COLUMN

“日本のあたり前”とは180度異なる母国の常識
~現地在住の母親視点による
イングランドのサッカー育成事情~
【サコーCPの育成探訪#6】

日々、スポーツと教育を探求するSPODUCATION コンテンツ・プロデューサー(CP)の「サコー」こと酒匂紀史が、気の向くまま思いつくままに、日本全国の指導者や育成現場に赴き、その理念や信条を紐解き、書き記すこのコーナー。第6回は、海を越えてイングランドで3人の息子を育てるクリストファーズ佳世氏に、子どもたちの成長を通したフットボールの母国の最新事情や文化について伺いました。

 

文=サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)

 

今回は、2019年にご家族の事情で、ご主人と3人の息子さんとともにイングランドに渡ったクリストファーズ佳世さんに、フットボールの母国イングランドの育成事情を伺いました。イングランドのフットボールに纏わる環境や文化、育成の様子を通じて、一人でも多くのキッズアスリートを持つ親御さんや、指導者のみなさんに、ご自身の育成に対する考え方へ、よい刺激になったらと思っています。

 

広大な公園が多数あり、フットボールはまさに生活の一部

 イングランドには、たとえロンドンの中心部であっても、広大な天然芝の公園が多数あります。大人から子どもまで、サッカーボールを蹴り放題。その場で出会った人とも、すぐに一緒フットボールをやる文化だそうです。日本の公園にありがちな、「公園でボールを蹴るのは禁止です」とか「壁にボールをぶつけてはいけません」といった規制もなく、みんなが当たり前のようにフットボールを楽しんでします。「引っ越したばかりの頃、まだ英語が上手に話せなかった子どもたちも、フットボールというコミュニケーションツールがあったおかげで、すぐに溶け込むことができた」と佳世さんは話してくれました。

 

 

イングランドには、少年フットボールチームが無数にある

 イングランドには、少年フットボールチームが無数にあります。また、学年によるカテゴリ分けもしっかりとしており、Uー8までは5人制、Uー9~Uー10は7人制、Uー11~Uー12は9人制、Uー13からが11人制となっています。

 カテゴリによって、ボールのサイズ、ピッチのサイズ、ゴールのサイズも異なる設計がなされているのです。日本の低学年サッカーにありがちな、人数が固まりすぎる団子サッカーや、ゴールマウスの高いところに蹴るとキーパーの手が届かないといったようなことがあまりありません。成長に合わせた、丁寧な設計がされているのです。

 それぞれのクラブは学年毎にチームが分かれています。チームは参戦したいリーグを選んで登録でき、そのリーグのなかで1部から6部くらいまでDivisionが分けられています。年間を通したリーグ戦の結果が良ければ上のDivisionに昇格し、結果が悪ければ下のDivisionに降格します。

 

 

プロチームのアカデミーではセレクションはなく、すべてスカウト

 イングランドでは、アカデミーとはプロの下部組織を指し、プロ育成機関として機能しています。基本的に、アカデミーはアカデミー同士で試合をします。日本では下部組織に入るために通常セレクションがあることが多いですが、イングランドにはセレクションはなく、スカウトになります。

 1部リーグの試合などには、アカデミーのスカウトが見学に来ていることが多く、良い選手にはコーチ経由で声がかかるのだそうです。

 もちろん、声がかかった時点でアカデミーへの入団が約束されるわけではなく、その後練習会に参加し、アカデミー内で評価を得るなど、いくつものステップをクリアしてようやく契約へとつながります。そのため、一試合一試合がとても重要なアピールの場になっているのです。

 

 

イングランドの育成現場で、コーチの怒号を聞くことはほとんどない

 クラブチームのコーチは、お父さんコーチであるケースも多いのだそうです。コーチと選手との距離は近く、お互いを下の名前で呼び合うような関係だそうです。そして、イングランドではコーチが選手を怒るシーンをほとんど見たことがないそうです。イングランドは、元来個人主義のお国柄だと言われています。自分の主張をしっかりとして、相手の主張をしっかりと受け止める。相手に対するリスペクトを持ってお互いが接する。そういった文化が根付いているそうです。

 たとえ相手が子どもであっても、相手を尊重することができるのがイングランドの育成現場の特徴と言えるかもしれません。

 

 

試合は週末に1試合のみ。家族やプライベートの時間を大切にする文化

 このように育成環境が組織化されたイングランドですが、試合は週末に一試合のみというのが通例です。日本のように、一日に何試合もやるというような文化はありません。ましてや、一日中フットボールということもありません。週に一度の大切な試合に、存分に集中して、それ以外の時間は仲間や家族と過ごします。

 イングランドでは何事にも代え難いほどフットボールは人気のスポーツですが、だからといって何よりも優先されるというわけではないそうです。家族での誕生日会があるから、試合をお休みするという子も当たり前のようにいるそうです。そして、その選択に対して当然のように受け入れるのだそうです。「コーチですら、奥さんの誕生日、母の日などイベントがあると休んだりもします」と佳世さんは話してくれました。

 フットボールを愛するイングランドでは、同時に、家族の時間や、プライベートの時間を大切にする文化も根付いています。ちなみに、アカデミーのトレーニングも、代表戦と時間帯が重なる時は、練習を中止にして、みんな自宅やスタジアムで応援をすることもあるそうです。

 

 

フットボールのスタイルは国の文化やプレー環境によって育まれる

 イングランドの育成現場では、選手登録が一年更新になっています。チームの状況や自身の置かれた状況に応じて、移籍をすることは決して特別なことではないそうです。

 自分の考えを持ち、自分の考えを主張し、自分の行動を決めていく。そのことを相手は、しっかりと受け止めつつ、その人も自分を主張する。そういったバランス関係がイングランドの特徴なのかもしれません。また、イングランドのフットボールは「縦に大きく蹴る傾向がある」という方も多いと思いますが、「それは、子どもの頃からフットボールに親しんだ広い天然芝の公園が影響しているかもしれない」と、佳世さんは語ってくれました。公園の天然芝なので、決してキレイに整備されているわけでは無く、ボコボコのグランドのため、前にしっかり蹴らないとボールが前に進まないのです。

 細かなタッチや、パス回しはグランド環境的に難しく、蹴るフットボールが自然と身につくのではないかということです。「もちろん、強いチームやアカデミーになると、人工芝や整備された綺麗な天然芝で練習や試合を行うようになるので、必ずしもそれだけではないですが」と話してくれました。

 同じフットボールでも、国の文化やプレー環境によって、フットボールのスタイルというのは独自のものになっていくのかもしれません。

プレミアリーグのレスター・シティに所属していた岡崎慎司選手と

 

コロナ禍によるロックダウンの影響が次男を成長させた

 佳世さんのお子さんは3人とも男の子で、フットボールをやっています。特に、現在中学生の次男はフットボールに真剣に取り組んでいます。日本にいた小学生時代も、関西の強豪チームに所属し、ちびリンピックでは全国優勝をした経験があります。イングランドでもアカデミーのスカウトから声がかかる程の実績を残しており、将来が楽しみな選手です。

 そんな彼を襲ったのが、コロナによるロックダウンです。イングランドのロックダウンは、日本の緊急事態宣言よりも厳しく、休校に次ぐ休校で2020年の一年間はほとんど登校できなかったそうです。もちろん、チームの活動も完全に休止です。そんな中、チームのコーチが、選手のみんなに自主練の様子を動画で撮影して送ってくるよう指示がありました。

 自分の練習だけで無く、チームメイトの自主練習の様子も見ることができ、とても大きな刺激があったと言います。日本では、そのような時に、練習メニューもコーチから送られ、それを着実にこなすというパターンも多いのですが、このチームは、練習メニューも自分で考えなさいというものでした。個人主義のイングランドらしい指示です。

 しかし、そのことを機に、彼は自分で課題を見つけ、練習メニューを作り、動画で撮影し、コーチに送るという行動をするようになりました。自立と言える行動だと思います。そんな彼はある日、佳世さんに「サッカーのことに関しては俺が自分でわかっているから何も言わなくても良いよ。それ以外の生活のことは、言ってくれて良いから」と言ったそうです。以来、佳世さんは美味しいご飯を作ることと、練習の送迎を頑張ること。それだけに徹しようと決めたのだそうです。

 

佳世さんの中学生になる次男は小学生に時にちびりんピックで優勝している

 

世界には日本の当たり前を疑うたくさんの事実が存在する

 今回の取材を通して、日本のあたり前と180度違う、イングランドの当たり前を多く学ぶことができました。それは、どちらが正解で、どちらが不正解であるといったものではなく、自身が何も考えずに当たり前として受け入れていたことは、決して世界の当たり前ではないということを学ばせてもらいました。

 いろいろな価値観があり、文化があり、環境があり、考え方がある。そのことを一つでも多く学び、謙虚に吸収し、その上で自分の価値観を選択する。そして、子どもたちへの向き合い方を選択し、子どもにとって最適な状況をつくっていく。そういったことが重要であることを改めて感じることができました。また、どの指導者も親御さんも口にする「自立の大切さ」というものを、改めて強く実感する取材となりました。

 

 

 

PROFILE

クリストファーズ佳世
イギリス在住。3人の息子はともにサッカーを親しみ、神戸市在住時は地元の強豪クラブチームでプレーした。2019年3月にイギリス移住後は、サッカーの本場・イングランドで 3兄弟の育児に奮闘しつつ、サッカージュニア応援メディア「サカママ」にコラムを寄稿し、日本とイギリスのサッカー事情の違いなどを、母親ならではの目線で伝えている。

 

サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)
1976年4月1日生まれ、愛知県出⾝。株式会社 DOKAVEN 代表取締役。1998年に電通に⼊社し、2014 年クリエーティブディレクターに就任。数々のヒットキャンペーンを⼿掛ける。2021年独⽴に伴い、SPODUCATION コンテンツ・プロデューサーにも就任。未来ある子どもたちと、その親御さんや指導者の皆さんに、意義ある情報を届けることに情熱を注ぐ。
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