COLUMN

KSA(コーディー・サッカー・アカデミー)山田代表に学ぶ「親は、子どもとどう関わるべきか?」
【サコーCPの育成探訪#2】

日々、スポーツと教育を探求するSPODUCATION コンテンツ・プロデューサー(CP)の「サコー」こと酒匂紀史が、気の向くまま思いつくままに、日本全国の指導者や育成現場に赴き、その理念や信条を紐解き、書き記すこのコーナー。第2回は、Jリーグの育成組織やナショナルトレセンに数多くの選手を送り出しているKSA(コーディー・サッカー・アカデミー)の山田代表の教育観についてお話しを伺った。

文=サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)

 

PROFILE

 

山田幸治(コーディー・サッカー・アカデミー代表)
1980年5月26日生まれ、大阪府出身。2003年にパナソニック㈱に入社し、海外人事・人材マネジメント等を担当。2015年に独立し、コーディー・サッカー・アカデミーを主宰。賢く力強く戦える個性的な選手を育成し、毎年、J育成組織やナショナルトレセンに選手を多数輩出するなど、育成のスペシャリストとして活躍。

 

サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)
1976年4月1日生まれ、愛知県出⾝。株式会社 DOKAVEN 代表取締役。1998年に電通に⼊社し、2014 年クリエーティブディレクターに就任。数々のヒットキャンペーンを⼿掛ける。2021年独⽴に伴い、SPODUCATION コンテンツ・プロデューサーにも就任。未来ある子どもたちと、その親御さんや指導者の皆さんに、意義ある情報を届けることに情熱を注ぐ。

 

今回は、大阪で200人のスクール生が通う人気サッカースクールKSA(コーディー・サッカー・アカデミー)の代表を務める山田幸治さんにお話を伺った。KSAは、この3年間、毎年3名程度ナショナルトレセンの選手を輩出し、大阪、奈良、兵庫、和歌山の県トレセンにも、毎年10名程度送り出している。スクール生の5・6年生の約7割は、地域のトレセンメンバーに選ばれるという、まさにトップクラスの子どもたちを育成するスクールでありながら、KSAの面白い特徴は、山田代表が実はサッカーの未経験者であるという点だ。いったい、山田代表はどんな育成方針を大切にし、親御さんに何を期待しているのか? 山田代表の持つサッカー観・教育観について掘り下げるべく、インタビューを行った。

 

KSAはもともと、近所のお友達との自主練習会が始まりだった

バスケットボールの実業団の選手だった山田代表は、2006年に誕生した長男の逞人くんにバスケをやらせたいと思い、バスケットのボールを買い与えていたという。

転機となったのは、逞人くんが4歳のときに連れて行ったセレッソ大阪の試合観戦だった。元々、サッカー観戦が趣味だった山田代表は、偶然手に入れたチケットを持って、逞人くんと2人で初めてサッカー観戦に向かった。

その試合で、当時まだ日本代表には選ばれていなかった清武弘嗣選手が大活躍。その姿に魅了された逞人くんは「プロサッカー選手になる」と決めたのだという。山田代表曰く「その日を境に、やるならとことんやるということで、雨の日も風の日も、アホほど練習をしてきました」とのこと。土日ともなると、8-9時間は当たり前。親子2人で、サッカーのトレーニングに明け暮れたそうだ。

KSAは元々、親子2人での自主練習に、近所の友達を誘ってスタートしたことがきっかけで、山田代表が大学時代に作っていたコーディーバスケットボールアカデミーをサッカーに置き換えて命名した。その後、様々なキッズイベントで、逞人くんの天才的な技術が周りの目を惹き、「一緒にサッカーの練習をやろう」と、KSAのメンバーが次第に増えていったのだというから面白い。

 

山田代表の前職は、Panasonic。人事部門で人材マネジメントをやっていた

2003年山田代表は、松下幸之助の人生哲学(人を大切にし、人を育てていく考え方)に感銘を受け、Panasonic(当時:松下電器産業㈱)に入社。人事部門で人材マネジメントを行なっていた。「人を評価する仕組み、人を育てる仕組みに強く興味を抱いていました。」という。しかしながら、当時のPanasonicは業績が思わしくなく、人事部門の若手でありながら、雇用構造改革の実務部隊として、地方拠点の閉鎖や、長年勤めていた従業員に対して厳しい面談を行うなど、胸を痛める日々が続いていたそうだ。その経験を通し、人を育てる重要性を痛感し、40才までに自分の手で形あるものを作りたいと2015年にPanasonicを退社し、人事コンサルタントとして独立と同時にKSAを、本格的なアカデミーへと進化させたのだ。

 

KSAは、子どもたちがプロ選手になることを想定して育成をしている

KSAでは、「徹底して足もとを鍛え、徹底して球離れを早くする」を大きなテーマとして掲げている。KSA設立当時に、山田代表が感じていたことは、サッカーとバスケットボールの戦術を比較すると、バスケットボールのほうが、戦術要素が強く、奥が深いということだった。一方のサッカーは、足で扱うことが前提のため、バスケットボールほどの高度な戦術が使われていないと感じたという。

ならば、まるで手で扱うかの如く、足で自在にボールを操る技術さえ身につければ、サッカーでももっと高度な戦術を持つことができるはずだというのが、山田代表が最初に感じた仮説だった。その後、様々なサッカーに触れていく中で、スペインのサッカーなどは、非常に戦術性が高く、山田代表自身、見ていてピンとくるものが多かったという。

スポーツでは身体能力や運動能力は間違いなく大切な要素。どんな名コーチでもサイズはコーチングできない。ただバスケのようにサイズが大きく関わるスポーツの中でも、技術や戦術に長けた選手は活躍できる一面があり、それはサッカーにも通じるとの信念を持ち、子ども達に指導を行っている。

山田代表が子ども達の育成で大切にしているのは技術や戦術だけではなく、人間性の部分だ。KSAは、子どもたちがプロ選手になることを前提にしている。だからこそ、プロ選手になる以上、サッカーが上手いだけでは意味がない。「周囲に愛され、サポーターに応援されるような人間でなくてはなりません。」と語ってくれた。

KSAでは、スクール規約の中に、松下幸之助氏の掲げる「遵法すべき7精神」の考えが書かれているそうだ。特に、大切にしているのは「感謝報恩の精神」と「礼節謙譲の精神」。感謝の心を持つこと、謙虚な精神を持つことに対して、子どもたちには口が酸っぱくなるほど伝えているのだという。日本を代表する一流経営者の人生哲学が、少年サッカーの現場にリアルに落とし込まれている様子はとても興味深い。

 

KSAが育てるのは、セルフマネジメントを、習慣づけることができる選手

そんなKSAが、子ども達に対して最も大切にしている育成の価値観は、「自分自身でセルフマネジメントする習慣が持てる人間」を育てることだという。サッカーをやる上でも、人生を過ごす上でも、いつも順風満帆なわけではない。それでも、うまくいく時も、うまくいかない時も、やるのは本人だ。

だからこそ、本人自身がその境遇と向き合い乗り越えていく、自分自身をマネジメントして、自分の力で自分自身を次の世界へ連れていく。そういった力を持てるか否かが何より重要だと語ってくれた。実際に、これまで数多くの子どもたちと接していく中で、ごく一部の天才を除くと、自分に厳しく、目標に向かって頑張れる子どもこそが、最も伸び続ける選手になる傾向が高いという。山田代表は、panasonicの人事時代の経験をフル活用し、子どもたちには全員年初に、今年の目標を3つ掲げさせるのだそうだ。そして、その目標に向かって頑張る習慣づけと、その目標に対しての日々の取り組み(トレーニング)を意識させることを、育成方法の中心に置いているという。まさに企業でいうところのManagement by Objectives(目標管理制度)だ。

山田代表は、「KSAの子どもたち全員の父親だと思って、厳しさと愛情を持って接しています」と答え、「子どもたちには、最初、鬼コーチだと思われていると思います。しかし、何年も真剣に向き合っていく中で、高学年にもなってくると本当にフラットでいい信頼関係が構築されていくことが多いです」と振り返る。企業でのマネジメントスキルを、そのまま少年サッカー界に持ち込んだような、とても説得力のある新しい育成方法だと感じた。

 

子どもが伸び続けるために大事なのは「親」だと思う。

親として、子どもとどう関わるか? これはキッズアスリートを持つ親にとって永遠の課題だ。「伸びる子どもを持つ親の特徴はありますか?」という質問を山田代表に投げかけると、「これまで多くの親御さんを見てきて、2パターンがあると思います」と答えてくれた。1つは、徹底して無関心であること。全く関わらないパターンで、特にごく一部の天才的な子どもが、自由奔放に成長していくイメージだという。

そして多くの場合は、もう1つのパターン。子どもとしっかり関わっていて、子どもに厳しい親であること。山田代表曰く「まず大切なことは、自分の子どもの現在地を正確に把握してあげることです。自分の子どもを過大評価してもいけないし、過小評価してもいけません。何が武器で、何が苦手なのかを理解し、現時点でどの程度の実力があるのかを把握することが大事です」という。よく見られる傾向が、狭い世界の中で御山の大将的に上手な子が努力を怠ってしまうこと、そしてそれを親が助長してしまうことだという。

「上を目指す以上、自分より上手い選手はたくさんいるんだということを、親子でしっかりと把握し、成長のためにサポートすることが重要だと思います。人と比べることが目的ではなく、常に謙虚な気持ちと、飽くなき向上心を持たせることが目的です。特に小学生などの子どもたちは、情報を収集できる力が少ないため、親がしっかりとサポートしてあげる必要があります。もちろん、サッカーをやるのは本人。あくまで、親はそれを支えるだけであるという前提は忘れずに、ですけどね」と話してくれた。私はこれまで、子どもとしっかり関わる親を推奨する話をあまり耳にしたことがなく、とても新鮮で興味の湧く視点だった。

 

親御さんとも真剣に向き合うのがKSAの流儀

コーチと親御さんとの関係というのも、少年サッカー界ではいろいろと難しさを抱えがちなテーマである。そんな中、KSAでは、「親御さんとの個人懇談」を常時、山田代表が自ら行っているという。KSAでは、評価に応じてクラス分けを行っており、クラスが上がる選手もいれば、当然下がる選手もいる。山田代表は、それぞれの評価について、しっかりと親御さんに説明をしているのだという。

「親御さんからの様々なお悩みや相談を受け、しっかりと向き合い、問題を解決していけるような、そんなスクールでありたい」と力強く語ってくれた。真剣な親であればあるほど、向き合うことにストレスを感じるのではないかと思い、「よく、そんな大変なことをやっていますね?」と水を向けたところ、山田代表は「Panasonic時代の、雇用構造改革に比べたら、こんなのストレスでも何でもないですよ。むしろ、子どもたちには、未来しかない。そんな子どもたちの未来を一緒に作っていける仕事なんて、楽しみしかありません」と答えてくれた。ここでもまた、山田代表らしい経歴の特徴を垣間見ることができた。

 

サッカーの本質的価値は、コミュニケーションツールであるということ

「プロ選手を目指している子どもたち相手のスクールなので、練習中はとても厳しく行っていますが、オン・オフの切り替えは特に意識しています」と話してくれた。

「やっぱり、一番大切なことはスポーツ・サッカーは楽しいということ。リフティングができた時の喜び、ゴールを決めた時の喜び、そういった気持ちは、何よりも大切にして欲しいし、同時にサッカーとは仲間と一緒にやるスポーツであり、仲間と協力することの尊さも学んでほしい」と言う。

かつて、逞人くんが幼少期の頃、彼の見事なドリブルテクニックがYouTubeで話題となり、多くのサッカー関係者の中で有名になった。今でも、全国どこに行っても、逞人くんのことを知る選手や指導者は多いと言う。サッカーというスポーツが繋いでくれた多くの「人と人との縁」にとても感謝をしているという。楽しいサッカーを、仲間と一緒に一生懸命やる。やり続ける。そのことで次第に、人が人を呼び、輪が大きくなっていく。

大袈裟な言い方をすれば、サッカーには世界中を友達にするチカラがあり、世界平和にすら繋がっていくのではないかとさえ思える。そういう意味で、「サッカーとは最高のコミュニケーションツールだと思う」と山田代表は語ってくれた。

 

山田代表の将来の夢は、輩出した選手たちのエージェントを行うこと

2018年に、バーモントカップで全国優勝した大阪市ジュネッスFCは、フィールドプレイヤーに4名のKSAのメンバーがいた。KSA立ち上げ時のメンバーである彼らの5年後、10年後が楽しみである。さらに、KSAは二期生、三期生と、次々に全国レベルの選手を輩出している。山田代表の最初の目標は、KSAからプロサッカー選手を輩出すること。そして、世界レベルで活躍する選手を輩出し、選手のエージェントを行うことだ。どこまでも、子どもたちに寄り添い、サポートし、成長をさせていく。それが、山田代表の将来の夢だという。

今回、山田代表を取材して一番強く感じたキーワードは「覚悟」だ。

子どもと向き合う覚悟、親と向き合う覚悟、未来と向き合う覚悟。不安定で、不透明なものと向き合うには覚悟がいる。そして、その覚悟も、時には批判され中傷されることさえあるだろう。多くの人は、そこで挫けて、覚悟を失ってしまう。

しかし、山田代表には決して折れることのない信念と覚悟がある。

未来がどうなるかなんて誰もわからない。だからこそ、覚悟を持って切り開いた未来にこそ、本質的な意味があるのではないかと、強く感じた。

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