「子どもの心を強くしたい!」そんな悩みを持つ指導者や親にとって、子どものメンタルの育て方で壁にぶつかる機会は多いのではないだろうか。そんな悩みを解き明かすため今回は、プロアマを問わず多くの競技のアスリートへの指導や、指導者や親を対象としたセミナーでメンタルコーチングのノウハウを伝えてきたスポーツメンタルコーチ・鈴木颯人氏と、アテネ五輪柔道100kg超級金メダリストで現在は柔道男子日本代表監督を務める鈴木桂治氏をお迎えし、アスリートや指導者としての経験談を交えて、負けないメンタルを育むためのポイントを伺った。
目次
『自分で決めた』という責任感が継続力を育む
──パリ五輪まで1年を切りました。トップアスリートの方たちは、ピーキング(本番に向けて1番のピークを持っていく)という言い方をされますが、指導者としてどういったサポートをされますか?
桂治 選手それぞれが逆算をして心と身体を整えていくということが重要になります。柔道の場合は五輪に出場するために、日本代表に選ばれるだけでなく各々のランキングも加味されるので、限られた試合数のなかで自力でより上位を目指す必要があります。そのため本番に向けてさらに本番があるという感じですね。試合がタイトになる分、心と身体の疲労も重なるので、その面のサポートをするのが我々の役目だと思っています。
颯人 どの競技でも、『限られた時間、ルールのなかで自分の力を100%出す』ことを要求されます。試合のパフォーマンスもですが、『試合に至るまでにどれだけ成長できるか』のほうが大事だと考えています。なぜなら成長に応じた結果しかやってこないからです。試合に至るまでの期間でモチベーションや自信を失ったりすることもあると思いますが、そういった場面で指導者が選手を支えて、彼らの最大値を伸ばしていけるかが重要になります。
──桂治さんは『KJA 鈴木桂治柔道アカデミー』を主宰されていますが、子どもたちと接するうえではどのようなことをアドバイスされていますか?
桂治 KJAは、試合に出るのではなく柔道を楽しむことがメインのアカデミーです。何でもかんでも周りに合わせさせるのではなく、子どもそれぞれの気分や自己主張を理解して導くということが大事だと思っています。やりたくないことをやらされて続かなくなるということが最もよくないので、スポーツの入りは重要だと思いますね。
颯人 アスリートのサポートで、1対1のメンタルコーチングで初めてお会いした際に聞くのが、『なぜその競技を始めたのか』という動機についてです。自分が好きで始めた場合もあれば、親にやらされて始めたという場合もありますよね。その動機は、競技に向き合うことになった時に、自分から楽しみを見出せるかなど、それから先の人生に大きく関わっていくのです。内発的な動機から、『自己決定感』を持つことがモチベーションを保つ意味で最も重要なことだと思います。
桂治 国士舘大学で教えている選手にも、「なんでこいつ柔道やっているんだろう」という子もいます。「なんとなく」でやることほど無駄な時間やお金はありません。「強くなりたい」という選手を育てることも重要ですが、そうではない子に頑張る意味を持たせることも指導者の役割だと思っています。私も「自分でやりたい」と言って柔道を始めましたが、何度も辞めたいと思ったことはありました(笑)。
颯人 「嫌なら、他に興味のあることをやってみようか」と逃げることは多くても、「自分で決めたことなんだからやれよ」と言ってくれる人ってなかなかいないと思います。そういった指導者としてのマインドセット、指針を明確に持つことが大事なのだと感銘を受けました。
適度なプレッシャーとストレスが馬鹿力を引き出す
──結果を引き出すうえで、『プレッシャー』と『ストレス』が良いものという解釈が増えてきていると感じます。
颯人 『プレッシャー』は必要不可欠なものだと思っています。科学的に言えば、アドレナリンが出ることで身体的なパフォーマンスが上がることがわかっています。ただ『プレッシャーに押しつぶされてしまう』というのがよくない状態なんですよね。そのために私のようなメンタルコーチやスタッフが選手への接し方を考えていかないといけないのです。
桂治 私も、『プレッシャー』がある状態のほうが、自分の持っている能力以上のものを引き出してくれると思っています。何も感じずにプレーしているのであれば100%の力しか出せませんが、『緊張・恐怖・プレッシャー』といった感情に打ち勝った時に120%の力を引き出し、『奇跡』のようなものが起きるのではないかと思います。しっかりやればやるほど不安に陥る状況もあると思うんですよね。そこで「もう一声」と追い込んだ選手ほどその境地に行けると思います。
颯人 『レジリエンス』という言葉がありますが、困難を乗り越えた経験があればあるほど精神的に強くなります。例えば宇宙飛行士のような極限の状態や、Googleのような一線級の仕事は、どんな状況でも自分で解決できる人でないと務まりません。ではそういう人はどのようにその能力を身につけたかというと、実は小さい頃不遇な状況にあり、それを乗り越えたというような経験をしていることがあるのです。そのなかで、『親が関わりすぎる』という状況はすごく危ないと感じていて、『自分で乗り越えた』という経験をさせるために、手を差し伸べすぎないことも必要です。
──スポーツを通した教育において『親の関わり方や度合い』は大事ということですね。
桂治 私が恩師の方によく言われていたのが、『強くなるためには稽古、勝つためには研究』という言葉です。どんなに高い能力を持っていても試合で勝てない人はいるし、凄まじい練習をしていても勝てない人もいます。勝つためには、『自分には何が足りないのか』、『自分は何ができてどんな風に戦うのか』を考える力が必要なのです。壁にぶつかった時に『どうしたらその壁を壊せるのか』を考えられる選手が超一流になるのだと思っています。過度に手を差し伸べてしまうこともよくないけれども、ただ野放しにしておく訳にもいきません。そのバランスをうまくとっていくことが、指導者としてのセンスなんですよね。
颯人 いろいろな競技の選手たちを見ていて、どのタイミングでどういう声かけをするのかという点はとても悩みますね。この問題に答えはありませんが、選手一人ひとりを観察して、理解していくほかないのです。
自分を強くするライバルの存在
──スポーツにおいて成長する要素として大事なのが、ライバルという存在を作ることだと言われています。それについてはどうお考えですか?
颯人 自分の立ち位置を測るうえで重要な物差しになると思います。ただ、他者と比較し続けてしまうと、世界チャンピオンになった時に次に目指す目標を失ってしまうことがあるので、ライバルという存在は諸刃の剣だと考えています。
桂治 私はまさしくその諸刃の剣に引っかかった人間の一人でして(笑)。現役時代は井上康生さん(元・柔道日本代表監督)を倒すことだけを考えていました。私がアテネ五輪で優勝した時、井上さんは違う階級で出場していたので、最終的に勝てないまま井上さんは引退してしまいました。その時に、「俺、これからどこに向かっていくんだろう」と思ったんですよね。それからマスコミに『鈴木が日本の柔道を引っ張る』と書かれても、ずっとライバルの背中を追ってきた人間として「そういうタイプじゃないから」と、それ以降の私は結果を出せず引退することになりました。ライバルと切磋琢磨している時はとても充実しています。ですがその対象がなくなった途端にモチベーションを無くしてしまうこともあるのです。今は東京五輪で素晴らしい成績を残した井上監督(当時)と今の鈴木監督として比べられることでモチベーションになっているので、私にとってはライバルという存在はありがたかったですね。
目標設定の価値
──ライバルという存在は自分を高みに持っていくための目標や物差しとして端的でわかりやすい存在ですが、結局大事なのは目標設定なのだというところに行き着くんですかね。
颯人 私がメンタル“トレーニング”ではなくメンタル“コーチング”という言葉を使っているのは、選手が達成したい夢や目的地があって、そこに導きたいと思っているからなんですね。そこで最初に行うのがまさに『目標設定』であり、もっと突き詰めていくと桂治さんもおっしゃっていましたが、その競技をやる『目的』を考えます。それらを考えることはある種、人生のテーマみたいになってきて、『ビジョン・ミッション・使命』と呼ぶものです。それが見つかると、結局何をしてもいいんですよね。自分の心の内側から喜べるものが見つかると、それを達成するための『手段』としてその競技をしているだけなので、本当の自分のやりたいことに気づけているのであれば、手段に囚われなくなるはずです。その過程でライバルという存在があることによって成長できる人もいるでしょう。目標設定によって選手がその競技を通して『何を達成したいのか』、『何を示したいのか』をはっきりさせることができれば、ライバルに囚われたとしても、戻るべき場所に戻れるのかなと思います。
──『目的』と『目標』の違いだと感じました。目的は帰る場所であって、目標は目指すところということですよね。
颯人 自分たちが『目的』だと思っていることが実は『目標』であることがよくあります。五輪で金メダルを獲りたいと言う選手にどうしてか聞くと、「嬉しいから」や「応援してくれた人が喜んでくれるから」、「自分と同じ不遇な人の励みに」という想いを持っている方がいました。こういう“感情”を達成したいというものが目的になりやすいと思います。
桂治 今、「鈴木にとって五輪とは何だ?」と聞かれたら、私の中では『五輪は柔道にとって最高峰の大会』という位置付けでずっとやってきているので、最高峰を目指すということは変わりません。ですがいざ選手として五輪を経験してみると、19年前に獲った金メダルが今の人生に影響しているかと言われると、決してそうではないんですよね。五輪の金メダルとは言え、それを生かすも殺すも自分次第です。そういった境遇に陥る選手がこれからいるかもしれないしこれまでもいたかもしれないと考えると、『何のためにその競技をやっているのか』というところに立ち返ることも大切だと思います。『強くなること』が目的だった人間がある程度頂を捉えたとして、次に『何のためにその競技をやっているのか』と聞かれた時に答えを出せるようにしておくことが大事だと感じています。なので子どものうちに『強くなること』だけを教えても意味がないですし、競技を通して他の学びを与えられる環境づくりは必要だと思っています。
颯人 『夢の代謝』という言葉があります。夢をしっかり代謝できていないと、40、50代になった時に「本当はもっと頑張っていればあそこまで行けていたんだけどな」と言うおじさんになってしまいます。そうならないために今やっている競技を積み重ねて、夢の代謝をしっかりしてもらえるよう大人がサポートする必要があると思います。
桂治 親が『自分の競技力が不完全燃焼だったから、それを子どもに託す』ということがよくあります。代謝ができていない大人が子どもに押し付けてしまうことによって、ほとんどが逆に足を引っ張っている印象です。
──最後にメッセージをお願いします。
颯人 素晴らしい会に招待していただきありがとうございます。日本の柔道界で活躍された桂治さんとお話しすることができてよかったです。この講座を通じて、子どもたちの未来がより良い形になってくれたらなという想いです。今日は最後までご静聴ありがとうございました。
桂治 本日はこのような貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。普段私が考えていないようなお話を聞けるのは面白いですし、指導者として勉強になることがたくさんありました。自分からアウトプットすることで私自身もまた新しい考え方ができてきましたし、皆さんにも何か伝わったものがあればと思います。答えがない世界で生きているなかで、答えを求めている時間が一番楽しいということもあります。常に新しいことや難しいことを苦じゃないようなマインドに持っていくことはやりがいがあると思いますので、心にゆとりを持ちながら、人や子どもの成長を見守っていくという考えを持っていきたいと思います。また、パリ五輪・柔道競技のみならず、日本選手団を応援してください。今日はありがとうございました。
指導者・選手双方のコミュニケーション力向上のための補助ツール
今回のセミナーでは、内発的な自己決定感を持つことや、目標設定を自ら行うことがスポーツを続けていく上で重要であることが分かりました。親や指導者が押し付けるのではなく、選手が達成したい夢や目的地に導くために「自分が本当にやりたいこと」を気づかせてあげるアプローチを考慮する必要があるでしょう。
現在では多くのスポーツチームが、指導者と選手のコミュニケーションを円満にするためにアプリを活用しています。さまざまな連絡アプリがある中、無料連絡アプリ「BAND」についてご紹介いたします。
「BAND」はグループコミニュケーションに特化している無料連絡アプリ
伝達事項、スケジュールの共有はもちろん、ライブ配信など、グループコミュニケーションを円滑にする機能も豊富で、より効率的に、簡単にチーム管理、運営を行うこができます。さらに情報保護に関する国際認証を取得しているので、気になるセキュリティに関しても問題なく利用できます。
チーム内の連絡を何度も繰り替していませんか!?
「BAND」では掲示板にお知らせを登録すると、グループ全員に一度で伝えられるのはもちろん、誰が読んだかも既読確認できます。出欠確認もワンタッチ回答で、一目で状況を確認でき、カレンダーにまとめて一括管理が可能です。位置情報による練習場所の入力もできるので、伝達ミスの防止にもつながります。忙しい保護者が多い中、事前の通知設定もできるので、確認漏れを防ぎ、参加率の向上も見込めます。
「写真ください!」試合写真提供の個別対応からの解放
試合やイベントの時撮影した写真や動画を一緒にアップロードができアルバムで簡単に共有ができます。また、最大100枚もの写真を同時にアップできます。大容量になると有料のサーバーを使用する必要がありますが、「BAND」は無料で利用でき、保存期間も無期限。新しくチームに加入した子どもの保護者も過去の写真を見て、「チームがどういうサッカーをしているのか」などを理解できるもの大きいですね。
試合を見に来れない保護者にはライブ配信でお届け!
忙しくて試合に足を運べない保護者、さらに最近は試合会場の入場が制限されることもある中、スマホで撮影された試合映像をLIVEでどこからでも視聴できます。もちろん映像は保存できるので、振り返りのコーチングにもつながります。本日のセミナーでも話題に挙がりましたが、指導現場の時間は限られている中、オフ・ザ・ピッチで効率的なコミュニケーションの場を育むツールにもなると言えるでしょう。興味のある方はぜひ活用してみてください。
BANDの公式サイトはこちら
PROFILE
- 鈴木桂治(アテネ五輪柔道100kg超級金メダリスト/柔道男子日本代表監督)
- 1980年、茨城県出身。3歳で柔道を始め、2003年の世界選手権では無差別級で初出場ながら優勝、2004年にはアテネ五輪柔道100kg超級で金メダルを獲得し、同年紫綬褒章を受賞した。さらに2005年の世界選手権では100kg級で優勝を飾り、前人未到の3階級制覇を成し遂げた。現役引退後は中学から大学院まで過ごした国士舘大学で柔道部監督や総監督を務め、2021年には国士舘大学体育学部武道学科教授、及び全日本代表監督へ就任した。
- 鈴木颯人(スポーツメンタルコーチ/Re-Departure合同会社代表/一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事)
- 1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職も経験する。こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッドを構築。現在ではスポーツメンタルコーチとして、プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。自身が直接コーチングを行うだけでなく、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象に、メンタルコーチングのノウハウを伝えるセミナーも開催。「子どもにどう接したらいいかわかった」「これからは自信を持って言葉かけできそう」と好評を得ている。これまでコーチングしたスポーツ選手は1万人超。15万人以上のTwitterフォロワー、1万7000人以上のFacebookフォロワーに日々メッセージを発信している。著書に『一流をめざすメンタル術』(三笠書房)、『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)、『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』(三五館シンシャ)がある。
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