⽯垣島のサッカーアカデミーに学ぶ「個性を伸ばす育成」とは?
【サコーCPの育成探訪#1】

PROFILE

古賀鯨太朗(FC琉球⽯垣 監督)
1991年4⽉27⽇生まれ、神奈川県出⾝。横浜FCの育成組織出⾝で熊本県⽴⼤津⾼校から進学した中央⼤学では、積極的な攻撃参加を得意とするディフェンダーとして活躍した。2014年に、FC琉球へ⼊団。2015年よりFC琉球⽯垣アカデミーの監督として育成に尽力。

サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)
1976年4⽉1⽇生まれ、愛知県出⾝。株式会社 DOKAVEN 代表取締役。1998年に電通に⼊社し、2014 年クリエーティブディレクターに就任。数々のヒットキャンペーンを⼿掛ける。2021年独⽴に伴い、SPODUCATION コンテンツ・プロデューサーにも就任。未来ある⼦どもたちと、その親御さんや指導者の皆さんに、意義ある情報を届けることに⼒を注ぐ。

日々、スポーツと教育を探求するSPODUCATION コンテンツ・プロデューサー(CP)の「サコー」こと酒匂紀史が、気の向くまま思いつくままに、日本全国の指導者や育成現場に赴き、その理念や信条を紐解き、書き記すこのコーナー。記念すべき第1回は、創立5年目にしてFC琉球⽯垣を沖縄県準優勝まで導いた古賀鯨太朗監督による「個性の引き出し方」に迫ります。

 

文=サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)

 

サッカーで個性を伸ばす選⼿もいれば、サッカーで個性を潰される選⼿もいる。今回は、沖縄県⽯垣島のサッカーアカデミーの様⼦を通じて「サッカーと個性」について考えていきたい。わたしが⽯垣島を訪れたのは2020年12⽉。⽯垣島の冬は天候が不安定だが、太陽さえ出ていれば、⾵はとても⼼地よく、半袖でも全く問題のない暖かさだ。⼈⼝約4万5千⼈のこの島には、20 校の⼩学校と 9 校の中学校がある。都会から最も離れ、かつ⼤⾃然に囲まれたこの南の島では、⼀体どんなサッカー育成が⾏われているのだろうか。

 

石垣島は野球・陸上⽂化。最近の⼈気はサッカーやバスケ

⽯垣島では、昔から⼀番の⼈気スポーツは野球である。次に続くのが陸上だ。もちろんサッカーやバスケも、最近では⼈気のスポーツになっている。⼩学⽣のサッカーチームは、島内に 10 チームあり、そのほとんどは⼩学校を拠点とする少年団チームである。クラブチームは、わずか2チーム。FC 琉球⽯垣と IFT だ。島内のサッカー⼈⼝は、1 学年につきおよそ50 ⼈程度と⾔われている。すべてのチームは⼋重⼭サッカー協会に登録しており、⼋重⼭U-12 リーグなどの公式戦も⾏われている。トレセン制度もある。

 

元Jリーガーが、⽯垣島でアカデミーの監督を

今回取材に応えていただいたのは、FC琉球⽯垣アカデミーの古賀鯨太朗監督だ。古賀監督は、神奈川県出⾝で、少年時代は横浜 FC のジュニアユースに所属。⾼校では、熊本県⼤津⾼校で寮⽣活を⾏なった。その後中央⼤学を経て、FC琉球に所属した元 Jリーガーだ。引退した後、今から5年程前にFC 琉球⽯垣の監督として⽯垣島に移住をしてきた。現在は、FC 琉球⽯垣のアカデミー責任者として⼩中学⽣の育成に取り組んでいる。依頼があった際は、地元の保育園・幼稚園に出向いてサッカーを教えることもある。彼の楽しみはサッカーだけではない。週に3回は、海に出てサーフィンで真剣に遊ぶ。初めて会った時からすぐに打ち解けられる、とても社交的で明るい性格が特徴的な⽅だ。⼦どもとの距離もとても近く、監督と選⼿といった厳格な関係というのよりは、むしろ歳の離れたお兄ちゃんのような距離感で⼦どもたちと接する姿が印象的な監督だ。

 

⽯垣島のサッカー環境は、実はかなり恵まれている

「南国の⽯垣島でサッカーなんて、暑くて絶対に無理だ」と思っている⽅も多いと思う。しかし、実は「全くそんなことはない」と古賀監督は言う。夏の⽇差しはもちろん強く、当然練習時間や試合時間は、短く区切って⾏われる。しかし、⽇陰に⼊ると⾵が気持ちいいのが⽯垣島の特徴だ。東京のようなジメジメとした暑さではなく、カラっと気持ちのいい暑さだから、意外にもサッカーはやりやすい。さらに、冬になれば、コンディションはベストになる。快適な気候で、思い切りサッカーをプレーすることができる。また、FC 琉球⽯垣では、練習も試合も天然芝のグランドで⾏われている。特に週末に試合をよく⾏う「サッカーパークあかんま」のグランドは、フルコートで3⾯取れるほどの広⼤なグランドが、すべて天然芝でできている。夏場に、⼈⼯芝のグランドでよくある激しい照り返しもなく、最⾼の環境でサッカーに取り組むことができる。

 

南⽶選⼿のような、独特の⾝体能⼒を発揮する⽯垣キッズ

古賀監督の⽬線からは、⽯垣のサッカーのレベルはまだまだ発展途上にあるように⾒えている。ただ、そういった中でも、⽯垣島や沖縄の⼦どもたちは、⾝体能⼒の⾼い⼦たちがたくさんいるという。まるで南⽶の⼦どもたちのような独特なリズムを持っていて、野性的な動きをする⼦どもたちがたくさん存在するのだ。昔から⽯垣島には陸上の⽂化があり、そのことも影響しているのか、⾜の速い⼦も多いのだそうだ。古賀監督は「その⼦の特徴を伸ばすサッカーを⽬指している。何か⼀つの特徴でも突き抜けた⻑所のある⼦どもを育てたい」と育成について考えている。⽯垣島の醸し出す⾃由な空気にぴったりの、素晴らしい育成⽅針だという印象を受けた。

 

練習の雰囲気は、底抜けに明るい

そんな  FC琉球⽯垣で、トレーニングが始まる直前、突然スピーカーからテンポの良い  J- POP が流れ出した。古賀監督に「え? ⾳楽を流しながら練習するんですか?」と尋ねると「ええ。だってそっちの⽅が楽しいじゃないですか」と言う。これまでに、少年サッカーの現場をいくつも⾒てきたが、監督が率先して⾳楽を楽しみながら練習する⾵景はお⽬にかかったことがない。古賀監督は練習中も滅多に怒ることはなく、どちらかというと、無⼝という印象だ。

「⼤事なのは本⼈のやる気やモチベーションを上げること。結局やるのは本⼈なのだから。そのことに気づくまでは、とにかくサッカーを楽しくやること、夢中にさせることが重要だと思います」

実際に⼦どもたちは、伸び伸びとサッカーをやり、練習と練習の合間の給⽔タイムでは、突然追いかけっこや、くすぐり合いなど、戯れあって楽しんでいる。そんな⼦どもたちに対しても、古賀監督は注意などしない。「そもそも、サッカーそのものが、ボールを使った戯れあいみたいなものなんですよ(笑)。だから、⼦どもたちが戯れあっていても注意なんてしない。遊びなのだから楽しくやればいいし、中学 2 年や 3 年になったら、みんなそれなりにちゃんとするようになるんだから、それまで放っておけばいいんです」と、とても⼤らかな考え⽅を話してくれた。そして「極端な⾔い⽅をすれば、⼩学校の頃は何も期待しないことが⼤事だと思います(笑)」と付け加えた。

 

設⽴わずか5年。全国少年サッカー⼤会の沖縄県⼤会で準優勝

FC 琉球⽯垣は、2019年、創⽴ 5 年⽬にして全国少年サッカー⼤会の沖縄県予選で準優勝。⼋重⼭サッカー協会、⽯垣島のサッカーに関わる指導者や親御さん、FC 琉球⽯垣を率いる古賀監督、そして何より選⼿たち本⼈の努⼒と情熱が成し遂げた偉業といってもいい。古賀監督は準優勝まで勝ち進んだ⼦どもたちの勇姿を⾒て、⽯垣島のサッカーも、みんなが⼀つになって頑張れば本島(沖縄本島)に⾏っても通⽤するんだという実感を得たという。古賀監督は「移住当初は、⽯垣島は穏やかで優しくて⼈当たりがよい⼈ばかりだという勝⼿なイメージがあったのですが、実際には元気なオジイ・オバアがたくさんいて、決して優しいだけじゃないという印象を受けた」と語る。観光の島ということもあり穏やかで社交的な側⾯がある⼀⽅、とても情熱的で、真剣で、⼦どもたちの試合に対しても、⼤⼈たちの厳しい声がけが結構⾒られるのだというから⾯⽩い。「むしろ、どこかで誰かに⾒られているかも分からない関東や関⻄の中⼼地より、全然激しい⾔葉が⾶び交っているかもしれません(笑)」と話してくれた。わずか、4 万 5000 ⼈の島だが、⼀体となって真剣に取り組むことで、着々と成果があらわれている。

 

⽬指すのは、⽯垣島出⾝の初のプロサッカー選⼿

古賀監督が⽬指すのは、⽯垣島出⾝の初のプロサッカー選⼿を育成することだ。「チームの勝ちも⼤切だが、何より⼦どもたちがサッカーを楽しいと思えること。中学、⾼校、⼤学と進んでいく中で、何か強い武器を持っている⼦を育てたい」と話す。沖縄県⼤会の実績により、アカデミーの選⼿たちの意識にも変化が現れてきた。⽯垣のサッカーのレベルを上げるために、⾃分たちは他のチームに負けられないというプライドが徐々に芽⽣えてきたからだ。県で勝てるチームになろう。県⼤会で、優勝を勝ち取ろう。古賀監督は「FC 琉球⽯垣のサッカーは『こういうサッカーだ』というこだわりは全くないんです。それよりも、毎年、毎学年、⼦どもが違うから個性も違う。当然、武器となるストロングポイントも違う。だからこそ、今そこにいる選⼿の個性を⼀番⼤切にして、それの掛け合わせでチームを作っていく。それが、結果としてそのチームらしさになるという考え⽅をしているのです」と語ってくれた。野性的で個性豊かな⽯垣キッズが、世界を驚かせる個性へと成⻑してくれることを、わたしも興味深く⾒守っていきたい。

 

コロナ後には開催したい、⽇本中のチームを集めた招待⼤会

今年はコロナの影響で開催ができなかったが、毎年 12 ⽉に⽯垣島の「サッカーパークあかんま」で 「やいまカップ」という招待⼤会が開催されている。招待されるのは沖縄本島のチーム。2⽇間かけて⾏われるその⼤会では、招待された選⼿や指導者は⽯垣島で1泊することになる。素晴らしいグランド環境に加え、⽯垣島での楽しい思い出を作れるその⼤会は、毎年⼤⼈気で、すぐに参加チームの募集が埋まってしまうという。古賀監督は「今の⽯垣のサッカーレベルは、まだ沖縄本島のチームといかに戦えるか? というところが⽬標だが、近い将来には⽇本全国から強豪チームを集めた招待⼤会も開催したいと考えている」と話してくれた。さらに、「せっかく⽯垣島に来るのだから、サッカーはもちろんのこと、海にもぐったり、釣りを楽しんだり、⾃然と触れ合ったり、⼦どもたちが⽯垣島を満喫できるような⼤会にしたい」と⽬標を話してくれた。⽯垣島の⼈間性と、恵まれた⾃然と、ゆっくりと流れる時間。そういった環境が、本来の⼈間として⼤切な何かに気づかせてくれる、そんな⼤会になるかもしれないと感じた。

 

サッカーが⽬的なのか。⼈間形成が⽬的なのか

サッカーに真剣に取り組むと、ついサッカーそのものが⽬的化してしまう。それは、選⼿であろうと、指導者や保護者であろうと、誰しもが⼀度は経験したことのある感覚ではないだろうか。サッカーをする⽬的は⼈それぞれ違う。⼈間形成と答える⼈もいれば、仲間を作ることだという⼈もいるだろう。純粋に好きだからやっているだけだという答えも、素晴らしい⽬的(サッカーをする理由)だと⾔える。本来、サッカーは⼈が育つ上で重要な⽬的を実現するための、最⾼に楽しい⼿段であるべきなのかもしれない。

⽯垣島には個性豊かな⼦どもたちがたくさんいる。しかも、その個性は、⾝体的特徴を伴ったケースも多く、個性を⽬で⾒ることができる。そのことで、お互いの個性を、より⼀層意識をすることができるし、敬うことができるのかもしれない。⼈間の個性には、⽬に⾒える個性や⽬に⾒えにくい個性、様々なタイプの個性がある。今回の旅を通じて、わたしたち⼤⼈は、⼦どもたちに対して「少なくとも、サッカーをやることで個性が潰されるようなこと」だけはさせてはいけないと強く感じた。

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