/column/36705/

COLUMN

COLUMN

アルゼンチンでクラブチームを立ち上げた
森山潤の“子どもは育てるものじゃない”
【サコーCPの育成探訪 #7】

日々、スポーツと教育を探求するSPODUCATION コンテンツ・プロデューサー(CP)の「サコー」こと酒匂紀史が、気の向くまま思いつくままに、日本全国の指導者や育成現場に赴き、その理念や信条を紐解き、書き記すこのコーナー。第7回は、アルゼンチンで立ち上げたクラブチーム「無双Argentina」の代表を務める森山潤氏に同地と日本とのサッカー事情のちがいについて伺いました。

 

文=橋本新(SPODUCATION コラムライター)

 

 アルゼンチンのクラブチーム「無双Argentina」代表の、森山潤さんと出会った。小学生の時にW杯をテレビで見て以来、アルゼンチンでプレーすることを夢見て、そして夢を叶えた行動力のかたまり。今は新たな夢をもち、現地でクラブチームを創って、世界で活躍する日本人選手を育てようとしている。聞きたいことは山ほどあったが、やはり「日本とアルゼンチンにおけるサッカーのちがい」が面白かった。

 

サッカーは月謝を払うもの?

 まず驚いた。アルゼンチンのサッカークラブでは、月謝を払うことがほとんどない。では、どうやってクラブが経営できるのか。それは、子どもたちがいつか稼いでくれると言うのだ。

 あまり知られていないが、FIFAの規定で、国際間で移籍する場合、それまでに育成した学校やチームへ貢献金を支払うルールになっている。森山さんがアルゼンチンで日本人のためのクラブチームを創ったのも、それが理由の一つだ。だからこそ、アルゼンチンの子どもたちも、指導者も、意識がちがう。全員プロになるつもりなのだ。 

 

 

アルゼンチンのサッカーは……細かい!?

 アルゼンチンの子どもは言うことを聞かない。ある意味、自立しているともいえる。それは親が子どもを一人の個として対等に見る、この国の文化によるものかもしれない。だからこそ指導者は言い過ぎなくらい細かい指示をだす。「この速さでこの場所にこのタイミングでこの種類のパスを!」日本の子どもにここまで言うのは、はばかられるだろう。だが私たちは、彼らのように子どもを上からではなく、対等に見ることができているだろうか。

 

 

経済がちがえば、サッカーもちがう

 当時は100ペソ=1万円だったのが今では100円になっている、と森山さんは言う。日常的に物価変動が大きいこの国だからこそ、自然と自主性や判断力が身につくのかもしれない。経済がちがえば、サッカーもちがう。アルゼンチンにもリフティングができない子はいるが、みんな、デコボコのグラウンドでも、ピタっとボールを止められるのだ。

 

 

ストライカーは育てるものじゃない

 現地に伝わる言葉がある。

 「ストライカーは育てるものではなく、生まれてくるもの」

 どんなに素晴らしい指導者でも、メッシを育てられるかと聞くと、なかなか答えに困るはずだ。人が育てる、それ以上に、環境が人を育てる。

 南米で辛酸をなめた日本代表選手が、Jリーグに戻って毎試合得点することがある。恐れずに打ちにいく姿勢。自分の特徴を改めて知るきっかけ。環境を変えることは、人を強くする。森山さんはこう付け加える。「遠征は選手だけが行ってもダメ。指導者こそ現地へ行って、姿勢やきっかけを学ばなければ」と。 

 

 

自分の特徴を知っている、というインテリジェンス

 インテリジェンスのある選手は伸びる。最も大切なのは「自分の特徴を知っている」というインテリジェンス。だれもが自分の強みを磨き、強みを生かせる環境に身を置くべきなのだ。指導者がそれを教えるべきではない。アルゼンチンではチームで生き残るために、選手自身が考えている。「お前は何のためにチームにいるんだ?」と常に問われているのだ。これが日本ではなかなかできない。 

 

 

部活が根強い日本のモンダイ

 日本は、学校と部活が紐づいているのが最大の問題だ、と森山さんは言う。自分の特徴を生かせる場所へ、自分のプレーに適した環境へ、簡単には移籍できないのだ。日本でも、もっとやり直しが効くようにしなければ。もっと自分に適した場所で、もっとサッカーを楽しめるように。

 

 

楽しくなければサッカーじゃない

 最後に「アルゼンチンの子どもたちはサッカーを楽しんでいますか?」と聞いた。だがそれは極めて愚問だった。サッカーを楽しむのは当たり前。だがアルゼンチンにも問題はある。

 勝利至上主義だ。1年で結果を残さなければならない。勝たなければならないから早熟させなければならない。だが、そのために子どものたちの特徴を犠牲にしてはいけない。

 意識のちがい。プレーのちがい。経済のちがい。文化のちがい。やはり日本とアルゼンチンのサッカーはちがった。だが、ちがいとは、自分にはない新しさとも言える。今回、森山さんとお話できて良かった。サッカーをプレー(遊び)する心は世界共通だったからだ。

 

 

PROFILE

 

森山潤 株式会社無双 代表取締役(ARGENTINA C.F.)
1994年からアルゼンチン「レナト・セサリーニ」で選手として活躍。日本に戻り、営業力や語学力を身につけたあと、再び渡亜。2011年、アルゼンチンサッカー協会公認監督ライセンス(S級)を取得。1部プロクラブにてトップチームコーチに就任したあと、2020年に「無双Argentina C.F.」を設立し、日本人ストライカーが育つ環境づくりの、今に至る。

 

サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)
1976年4月1日生まれ、愛知県出⾝。株式会社 DOKAVEN 代表取締役。1998年に電通に⼊社し、2014 年クリエーティブディレクターに就任。数々のヒットキャンペーンを⼿掛ける。2021年独⽴に伴い、SPODUCATION コンテンツ・プロデューサーにも就任。未来ある子どもたちと、その親御さんや指導者の皆さんに、意義ある情報を届けることに情熱を注ぐ。

 

【サコーCPの育成探訪 ~back number~】

【#01】⽯垣島のサッカーアカデミーに学ぶ「個性を伸ばす育成」とは?

 

【#02】KSA(コーディー・サッカー・アカデミー)山田代表に学ぶ「親は、子どもとどう関わるべきか?」

 

【#03】タイでアカデミー事業を立ち上げた元Jリーガー大久保剛志氏に聞く

 

【#04】結成わずか5年で全少制覇! 20年度王者・FCトリアネーロ町田・若山監督の人間育成論

 

【#05】自己実現の象徴・長友佑都を目指す! YNFA・平野代表の挑戦 

 

【#06】“日本のあたり前”とは180度異なる母国の常識~現地在住の母親視点によるイングランドのサッカー育成事情~ 

 

【#07】アルゼンチンでクラブチームを立ち上げた森山潤の“子どもは育てるものじゃない”

ここから先は会員限定コンテンツです。
アカウント登録をしてください。
今ならプレミアム会員に新規登録で14日間無料!
アカウント登録 ログイン

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。

RECOMMEND