COLUMN

【アスリート育成に倣う 「新時代のチームビルディング」 坂井伸一郎 ♯01】
村井チェアマンの示唆を受けたビジネスとスポ―ツの相関関係
―前編―

アスリートの競技成果を向上させる座学プログラムを、ビジネスなどあらゆる分野の人材育成メソッドに体系化した「スティッキー・ラーニング」を開発した坂井伸一郎氏。「絞って伝えて、反復させること」をポイントに、多業種のビジネスパーソンを「戦力」に変えてきた人材育成のプロが、時代の変化に適応するチームビルディングの在り方について、連載でお届けしていく。

 

 はじめまして、坂井伸一郎です。「あなたはなんの専門家ですか?」と聞かれることにずっと苦手意識がありまして、どうしても答えなくてはならない時には「人材育成を生業(なりわい)にしています」とか、「たいていのことは2番目に得意です」などとお茶を濁すような答えばかりしてきたのですが、最近は「周りからはこう見えているんだな」というのを感じるようになりました。それは2つありまして、ひとつは「アスリートに座学研修をしている人」で、もうひとつは「チームで成果を出すためにどうしたら良いかを教えてくれる人」のようです。随分他人事だなと不快感を感じさせたならばごめんなさい。

 この2つはいずれも私が「そうありたいな」と願っていたことでもありますので、とても嬉しいことなのですが、さらにこの度はありがたくもSPODUCATIONさんからその道の専門家として対談企画に参加しませんかと声をかけていただき、なんとそのお相手がJリーグ チェアマンの村井満さんと聞き、「こんな私でよろしければ」とお引き受けをさせていただいたのでありました。そんな経緯ですので、対談というよりは「私が村井チェアマンにお聞きしたいことをたくさん質問して、いろいろお答えいただく時間」になってしまったことを大いに反省しており、お声をかけてくださったSPODUCATIONの堤さんや湯浅さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 このような私の反省を知ってか知らずか、対談終了後にSPODUCATIONさんから「坂井さんが、村井さんとの対談を通じて感じたことや、世のビジネスマンの方々と共有したいことなど、対談の60分の中では話せなかったことをコラムに書きませんか?」とのリカバリー機会を頂戴しました。やっぱり堤さんと湯浅さんもおんなじこと感じていたんですね……ごめんなさい。そんな流れで100%私見に基づく感想戦をコラム仕立てで書かせていただきますのでよろしくお願いします。

 

「常設チーム」と「臨時チーム」で異なるチームビルディング

 

 私が村井さんと行った対談のテーマは「結果を出すチームビルディング」。この中で強く印象に残ったことのひとつ目は、「代表チームのチームビルディングとリーグチームのチームビルディングは当然異なる」というお話です。これは常日頃、私自身が感じていることでもあります。私はアスリートに対して年に30回くらい研修を行い、ビジネスパーソンに対しても同じく年に30回くらい研修を行っているのですが、どちらにおいても一番ニーズが高く、数が多いのは「チームで成果を出すための研修(以下、チームビルディング研修と呼びます)」です。

 この中で、アスリート向けの研修では常設チーム向けのチームビルディング研修もあれば、日本代表チームのような臨時チーム向けのチームビルディング研修もあり、それ(常設チームと臨時チームでは、チームで成果を出すために意識すべきことやふむべきプロセス、使える時間、目指すゴールに違いがあるので、行う研修の内容も異なってくること)が当然だと思っているのですが、不思議とビジネスパーソン向けのチームビルディング研修をご依頼いただく際には、その別を問われません。なんとなくビジネスサイドの研修発注者の方々は「チームビルディング研修って1種類しかないんでしょ?」って思っている節があります。そしてそれはたぶん常設チーム向けのチームビルディングをイメージされていると思われます。

会社をひとつのチームと捉えれば常設チームと言えなくもないですが、私のイメージではビジネスの多くのシーンにおけるチームは臨時チームだと思うんです。プロジェクトは臨時チームそのものですし、管理職の方々が預かるグループや課といった単位のチームもメンバーや関係者の出入りがそれなりにあったりして、常設チームでありながらも臨時チームの性質を強く持っていると感じませんか? そしてその臨時チームが、目まぐるしく変化していく環境においてどう成果を出していくかがビジネスシーンにおけるチームに求められていることだと思うんです。

 

サッカー日本代表に学ぶ、チームコンセプト共有の徹底

 

 チームビルディングの話をする際によく使われるフレームとして、米国の心理学者でありグループ・ダイナミクスの研究で名を残したBruce Wayne Tuckman1965年に提唱した「タックマン・モデル」または「チームの発達段階モデル」と呼ばれるものがあります。このモデルを用いてチームビルディングを指導する方の傾向として「コミュニケーションと情報の『質』を高めるために、コミュニケーションと情報の『量』を増やす」という、質量転化的なアプローチが良く取られているのですが、コロナ禍の嵐吹き荒れる現在はもちろんですが、それがなくともいわゆる飲みニケーションやオフの日の職場イベントが敬遠されがちで、チャットツール全盛なこの時代に「コミュニケーションの質を高めるためには量を増やすことが近道だ」っていう問題解決アプローチには、どうも腹落ちしない感じを受ける方は少なくないのではないでしょうか。私もその一人です。

 この観点から、私は代表チーム型チームビルディングのエッセンスをビジネス界の方々にも取り入れていただくことを啓蒙しています。だって代表チームに招集されるメンバーはコミュニケーションの量を増やすことで質を高めるなんていうアプローチを選択していませんから。村井さんは代表チーム型のチームビルディングについて「チームのコンセプトっていうのをしっかりリーダーが示して、全員に伝えることを徹底」することが重要だっておっしゃっていました。そこができていないとそれぞれのメンバーが持つ個性や強みの発揮のしようがないと。ですから自ずと代表チームの場合は練習以上にコンセプトの共有、それを踏まえて考えていることや自分だからこそできることをメンバーに一回全部出してみてそれをみんなでどう扱うか話し合うような時間が重要なのです。ビジネスにおけるチームビルディングも、このアプローチをもっと取り入れればいいのになって強く思うのであります。

 

―♯01後編に続く―

 

PROFILE

坂井伸一郎(さかい しんいちろう) | 株式会社ホープス 代表取締役
成蹊大学卒業後、株式会社高島屋に入社して13年間在職。販売スタッフ教育や販売スタッフ教育制度設計も担当した。ベンチャー企業役員を経て、2011年に独立起業。現在は教育研修会社の代表を務めつつ、自ら講師として年間50本・2500名(業界の偏りはなく、製造業・サービス業・金融業・病院・学校法人など多岐にわたる)の研修を行なっている。社会人研修の他に、プロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修の講師経験も豊富(年間のアスリート座学指導実績1000名超は、国内屈指の実績)。講師としての専門領域は、目標設定・チームビルディングなど。座学慣れしていないアスリートへの指導経験が豊富ゆえに、「わかりやすく伝える」「印象に留めるように工夫する」という指導法を用いる。この指導教育メソッドを体系化した「スティッキー・ラーニング」は、アスリートのみならず、一般ビジネスパーソンにおいても、組織全体の人材レベルアップを図れると高く評価されている。
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