/column/35166/

COLUMN

COLUMN

【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<後編>

マクドナルドやメルカリ、SHOWROOMで組織づくりを主導し、組織開発の体系化=「カルチャーモデル」の設計方法を紐解いた『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』を上梓した唐澤俊輔氏。事業と組織を急成長させてきたスペシャリストが、スポーツチーム運営の示唆を受け、ビジネスにおける組織文化の作り方について連載で論じていく。

 

#03前編はコチラ>

 

監督というトップマネジメントの難しさ

 先ほど、「社長が一人で行動しても変わらない」と書きましたが、「メンバーや中間管理職から取り組む方が難しい。社長か、せめて役員にならないと、組織は変えられないのでは?」というご意見もあろうかと思います。もちろん、トップが「変わろう」と思わないと組織は変わらないのですが、「トップだけ」では変えられないのもまた事実です。

 名波さんは、「知ってる選手を『工作員』にしている」という面白い表現をされていました。監督になると、「選手の頃には把握できていた情報が入ってこなくなった」と感じたそうです。ジュビロ磐田で選手をやられた上で、同じチームで監督をやられているので、クラブの内情や人間には精通していたそうですが、それでもやはり情報が入りづらくなったという話です。

 

孤独なだけでは組織を率いることはできない

 だから、現役時代からの人間関係などを活用して「工作員」となってもらって、その人から情報をもらっていたんですね。「J1、J2で40クラブありますけど、JリーグOBのなかで一番いろんなクラブに工作員がいる人間だと思っています」とまで言われていて(笑)、聞きたいことがあったらすぐ電話するそうです。そうすることで、監督に情報も集まってくるし、同時に工作員であるメンバー経由で、監督の考えや意思決定の背景などを伝えてもらって、チームを一つに方向付けるための雰囲気づくりにも貢献してくれます。

 こうやって、チームの中で中核となっていたり、周りへの影響力があったりする人材を味方につけ、工作員となってもらって組織を変革していく。これはビジネスの現場においても、とても大切な視点です。ビジネスの世界でよく「リーダーは孤独だ」と言いますが、厳しい意思決定を自らが断行するという意味では確かに孤独です。しかし、孤独なだけでは組織を率いることはやっぱりできなくて、仲間をつくって組織全体を導いて行かないといけないんですよね。

 

シチュエーショナル・リーダーシップ理論とは?

 最後に、仲間を巻き込みながら組織づくりを推進する上で重要となる、コミュニケーションの方法について考えたいと思います。名波さんは、「パーソナリティによってアプローチを変えないといけないと思っています。頭ごなしでガツンと言っても耐えて向かってこれる選手、シュンとなってパフォーマンスに影響してしまう選手、人によって対応を変える必要がある」と言われています。ご自身のことを、「こっちにいく」と自ら方向を打ち出す「カリスマリーダータイプ」だと表現する一方で、相手によってコミュニケーションスタイルを変えてもいるわけです。

 これは、ポール・ハーシーとケネス・ブランチャートが提唱した「シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)」というマネジメント手法と通ずるものがあります。SL理論とは、部下の発達度に合わせてリーダーシップのスタイルを変えようという考え方で、具体的な指示を出す度合いと、支援的な行動をする度合いとの高低でリーダーシップスタイルを整理するものです。部下の発達レベルが低い段階では、具体的に指示を出すことで、部下の行動を促してゆきます。一方で、成長し独り立ちしているようなメンバーに対しては、指示を減らして任せてゆくイメージです。

 

相手に合わせたコミュニケーションが強い組織をつくる

 SL理論の4段階をここでご紹介します。まず、指示を具体的に出し実行することに専念する「指示型」(S1)から始まり、指示的行動と共に支援的行動もしながら部下の考えを引き出し導いていく「コーチ型」(S2)へと進みます。そして、自ら考え行動できるようになってきたら「援助型」(S3)へと移行し、指示を減らして支援だけをするスタイルを取ります。最後は、指示も支援も減らして、本人の自発的行動へと任せていく「委任型」(S4)のスタイルへと移行するのです。

 

 

 このように、相手に応じたコミュニケーションがビジネスでは欠かせないわけですが、スポーツチームのマネジメントにおいても、相手のパーソナリティによってコミュニケーションスタイルを変える必要があるということを、名波さんは言われているんですね。

 スポーツチームというと、監督やキャプテンのカリスマ性が全てで、そのリーダーシップやキャプテンシーといったものに、メンバーが全員でフォローしていく、というトップダウンの印象を個人的には抱いていました。「俺(私)の背中についてこい」というタイプのリーダーシップです。中学や高校時代の当時の部活動から印象を受けているのかもしれません。部活動で優勝を目指すような強いチームほど、そうした強いリーダーシップで動いている印象がありました。

 プロスポーツチームといえば、その最高峰かと思いきや、むしろ反対だということです。個性豊かなトップタレントが揃うチームだからこそ、対話を重ね、相手に合わせたコミュニケーションをとりながら、チームを一枚岩となった強い組織に育てていくことが欠かせないのだなと感じます。

 

―#04に続く―

 

PROFILE

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ) |  Almoha LLC Co-Founder COO
慶応義塾大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者) 2020年より、Almoha LLCを共同創業。グロービス経営大学院 客員准教授。自身の経験をもとに「組織カルチャー」の可視化、言語化という難題に挑み、組織・経営課題の解決策を提示した『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓。

 

【スポーツ運営に学ぶ カルチャーモデルと組織づくり/唐澤俊輔~back number~】

【#01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<前編>

【#02】唐澤俊輔│ビジネス×スポーツに見る「カルチャーモデルの4類型」<前編>

【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<後編>

【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <前編>

ここから先は会員限定コンテンツです。
アカウント登録をしてください。
今ならプレミアム会員に新規登録で14日間無料!
アカウント登録 ログイン

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。

RECOMMEND