く

PROFILE

鈴木 義幸(すずき よしゆき) | 株式会社コーチ・エィ代表取締役社長
慶應義塾大学文学部卒業後、株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務。その後渡米し、ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、コーチ・トゥエンティワン設立に携わる。2001年、株式会社コーチ・エィ(http://coacha.com/)設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月より現職。
200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施し、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコース『現代経営応用研究(コーチング)』をはじめ、数多くの大学において講師を務める。20年ぶりの大改訂版を上梓した『新 コーチングが人を活かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)他、『コーチングから生まれた熱いビジネスチームをつくる4つのタイプ』『リーダーが身につけたい25のこと』(ディスカヴァー)『新版 コーチングの基本』(日本実業出版社)など著書多数。

 

【スポーツに学ぶビジネス・コーチング /鈴木義幸~back number~】

【#01】鈴木義幸│「パーパス」がもたらすマインドセット<前編>

【#02】鈴木義幸│コーチの視点で考える「相手のエキスパートは相手」<前編>

【#03】鈴木義幸│スポーツチームにみる「幹部チームのつくり方」<前編>

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