COLUMN

<後編>現役指導者に学ぶ「子どもとの寄り添い方」

PROFILE

石川慎之助(NPO 法人つくばフットボールクラブ理事長)
1979年、東京都生まれ。 筑波大学第三学群工学システム学類在学中、 蹴球部に入部し、地域の小学生にサッカーを 指導。つくばFCの活動を引き継ぎ、2003年 NPO法人つくばフットボールクラブを設立、 2005年株式会社つくばFCを設立し代表取締 役に就任。NPO法人日本サッカー指導者協会 事務局長、一般財団法人日本クラブユースサッカー連盟 事業委員長なども務める。
川村元雄(ボンフィンフットボールパーク・フットボールダイレクター)
1966年、東京都生まれ。幼稚園の体育講師として指導者生活をスタートさせる。1995年から徳島ヴォルティスで育成年代の指導に携わり、2006年からはナショナルトレセンコーチ四国担当に就任。その後、2010年からはFC 東京で育成普及に携わり、現在はボンフィンフットボールパークのフットボールダイレクターを務める。
押鐘正幸(ファジアーノ岡山普及・グラスルーツダイレクター)
1962年、千葉県生まれ。立教大学卒業後、筑波大学大学院にて修士課程体育研究科コーチ学専修を修了。中学・高校保健体育の教員免許を所有し、各育成年代のクラブチーム、部活動で指導にあたる。2007年からはジェフユナイテッド市原・千葉、2013年からは水戸ホーリーホックで育成普及に携わる。その後、高校サッカー部、クラブチームの指導者を経て、現在はファジアーノ岡山で普及・グラスルーツダイレクターを務める。

子どもがスポーツを続けていく上で、ケガでの長期離脱やモチベーションの低下など、さまざまな挫折を経験することがあります。そんな時、一番近くで見守っている親や指導者はどのように寄り添うべきなのでしょうか。今回は、豊富な「寄り添い」経験を持つ3名の指導者によるクロストーク後編です。

 

厳しすぎず甘すぎず、ほどよい役割分担が大事

ーー皆さん長いご経験の中で、失敗から学んだもの、得られたものはありますか?

押鐘 今でも、もがいていると思っていますけどね。駆け出しのころは特に一方通行で、「これをやらなきゃ」という感じで接していました。でも子どもは全然躍動しないし、子どもの表情をうかがう余裕もありませんでした。そういう上手くいかなかった経験が、自分の中で肥やし(成長の糧)になりました。子ども達にとっていい時間になるように、と考えながら情報を得て試行錯誤していき、今に至っています。

川村 押鐘さんが今おっしゃっていましたが、僕も最初の頃は子ども達の様子を全然観察できませんでしたね。決められたメニュー、自分で考えたものがどうやったら落とし込めるか、そんなことばかり考えていました。指導経験2年目の時に、私立幼稚園の目玉イベントである運動会を任せてもらったんです。「パラバルーン」という皆で風船を膨らませる種目があって、前年はすごく上手くいきました。でも、2年目は子ども達が練習から皆で頑張っていたのに、当日上手くいかなかったんです。その時に、僕は「よく頑張ったね」って言葉をかける前に首を傾げて「やっちゃったな」って態度に出してしまった。それで、親御さんから「上手くいかなかったけど、子どもがこんなに頑張っている表情を見せてくれて、親としてはうれしかった。でもそれを一番認めてほしいはずの、川(村)ちゃんに認められなかったことで子どもたちはどう思ったのか。正直、川ちゃんにはがっかりした」と言われてしまいました。今となっては反省することばかりですが、その言葉は今も自分の中にあります。その時初めて、周りと比べるのではなく、その子達自身が出来るようになるまでの過程を見られる楽しさに気づけました。時間がかかればかかるほど、一緒に過ごす時間の尊さは感じます。今になって教え子が連絡くれたり、ちょっと遊びに来てくれたり、そういうのはものすごくうれしいですね。だから、もっともっとそういう機会を増やしたいなって思っています。

 

ーーまさに、「指導者として成功させたい」という思いの強さが出てしまった、ってことですよね。

川村 大いに反省します(笑)。

石川 私は日々失敗なので、失敗例は沢山あるんですけどね。一番印象に残っているのは、筑波大学院生の時に、蹴球部のコーチをさせてもらった時のことです。つくばFCを僕と一緒に立ち上げたもう1人のメンバーがいて、2人でコーチしていました。ある試合の後に、勝ったものの緩慢なプレーが多くて、2人とも厳しい言い方をしてしまったんです。終わってから、「失敗したな」って思いました。選手は「両方のコーチに言われたから、相当悪かったんだな」って思うし、相談する相手がいなくなってしまう。シーズン終わりの飲み会で素直に話してくれたんですけど、一番言われたのはその時のことでした。大学生だから逆に理解してくれましたが、もっと若い子ども達だったら心の距離が離れてしまって、取り返しがつかなかったと思います。どちらかが厳しく言ったらどちらかが褒める、といういい関係が築けていたはずだったので、反省しましたね。それと同時に、指導者の中でも役割分担、家庭なら父親と母親の役割分担ってすごく大事だなって感じました。

 

ーーなるほど。石川さんってあまりそういうイメージがないので意外ですね。川村さん、押鐘さんは現在各地でジュニア指導されてますが、厳しく言う指導者って今でもいますか?

石川 名前は言わない方がいいですよ(笑)。

川村 いらっしゃいますね(笑)。

 

ーー指導者にも色んな特徴がありますが、今は昔よりは厳しい指導者が少なくなったかなと感じます。

川村 極端ですよね。厳しく言う方もいれば、全く何も言わない方も。試合が終わった後の話が長かったり、コーチや保護者の代表が何人も出てきて子どもが色々言われたりしていることもあります。子ども達は「はい」って言って早く帰りたい、って思いますよね。

 

感情的になってしまう時は、一歩引くという選択も必要

ーーもっとこの話を続けたいのですが、話が逸れそうなのでこの辺で(笑)。親や指導者が子どもに対して寄り添う「距離感」も大事ですよね。指導経験が長い中で色んな親子を見られていると思いますが、こういう関係がいいな、という例はありますか?

川村 チームの練習前後に親子サッカーをやっていることがあるのですが、僕は出来るだけその様子を見るようにしています。フリーな時間での活動の様子を見せてもらった上で、声をかけるんです。それがいい所は、親子共通で色んな話を聞いてくれることです。親子の関係がギクシャクしているときは、親の思いが強すぎて、私が声をかけるとお互いが言い争いに近くなって、感情的な部分が出てしまう時があります。子ども達に対して、親、コーチが感情的な部分を見せることは絶対に許されないことだと思います。だから、私はそういうときは一歩引いて、別の機会にそのご両親に電話をしたり、再び会ったときに話すように心掛けています。子どもの成長には時間がかかりますし、その過程を見ていける楽しさが小学校時代にはあります。中学、高校になるとなかなかそういう時間も取れなくなりますよね。保護者の皆さんには、上手くそういうことを話せたらいいなと思っています。

 

ーーたしかに、グラウンドで親御さんがイライラしているシーンはたまに見かけますね。

川村 たまにどころではありません(笑)。

 

ーー親御さんも忙しいっていうのはありますよね(笑)。指導者はそういったことも見ながらサポートが必要だと思いますが、それも寄り添うことの1つなのでしょうか?

川村 そうですね。あと、子どもの言うことを聞いてほしいなと思います。勝ち負けも大事ですが、それよりもどういうプレーが成功したとか、何が出来なかったとか、そういう部分の方が大事です。子ども自身が努力、工夫するためのサポートが必要ですね。これは指導者だけでなく、保護者の皆さんにも協力していただきたいことです。

 

ーー子どもの話を聞くことはすごく重要ですよね。子どもって「今日お母さん機嫌悪いな」とか、空気を読むじゃないですか。子どもが話したいときに話せる環境づくりが大事ですよね。

押鐘 そうですね。川村さんのお話にあった保護者とコーチの触れ合い方や、子ども・コーチ・保護者の関係性は「さもありなん」と思いました。私は子ども達と一緒に活動していく中で、自己肯定感が増していくような声かけをベースに置いています。それは親御さんもご覧になっていて、参考にしていただいている面もあるようです。子どもの躍動を親御さんが目にして、「うちの子、本当に喜んでサッカーをしています」という声も耳にします。自己肯定感というのは奥が深いことです。スクール活動の週1、2回の機会ですが、そこが何かのきっかけになってくれたら、と思いながら活動しています。

 

石川 川村さんは、始めはサッカーの指導者ではなかったんですよね。幼児教育から得たことがサッカーに生きているかと思うのですが、サッカーと幼児教育には何か違いがありますか?

川村 幼稚園の子どもでもプロの選手でも、その瞬間に全力を出そうとする姿は一緒なんですよね。背中を押すじゃないですけど、その姿をどうやって引き出すかっていうことは学べたと思います。

石川 競技性、試合に出る、出ないという環境は、幼児教育にも時には必要なんですか?

川村 幼児教育でも、必要な時はあると思います。それでも、僕は徳島のチームで「登録メンバー全員、全部の試合に出る」というやり方であえて挑みました。それは全国を見据えて、全員が同じ目標に向かって個人としても成長してもらいたい、という思いがあったからです。

石川 やはり競技性は必要なのですね。押鐘さんにも質問いいですか? 社会人から大学院生になって、そこから指導者、という経歴ですよね。社会人で経験したことが今、指導者として生きていることはありますか?

押鐘 色んな経験ができたのは、発想の面でいい刺激になっていると思います。大学卒業後に一般企業に入社して、そこから大学院を受けたのはJリーグ元年(1993年)です。社会人時代はスポーツの出版社にいて、色んな取材をさせてもらいました。ランニングや自転車という競技に触れて、「こういう楽しみ方があるんだ」という発見がありましたね。マラソン大会をゼロから生み出したこともありました。ニューヨークシティマラソンやホノルルマラソンで実際に走らせていただいたこともあります。

石川 アスリートとしてプレーされてきた後、社会人になり一息ついた時にスポーツを楽しむってことに触れたんですね。

押鐘 そうですね。社会人としての経験を通して「スポーツってこういうあり方もあっていいんだ」と発見できたのは、今にもつながっている気がします。

 

厳しさだけじゃない。子どもの楽しみを失わない寄り添い方を

石川 川村さんは指導者として、「子ども達が楽しむことが大事」という今の考えに至ったきっかけは何だったのですか? プレーヤー時代は「楽しむ」という思考だったのでしょうか? 僕なんかは小中高とスパルタ教育のところでプレーしてきて、嫌だなあって思っていました。それに大学生になると、周りは大体サッカーを辞めちゃってたんですよね。そういう環境にいたから、今は楽しむ、寄り添うってことを大事にしなくちゃなって。そのためにクラブを立ち上げて、発信できるようにしています。

川村 僕はプレーヤーとして大成しないタイプだったので。中学校当時は野球の方が盛んで、最初は野球やっていたんですよ。中学の途中で、野球部からサッカー部に変えました。僕のところもスパルタでしたが、色んなスポーツをさせてもらえました。高校に行ったらサッカーの指導者がいなくて、じゃあ自分でやろうとなって、指導者の楽しみに触れたんです。僕は厳しい中から生まれる何かにあこがれを持っていました。そういう経験がなかったからです。でも色んな試合や人に触れることで、厳しさだけじゃないってことを感じました。大学生の時に幼稚園のサッカークラブのアルバイトをしながら、「サッカーってするだけじゃなくて、色々な関わり方があるんだ」って知って。それで自分なりに勉強しているうちに、こういう方向がいいんだ、という考えになりました。

 

ーー今日は色々なお話を聞かせていただきありがとうございました。最後に、皆さん一言ずつお願いします。

押鐘 私の方こそ学びになりました。今後に生かして行ければと思っています。本日はありがとうございました。

川村 こちらこそありがとうございました。色んな方との活動を通して、時間を共有できることって大事だなと、コロナ渦の中で改めて再認識させられている毎日です。僕ももっと色んな方の考えを吸収しながら、前に進めていけたらと思っています。本日はありがとうございました。

石川 今日のテーマが「寄り添いの極意」ということで、お2人の極意を吸収させていただきました。私自身、バージョンアップしていきたいなと思います。川村さんも押鐘さんもまたバージョンアップされるということなので、子ども達のために我々が少しずつ伸びていかなきゃいけないなと思っています。今後もよろしくお願いします。ありがとうございました。

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