トップアスリートは「メンタルが強い」とよく言われる。あらゆるマイナス要素を自分の力に変え、困難に打ち勝つ姿は見るものに感動を与えてくれる。しかし、生まれつき強靭なメンタルを持ち合わせている人間などこの世に存在しない。彼らアスリートが、いかに勝負の世界で戦えるメンタルを身につけたかを知ることで、強い心を育むヒントがつかめるだろう。今回は、のべ2万人ものアスリートに研修を行ってきた坂井伸一郎氏に、メンタルトレーニングに重要なコミュニケーションの捉え方、取り組み方をお伺いする。さらに、国内最高峰の舞台Jリーグで戦ってきた橋本英郎氏、育成現場で活躍する若山聖祐氏の経験談を交え、メンタルを強くするメカニズムを紐解く。
目次
試合中に自分のミスを探さない
──サッカー選手は結果次第で実力に対する評価も変わってきますよね。結果を気にし過ぎてしまう子も多いと思います。橋本さんの選手時代はどうでしたか?
橋本 小学校時代の僕は自己中心的な部分があって、自分にとってネガティブな内容は相手のせいにしていましたね。トラップミスをコーチに注意されても、パスが悪いと考えていました。「自分が悪いから言われているんだ」という認識に変えられたのは、中学に入ってからのことです。そこからは動き方も変わりましたね。
──森重真人選手(FC東京)も「その場では自分のミスと思わないようにしている」と言っていました。後で反省はするものの、その瞬間はミスしたと思わない。
橋本 僕も試合中はそういう風にしています。ミスを自分の責任と思うと、どんどんネガティブになって、自信を失ってしまうためです。でも練習では、自分のパスが悪くなかったか、受けた時のトラップが悪くなかったか、と自分のミスを探します。そうすることで「じゃあどういうパスを出したらいいかな」と改善につなげられます。そういう視点が大事ですね。
──若山さんは長年の指導経験をお持ちですが、最近のジュニアを見てどのように感じますか?
若山 20年ほど指導現場に立っていますが、ここ数年でも変化を感じます。間違いなく技術レベルは上がっていますね。ただ、起こった事に対して深く考えすぎて、ネガティブに捉える真面目な子も増えています。言い方は悪いですが、ちょっと昔の子のほうが自己中心的、ポジティブに捉えられる子が多かったと思います。
「分からない」がメンタルを弱くする
──真面目であることが悪い方向にも転がってしまうのですね。坂井さんは、メンタルに関してどのような理論をお持ちですか?
坂井 僕の基本的な考え方は二つあります。一つは、メンタルは人間の身体でいう眼球みたいに、鍛えるのが難しいことです。鍛えるよりも上手く付き合う、上手くコントロールする、そういうものだと思います。もう一つは、「分からない」がメンタルを弱くすることです。多くのアスリートに関わってきましたが、その二つでおおよそ説明がつきます。
──「分からない」がメンタルを弱くする、という部分について詳しくお聞かせください。
坂井 最近は知るべき情報が増えすぎている上に、コーチングでは様々なことを指導者に問いかけられます。「自分は知らないことが多いんだ」「自分は分かっていないな」と現実を突きつけられて、自信を失ってしまうのです。トップレベルの選手も含めて、コミュニケーション面のコーチングで迷いが生じることは往々にしてあります。橋本さんや若山さんの現場では、どう思われているか聞いてみたいところです。
若山 私の場合はジュニアなので、まず「分かっていなくて当然」というラインからスタートします。ティーチング(一方的な教育)やコーチング(対話的な指導)の割合が学年によって変わってきます。ティーチングばかりに偏ると、自分だけで物事を考えられなくなってしまう。かといってコーチングに偏ると、坂井先生のお話の通り、問いかけによって「分からない」を突きつけられてしまう。子どもには自分で考える習慣を身につけてほしいですが、ティーチングとコーチングの比重を調整するのは難しいですね。
橋本 プロの世界でも、コーチングで「これどうだった?」という聞き方を耳にします。確かに、これがプレッシャーになっている部分はあると思いますね。分かっていなくても、個の能力が高くて感覚的に上手くいく選手はいます。その選手がプロになって「分かっているでしょ?」という体で聞かれると不安にもなる。そもそも考えてきていないから、その形式の質問をされるのが苦手なのです。去年ガーナ人の選手を指導しましたが、感覚で上手く動けるタイプの子でした。「これをやって」と明確に答えを提示すれば、そこへはたどり着ける。でも考える習慣がないから、答えのない質問には困っていましたね。指導者のライセンス講習で「答えを言い過ぎないように」と言われましたが、これから自分が教えていく中でも各選手に合わせた育成が必要だなと思いました。
坂井 相手によっても、シチュエーションによっても変わってきますよね。まさにメンタルは個性そのものだなと思います。勉強になりました。
自分の体験だけに頼り過ぎず、相手に関する情報のバージョンアップも必要
──コミュニケーション力の向上やメンタルの強化を実現するうえで、相手の立場になって考えることが大事ですよね。一人ひとりにあわせて向き合う必要があるので、今の指導者は大変だなと感じます。
坂井 国際コーチング連盟の資格勉強時に教わったのですが、自分の体験から共感を生んで相手を理解する手法があります。たとえば、階段で転んだ時に感じた痛みを呼び起こして「痛かったね」と相手に共感する。ただ、それに頼りすぎると相手が本当に欲するものが分からなくなりがちです。それに、相手の体験と自分の体験がリンクしなかった場合、上手くいきません。だから、「本当に考えている事は何だろう」と相手を知ろうとすることも必要になってきます。自分の体験をベースにした判断力の磨き上げと、相手に関する情報のバージョンアップを行ったり来たりするのが重要です。
──大人数の子ども達を見るうえで、個々の性格や特徴を整理していく必要がありますよね。ただ、様々な要因で変わってくるので、決めつけすぎると不整合が生じるということですね。
若山 指導現場だとドンピシャでありますね。担当学年のコーチが見ている景色と、別のコーチが見ている景色は全然違います。もちろん、スピードやキック力、飲み込みの早さなど、コーチが選手一人ひとりの特徴を把握するのは大前提です。でも、同じコーチがずっと見ていると固定観点が生じて、決め過ぎてしまう。そうならないように、うちのクラブでは学年を問わず顔を出すフリーの巡回コーチを配置しています。高学年寄りが多いですが、私も色んな学年に顔を出します。いつものコーチの視点だけでなく、巡回コーチの視点が入ることでプラスに働くことは多いですね。
坂井 特に若山さんが指導されている子どもの世代だと、化けますよね。
若山 一週間、すごい時は一回の活動だけで驚くほど変化する場合もありますね。私がジュニアを指導しているのは、その変化が一番すごいと感じたことが大きいです。ジュニアユースもユースも指導は経験してきましたが、ジュニアの変化が一番大きいと感じます。責任も大きいですが、指導者としての楽しさもすごく感じますね。
他競技の良い部分を積極的に取り入れる
──橋本さんはスクールの経営者でありながら、指導者ライセンスの講習も受けていますよね。
橋本 今は大学で非常勤講師もやっていて、ピッチではなく授業の中で生徒と向き合うことがあります。ただ、僕は引き出しがまだ少なくて、学生に迷惑をかけている不安がありますね。たとえば、皆に分け隔てなく同じようなことを言っていると、ポジティブに受け取る人もネガティブに受け取る人もいる。だから、教える側にも引き出しが必要だと考えています。引き出しがあれば、生徒に合った言葉のかけ方ができますし、ネガティブな気持ちにさせずに済みます。
──指導者も親御さんも、日々知識や経験のアップデートが必要ですよね。
坂井 すごく重要ですね。有名なビジネス書「7つの習慣」では、「パラダイム」という話が出てきます。要は、我々は先入観の色眼鏡をかけていて、それに気付かないと選択肢や引き出しが増えません。現代の指導者や親、私のような研修講師には、自分の守備範囲を広げることが求められていると思います。
──サッカー選手であっても、ほかのスポーツから学べることはありますよね。
坂井 僕はスポーツ指導現場の門外漢ですが、お客様に野球選手が多くいます。以前、プロ野球選手に「グローブを手に付けずに走ったほうが速いのに、なぜグローブをはめたままボールを追いかけるのですか?」といった質問をしました。当たり前ですが、陸上の選手はグローブを付けませんよね。「何を言っているのだろう」みたいな顔で見られましたが、先入観を取っ払うことで新しいプレーや戦術が生まれることもあります。自分達がいる枠を常に意識しながら、そこから少し出る。スポーツに限らず、そんなことが求められる時代だと思いますね。
橋本 共感する部分が多いですね。小さい頃に色んな競技をやっておくと、色んな発想を持って成長できます。たとえば、バレーやバスケットをやることでジャンプのタイミングが取りやすくなり、ヘディングの上達につながるでしょう。逆に、サッカーをやることで野球のフライの落下地点を上手に読めるようになるはずです。サッカーのステップワークに、陸上の走り方を取り入れてもいいと思います。他競技から学べることはすごく多いのです。ただ、実際には「サッカーはこうだから」と決めつける人も多くいますね。
若山 橋本さんのお話の通り、指導現場でもプライドが邪魔をすることは多々あります。「サッカーは俺らのほうが知っているから」という感じです。ただ、走ることに関しては陸上のコーチに勝てる気がしません。だから、僕はそのプライドは捨てて、毎週木曜日に40分くらい、陸上のコーチに走りのトレーニングをお願いしています。実際、それで速くなっていますね。他競技の良い部分を積極的に取り入れることは、すごく大事だなと現場レベルでも感じています。
坂井 この前、内田篤人さんと三笘薫選手(プレミアリーグ・ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFC)がニュース番組でドリブルについて対談していました。そこでも陸上の話が出ていましたね。100メートルの陸上選手でもインサイドで踏み出さずにつま先で出ていく、みたいに具体的な話でした。
若山 三笘選手の奥さんが陸上の方なのですよね。走り方がやはり綺麗だなと思います。
橋本 股関節の使い方が特徴だと聞きました。
坂井 なるほど。それはアドバンテージですね。
大人にも成長のチャンスがある
──素直に羨ましいですね。小さい頃に経験していないと、後からは足が速くならないと思います。
橋本 いけますよ(笑)。久保建英選手(ラ・リーガ・レアル・ソシエダ)も、中学・高校の頃に比べて明らかに足が速くなっています。ドリブルのスピードも上がっている。重要なのは取り組めるかどうかだけで、大人になってからでも向上できるはずです。
若山 岡崎慎司選手(ジュピラー・プロ・リーグ・シント=トロイデンVV)も、陸上のトレーニングを取り入れていますよね。トッププロの方が取り入れているのを見て、「これジュニアにも必要なんじゃないかな」と思い始めました。
──岡崎選手の走りを指導された杉本龍勇さんに相談してみます(笑)。色んなものを整理して取り入れることは必要ですよね。若山さんの指導現場でも、他競技の要素を取り入れることはありますか?
若山 ある選手がコンタクト(接触)を怖がっていました。体幹があまり強くなくて、少し当てられるだけで怖いのです。それで親御さんに相談をいただき、柔道を取り入れることをおすすめしました。明らかに変化があって、びっくりしましたね。実際に強くなって、怖がらなくなって、サッカーのプレーも変わってきました。柔道大国フランスのジダンさんも柔道をやっていたと聞いています。
坂井 メンタルだけに焦点を当てたトレーニングも大事ですが、間接的に強くすることも大事です。そのケースでは、メンタルトレーナーではなく、柔道がメンタルを強くしてくれたのですね。子どもを課題解決へと正しく導けばメンタルもついてくる、といういい例だと思います。
──まさに、坂井さんが事前に挙げていた「人に焦点を当てる」ということですよね。若山さんが実践されていることも、一人ひとりをしっかり見て、問題を解決に導くことです。それがメンタルを強くすることにつながるのですね。
坂井 そうですね。何が何につながっているのか、その理由はどこにあるのか、といったことを見てあげる必要があります。今の例でも、「自分はなぜコンタクトが怖いのだろう」「なぜ当たられるとひるんでしまうのだろう」と、分からなさがメンタルの弱さにつながっていました。そこに対して「柔道ではこういう風にしているんだ」と学ぶことで、「分かる」が増えてメンタルの問題が解決していく。プロでも同じことがいえると思います。
若山 指導現場だと、サッカーの中だけで解決しようとする人がいます。サッカーにも解決策はありますが、指導者は「気持ちが弱いからだ」という結論にたどり着きがちです。もちろん向かっていく気持ちの強さも大事ですが、それだけで片付けてしまうと、なかなか飛躍のチャンスをつかめません。ジュニアの指導現場でも多々ありますね。
相手の一挙手一投足に集中しながら聞くことも大事
──気持ちが優しい子は遠慮してしまい、今ひとつ自分を出し切れないことがあると思います。若山さん、トリアネーロではそのような場面はありますか?
若山 トリアネーロでなくても沢山いると思います。先ほどの柔道の子は、まさにそういう子でした。能力に自信がない、恥ずかしい、主張ができない子には色んな理由があります。そこで、自分を表現できる機会を設けるのが効果的です。うちのクラブではダンスプログラムを取り入れて、各自に発表してもらっています。僕もいざ踊れと言われたら恥ずかしい。そういう経験を積み重ねることで、実際に変化する子は沢山いますね。
坂井 すごく効果的だと思います。カラオケも、最初はなかなか歌えないけど、一曲歌えるとすぐに次を入れたくなる。一度発露させると、表現方法が分かるようになるケースは多々あります。先ほどのお話にもありましたが、自分の見立てを押し付け過ぎず、相手の立場になることが大事です。自分を表現する子ばかりではなく、覆い隠して平気な顔をする子もいます。すべての子に、自分の成功体験を押し付けても上手くいきません。相手に焦点を当てて状況を把握することが重要です。
──坂井さんは、事前のヒアリングで「集中的傾聴」というワードも挙げていますね。
坂井 テクニカルな話です。指導者や研修講師は、他人の話を聞く時に「この手の話はきっとこういう原因だから、この話をしてあげよう」と、相槌を打ちながら返しを考える。それが一概に悪いというわけではありません。ただ、「この話をしたら耳が赤くなってきた」「身振り手振りがここから始まった」「言葉を選んで慎重に話し出した」と、相手の一挙手一投足に集中しながら聞くことも大事です。心の中で本当に思っていることが見えてきます。
橋本 実際には難しいなと思います。僕はできていないな。決め付けまではいきませんが、ヒントが何なのか分からないこともありますよね。言葉と態度に違和感を覚えることはあっても、「その真相は何や」となってしまう。あとは質問力になるのかな。何か聞き出したくても、いい質問が見つかりません。
坂井 今度、意識してみてください。少し意識すると、意外にできるようになりますよ。たとえば、先ほど橋本さんがミュート入れたのを僕は見逃しませんでした(笑)。サッカーも同じで、相手の一挙手一投足に集中することで、コミュニケーションの視野が広がります。
橋本 ちょっと重たい話をする時とか、目線とかは感じ取れます。ただ、それが何を意味しているのかまでは分からないことが結構あります。プレーの選択は分かるようになりました。迷っている様子や吹っ切れた動き出し、会話の受け答えとかで総合的に判断できます。でも、分野が変わると違和感までしか分かりません。
坂井 そういう時、僕は「言っていいよ」と選手にも、社員にも言っています。必殺の言葉です。
橋本 僕も大学の授業中に、「答えは一つじゃないから、思ったまま言ったらいい」とよく言っていますね。答えが分からなくても「分からないと言ってもいいよ」と伝えます。ただ、僕自身もいい質問が浮かばなくて、「何が分からないかが分からない」となってしまう。相手の言葉を引き出せるように僕が誘導できたら「それです、それです」となるのですけどね。若山さんはその辺りもお上手なのだと思います。
若山 いえ、自分は全然できていないと思います(笑)。なかなか難しいですよね。指導者としては、子どものベースを作ってあげないといけません。だからこそ僕らが発言や主張をし過ぎて、相手の考えを引き出せないことは結構あります。気を付けてはいますが、難しいところです。
坂井 僕はずっとテニスをやっていて、コーチをした時期もありました。スキルアップを強く求められるのが育成年代の難しい部分です。子ども達は「めっちゃ教えてもらいたい」と思っているから、その期待に応えなければいけません。その一方で、人間的な部分も育てる必要があります。本当に大変だなと思いますね。
各選手のレベルに合わせたコミュニケーションを
若山 ジュニアの現場は、親御さんとの関わりも強いですよね。小学生くらいだと、送り迎えで親御さんと関わることは多いです。指導者が見られない時でも成長を見守れる、保護者とのコミュニケーションは大事だと考えています。ただ、育成年代は個々の成長速度に差があるので、子どもによって教えられる量にも差が生じます。それで、「なんでうちの子にはこれしか教えてくれないの」と不満が挙がることも少なくありません。
橋本 親御さんには説明しやすいので、まだ良いですよね。子ども自身が同じような不満を感じていたらどうしますか?僕の話でいくと、サッカーが苦手な子には丁寧に教えますが、細かく言わなくても分かる得意な子にはラフになりがちです。ただ、それを皆がいる場で言ってしまいました。それで、本人達が気にしないかなと不安になっています。「A君には色々教えてくれるのに、自分(B君)にはこれしか教えてくれない」と他人に嫉妬したり、自分に失望したりしないかは心配ですね。
若山 すごく敏感になる部分ですね。子どもの態度や雰囲気からも、何となくは感じ取れます。その時には、B君に対して「君はコーチに言われなくても、できると思っているから」のように、ちょっとしたフォローを入れますね。それで「俺って実は期待されているんだ」と、ポジティブに捉えられるようになります。ただ、これを皆の前で言ってしまうと、ほかの子は良く思いません。だから、その子が一人になるタイミングを見計らって言ってあげます。そういう努力はしていますね。
橋本 高二の時の監督は「これやれ」とか結構言うタイプなのに、僕には何も言いませんでした。でも、日韓W杯にも出ていた稲本潤一君は、めちゃくちゃ言われていました。出来ている奴には、基準が違ったのかなと解釈しています。僕から見れば彼はレベルが高すぎて、適当にやっても出来てしまう。だから、「お前はもっと出来るはずだからこれやれ」としっかり教えるスタンスだったのでしょう。僕は言われたくないタイプだったので、結果的には良かったのですが。ただ、今の自分に置き換えると、そういう選手ごとの切り替えはできていないなと感じます。学生に声を掛ける時にも雰囲気は察せますが、個人の細かい部分までは引っ張り出せていないのが自分の課題だと思いましたね。
──各選手のレベルに合わせて、コミュニケーションを変えていたのですね。ビジネスでも、マネジメントする側は個々の性格や得意不得意を気にする必要があるので、イコールだなと思います。
若山 橋本さんや稲本さんのレベルの話ではありませんが、その辺は気を付けていますね。高学年くらいになると自我が芽生えてきて、明らかに「うっさいよコーチ」みたいな顔をされる時もあります。そういう場合は、「ここはやめておこう」みたいな判断も必要です。言われたくない子、言ってほしい子、個々の性格にもよりますね。くみ取ってあげないと、なかなか指導がマッチしません。コーチがすごく情熱を持っても、それがマイナスに働くこともあります。コーチの「感じ取る力」はすごく大切だなと思います。あとは、先ほどの巡回コーチのような第三者目線で見られる人材は有効です。コーチにとっても、子どもにとっても新鮮でいいなと思いますね。一人で何もかも見切るのは現実的に困難ですし、選手の可能性や自分の考えを狭めてしまう。指導者として確固たる知識や情熱、考え方がないと自信を持って指導できません。でも、そこに固執し過ぎるのも良くないのかなと感じています。
皆で作っていく意識を持ち、自己開示していく
──坂井さん、事前にお話があった「自己開示」と「自己提示(自己呈示)」についてお聞かせください。
坂井 簡単に言えば、自分がしたい話をするのではなく、相手に知ってほしい話をする、といったことです。若い人はよく、「年上の人はすぐ武勇伝みたいな話をする」と言います。相手のためを思って話し始めても、自分がしたい話に変わってしまうことは珍しくありません。先ほど、分からないことがメンタルを弱くするとお話しました。「分からない」の代表格は「他人」です。相手の「分からない」を減らそうと思ったら、自分のことをちゃんと伝えてあげる必要があります。「俺からはこう見えているよ」「俺はこういうことを大事にしているよ」などと伝えると、子どもから見て「他人」が分かります。要するに、「私はこうなのです」と自分の考えを共有する「自己開示」が大事です。自分が話したいことを共有してアピールする「自己提示」もダメではありませんが、自己開示に比べると優先度は下がります。
──先ほどのお話にもありましたが、一人で抱えないで、誰かとコミュニケーションを取りながらやることも大事ですよね。
若山 そうですね。うちのクラブでは私が監督、各学年にヘッドコーチ、そのサポートコーチがいます。ヘッドコーチ一人だけの責任ではありませんし、皆で作っていく意識がすごく大切だと思います。
──若山さんとサポートコーチの間にいるヘッドコーチは、板挟みで悩みも多いのかなと推測します。サポートコーチの手本にもならないといけませんよね。
若山 かわいそうだなと思います(笑)。坂井先生のお話を聞いていて、お恥ずかしながら彼らの意見を引き出せていないなと気付きました。子どもに対しては寛容に見られても、大人には「これくらい当たり前でしょ」と高いレベルを要求して、そこに達しないと不満を出してしまいがちです。それは反省しなくちゃなと、お話を聞いて思いました。もう少し、本人が主張しやすいような環境改善が必要ですね。子どもに対しては意識していますが、大人にはそこまで意識できていませんでした。
──組織を持つうえで、若山さんのような悩みを抱える方は多いと思います。組織を良くしようとするあまり、結果を求めてしまう。人によってバーの高さも変える必要があるのですね。
坂井 ガツンと振り切る必要は全くなくて、今よりも目盛りを一つ二つ進めるだけで良いのです。相手は変化を感じてくれますし、気が付かなかったものが気が付くようになる。0か100ではなくほんの少し、薄皮一枚入れてみるだけでも大きく変わると思います。
──坂井さんは「メンタルトレーニング大全」を上梓されましたね。
坂井 10年間でのべ2万人のアスリートと関わってきました。外から見るとメンタルお化けみたいな人たちばかりだと思われがちですが、実はそんなことはありません。皆メンタルで苦しんでいて、試行錯誤をしている。私が見てきた色んなスポーツのプラクティスを一冊にまとめました。スポーツ経験に関わらず、メンタルのことでヒントになると思いますので、よければぜひご一読ください。
──最後に、皆様へひと言ずつメッセージをお願いします。
若山 メンタルはとても難しい部分ですが、気の持ちようでずいぶん前向きに捉えられるようになります。指導者として、そのコントロール方法や向き合い方を、子ども達に伝えていけたらなと考えています。坂井先生のお話を聞いて、ちょっと痛い所を突かれた部分もあります。その辺りは、今後自分の中でも改善していきたいなと心から思いました。こういう場を提供していただきありがとうございました。坂井さん、橋本さん、とても勉強になりました。ありがとうございました。
橋本 僕自身、子ども達に不安を与えてしまっている部分もあるなと感じました。こういう機会に自分とまた向き合って、それをしっかり伝えていく。不安を解消できるように、自分から動いていくことが大事だなと思いました。あとは、一つの物事に対して色んな見方ができることも伝えていきたいですね。新しい発見がありましたし、今後ともまた皆さんとお話ができたらと思います。ありがとうございました。
坂井 私は外野としてスポーツチームに関わらせていただいています。今日は、まさに現場に立たれているお二人と話ができて、私自身も学びが多くありました。ありがとうございました。
指導者・選手双方のコミュニケーション力向上のための補助ツール
今回のセミナーでは、選手とのコミュニケーションを円滑に行うことが、間接的に選手のメンタルも強化していることが分かりました。やはり、選手とのコミュニケーションは指導者にとっても最も重要なファクターといえるでしょう。
現在では多くのスポーツチームが、コミュニケーションを円満にするためにアプリを活用しています。さまざまな連絡アプリがある中、トリアネーロ町田の若山監督も活用中という無料連絡アプリ「BAND」についてご紹介いたします。
「BAND」はグループコミニュケーションに特化している無料連絡アプリ
伝達事項、スケジュールの共有はもちろん、ライブ配信など、グループコミュニケーションを円滑にする機能も豊富で、より効率的に、簡単にチーム管理、運営を行うこができます。さらに情報保護に関する国際認証を取得しているので、気になるセキュリティに関しても問題なく利用できます。
チーム内の連絡を何度も繰り替していませんか!?
「BAND」では掲示板にお知らせを登録すると、グループ全員に一度で伝えられるのはもちろん、誰が読んだかも既読確認できます。出欠確認もワンタッチ回答で、一目で状況を確認でき、カレンダーにまとめて一括管理が可能です。位置情報による練習場所の入力もできるので、伝達ミスの防止にもつながります。忙しい保護者が多い中、事前の通知設定もできるので、確認漏れを防ぎ、参加率の向上も見込めます。
「写真ください!」試合写真提供の個別対応からの解放
試合やイベントの時撮影した写真や動画を一緒にアップロードができアルバムで簡単に共有ができます。また、最大100枚もの写真を同時にアップできます。大容量になると有料のサーバーを使用する必要がありますが、「BAND」は無料で利用でき、保存期間も無期限。新しくチームに加入した子どもの保護者も過去の写真を見て、「チームがどういうサッカーをしているのか」などを理解できるもの大きいですね。
試合を見に来れない保護者にはライブ配信でお届け!
忙しくて試合に足を運べない保護者、さらに最近は試合会場の入場が制限されることもある中、スマホで撮影された試合映像をLIVEでどこからでも視聴できます。もちろん映像は保存できるので、振り返りのコーチングにもつながります。本日のセミナーでも話題に挙がりましたが、指導現場の時間は限られている中、オフ・ザ・ピッチで効率的なコミュニケーションの場を育むツールにもなると言えるでしょう。興味のある方はぜひ活用してみてください。
BANDの公式サイトはこちら
PROFILE
- 坂井伸一郎(株式会社ホープス 代表取締役/アスリート研修講師)
- 1970年5月21日、東京都世田谷区。株式会社ホープス 代表取締役社長。プロフェッショナルコーチ(ACC、CPCC)。成蹊大学卒業後、株式会社高島屋に入社して13年間在職。在職中は老舗百貨店ならではの社会人基礎力・礼儀マナー・顧客や店舗スタッフとのコミュニケーションを現場で学び、後には販売スタッフ教育や販売スタッフ教育制度の設計も担当した。その後、ベンチャー企業役員を経て、2011年に独立起業。現在はプロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修を行う会社を経営し、顧客には東京ヤクルトスワローズ・読売ジャイアンツ・阪神タイガース・埼玉西武ライオンズ・千葉ジェッツ・サントリーサンバーズ他、様々な競技のトップチームを持つ。自らも講師として年間1,000名を超えるアスリートに座学指導を行っており、講師としての専門領域は、マインドセット・アスリートリテラシー・チームビルディングなど。アスリート向け研修のメソッドに関心を寄せる企業や学校からも講師登壇の依頼が絶えず、導入企業の人事担当者や受講生からは「理解度が高い」「学びの定着度が高い」「即実践できる指導だった」といった評価が多く寄せられている。
- 橋本英郎(サッカー元日本代表/関西大学非常勤講師)
- 1979年、大阪府出身。ガンバ大阪ジュニアユースからガンバ大阪ユース(同期に稲本潤一と新井場徹)を経て、1998年にガンバ大阪トップチームに昇格。ガンバアカデミーの過酷な生存競争の中、府内有数の進学校である大阪府立天王寺高等学校から大阪市立大学経済学部に進み、卒業している。2005年にクラブ初のリーグ優勝に貢献し、チームの主軸として活躍。2007年に日本代表に選出される。その後、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、東京ヴェルディなどでプレーし、メンターとしてチームをけん引。2019年よりFC今治にてプレー。今年1月、現役引退を発表。2014年にプエンテFCスクールを開講し代表に就任。現在はメディアでの執筆など多方面で活躍しながら関西大学非常勤講師を務める。
-
- 若山聖祐(FCトリアネーロ町田監督)
- 1985年5月22日生まれ 東京都大田区出身。アルバイトをしながら川崎市にある少年団・菅FCのコーチで指導キャリアをスタートし、南菅中学校、日体荏原高校、YASUサッカースクールなど幅広い年代の指導を駆け持つ。4年目で菅FCをバーモントカップ全日少年フットサル大会全国大会出場に導き、2016年にFCトリアネーロ町田を立ち上げ。クラブ設立5年目にして、2020年度JFA第44回全日本U-12サッカー選手権大会優勝を成し遂げた。
RECOMMEND
前の記事
サイトリニューアルのお知らせ│HOW TO USE NEW WEB SITE