COLUMN

【スポーツに学ぶビジネス・コーチング 鈴木義幸 ♯01】
「パーパス」がもたらすマインドセット
―後編―

日本で最初に「コーチング」を持ち込んだ日本最大のコーチングファーム「コーチ・エィ」の代表を務める鈴木義幸氏。課題の複雑化、ダイバーシティ(多様性)、イノベーションの必要性が求められる現代社会において、人の主体性に働きかけるアプローチは必要不可欠だ。200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを行い、企業の組織変革を行ってきた鈴木氏が、スポーツの領域を例にコーチング・スキルを連載形式でお届けする。

#01 前編はコチラ

 

WHYは強力な動力となる

それが「パーパス」です。「目的」と言ってもいいのですが、単なる個人としての目的ではなく、社会に対する貢献という意味も含んだ社会的存在意義。それを「パーパス」と表現しています。

人は社会的な生き物ですから、好むと好まざるとにかかわらず、社会の中で、他の人と関わり合いながら生きています。相互に影響し合いながら生きている。無意識の内に、自分が社会の中で認知される存在であるかどうかを日々確認しようとしています。

ですから、自分のやっていることが、社会の中でどのような存在価値、意義を持っているのか、それが明確になると、非常に強いモチベーションがその人の中に喚起されるのです。

パーパスは、自分がやっていることに対して強力な意味付けを与えてくれます。「何のために、誰のために」、今、自分はそれに取り組んでいるのか。WHYは、強力な「動力」となるのです。

 

オールブラックスと日本代表に共通するパーパス

ラグビーのニュージーランドの代表チーム、オールブラックス。1903年から2017年までの566回の国際試合で、他の国の代表チームとの戦績が勝率77%という驚異的な成績を残しています。4試合の内3試合は勝っているわけですから、とんでもなく強い。

『問いかけ続けるー世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範ー』(ジェイムズ・カー)という本によると、オールブラックスに加入した選手はまず問われるそうです。「オールブラックスの一員であることの意味は何か?」と。さらに、「ニュージーランド人であることは何を意味するのか?」と。強力に、その社会的、地球的存在意義を問われる。

その目的がはっきりしたところで、「ワールドカップ優勝」などの目標が付いてくる。個人のポジティブ・リインフォースメントはさらにそのあとです。

元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊郎さんから聞いた話ですが、オールブラックスの選考基準のトップは、「いい男であること」だそうです。ラグビースキルはその次。「いい男である」とは、自分に酔いしれるという意味ではなく、「周りを励まし、周りを活かし、周りを良くすることができる人」を意味します。パーパスが明快でない人が、そのレベルでいい男であるのは難しいでしょう。

この廣瀬さんと対談した際に、なぜ日本代表は、2015年のワールドカップでの南アフリカとの試合で、「ブライトンの奇跡」とまで言われる勝利を手にすることができたのか、2019年に日本で開催されたワールドカップで、なぜベスト8に入ることができたのか、その理由を尋ねました。

すると、廣瀬さんからは間髪入れずに「目的について話したことですね」と返ってきました。「何のために勝つのか」をみんなで話して言葉にしたことではないかという。あの大男たちが、ひざ詰めで、パーパスについて話をする。話しをする中で、「憧れられる存在になろう」という言葉が出てきたと廣瀬さんはおっしゃっていました。

子どもたちから、ラグビーをやっている人たちから、多くの人たちから、「憧れられる存在」になる。それが言葉として共有されたとき、どんな苦しい練習にも耐えられるマインドセットが整った。

 

パーパスがもたらすもの

パーパスが、「今」に強烈な意味を与えます。パーパスが明快であれば、日々のちょっとしたらつらい出来事も、自分の未来に向けて「取り込んで」いくことができます。ミスをする、試合に負ける、仲間と意見が合わず対立する。自分の中で、「こんなはずじゃなかった」「なんでこんなことになったんだ」、そんな内側の声が起こるような事象を私は「どくろマーク」と名付けています。「どくろマーク」が出たときに、いつまでもそれを自分の中で抱え込むのではなく、いち早くその「どくろマーク」に自分なりの意味を与え、未来に向けて取り込むこと。それこそが、切り替えの早さと言われるものです。

パーパスが明瞭だと、そのパーパスに紐づけて、大抵の「どくろマーク」に意味をつけることができます。「試合に負けた。でもそれは、このパーパスへのプロセスだ」。「どくろマーク」はいち早く意味づけされ、未来への糧となります。

だからこそ、指導者は、とにかく何よりもまず、パーパスについて選手と話した方がいいと思います。丸くなって、「我々は何のために勝とうとしているのだろうか? 何のためにうまくなろうとしているのだろうか? 何のためにこのスポーツをやっているのだろうか?」

問いを間に置いて、話をする。結論なんかでなくてもいいから、話し続ける。それぞれが思い思いのことを言う。話し続け、考え続ける。

たとえ「何のため」かが言葉としてアウトプットされなくても、これは社会の、誰かの、何かのためになっているんだ、という思いが生じ、それが「今」を強くすることにつながります。スポーツの現場だけではありません、仕事の場でも、教育の現場でも、医療の現場でも、間違いなくパーパスについて話した方がいい。

「このためにやっているんだ」と、リーダーがメンバーに伝えたからといって、それはパーパスではありません。なぜなら、それはリーダーの考えであり、メンバーにとっては自分事にならないからです。

「何のために」という問いを間に置いて、そこに集う全員で話す。

話し続けるのです。

最後にこのコラムを読んでいるみなさんに問いかけましょう。

あなたの、そして、あなたのチームのパーパスは何でしょうか?

 

02に続く

PROFILE

鈴木 義幸(すずき よしゆき) | 株式会社コーチ・エィ代表取締役社長
慶應義塾大学文学部卒業後、株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務。その後渡米し、ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、コーチ・トゥエンティワン設立に携わる。2001年、株式会社コーチ・エィ(http://coacha.com/)設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月より現職。
200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施し、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコース『現代経営応用研究(コーチング)』をはじめ、数多くの大学において講師を務める。20年ぶりの大改訂版を上梓した『新 コーチングが人を活かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)他、『コーチングから生まれた熱いビジネスチームをつくる4つのタイプ』『リーダーが身につけたい25のこと』(ディスカヴァー)『新版 コーチングの基本』(日本実業出版社)など著書多数。
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