/column/36188/

COLUMN

COLUMN

【#05】 辻秀一│周りのパフォーマンスを引き出すリーダー(リーダーシップ)<前編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく。

 

パフォーマンスを引き出す構造はシンプル

 パフォーマンスを引き出すには、その構造を理解する必要があります。良きリーダーはパフォーマンスの構造を理解し、それに従って周りに対応しているのです。それはスポーツのコーチはもちろん、ビジネスにおけるリーダーや、教育における先生や、家庭における親はみな、その共通点があります。しかし、それは難解で複雑なものではありません。シンプルですが多くの人がこの仕組みを理解せずに人のパフォーマンスを伸ばし切れていないのも現実としてあります。

 パフォーマンスの構造は、内容と質で構成されています。わかりやすく述べると「何を」×「どんな心でやるのか」ということになります。どんな時もどんな人もこの例外はありません。ということはパフォーマンスを伸ばし引き出すには、この二つの構成要素に働きかける必要があるわけです。

 

指示と支援のバランス

 何をしないといけないのかへのアプローチを「指示」と呼びます。一方でどんな心でやるのかを配慮して、揺らがすとらわれずの質のよいフローな心に導くアプローチを「支援」と呼びます。良いリーダーは間違いなくこの指示と支援のバランスがよいのです。

 どんな人もどんな時もこの二つの構成要素がある限り、どんな人に対しても指示と支援のバランスが必要ということになります。同じ相手であっても指示と支援の割合は変わる事はもちろんあり、相手によっても指示と支援の割合は変化します。しかし、指示だけになり支援がなくなればハラスメントの傾向になり、指示がなく支援だけになればカウンセリング傾向になります。

 

人間の仕組み・心を無視した指示は結果を生まない

 指示は「何を」へのアプローチですから認知的な脳が要求されます。明確に具体的に意味を伝えそれは厳しくてもよいのです。しかし、それだけになると相手は間違いなく揺らぎととらわれの心が生じノンフローになります。したがって、パフォーマンスの質は上がらず結果や成長を導けないということになるでしょう。

 そのようなケースは少なくありません。指示だけでは人の極めて重要な心の部分を無視しているのでロボットならよいですが、残念ながらパフォーマンスを引き出すことにはならないのです。それは人間の仕組みを無視しているからです。一方でただ心だけよければいいと言うのではありません。必ずそのバランスが大事なのだということを強調したいと思います。

指示だけでは人は最大のパフォーマンスを発揮することはできない。人の心を理解した支援があって、質は向上していく / Getty Images

指示は状況によって異なり、支援は普遍的な原理原則がある

 さて指示は「何を」に対するものなので、競技によっても違いますし、ビジネスによっても違いますし、状況においても違います。認知的な指示の声かけですので、わたしもそこへのサポートはできません。ただ明確に具体的で意味を伝えることはどんな場合にも重要になります。

 「いいからがんばれ!」とか「とにかくやれ!」は指示として最悪と言っても過言ではありません。支援のアプローチは心への配慮なのでそれが私の専門となります。スポーツ界のコーチやビジネス界の上司や教育界の先生や家庭での保護者の方々にこの相手の心をフローに導く支援の重要性を伝えるのがわたしの仕事になっています。支援は普遍的な原理原則があるので、多くの方々が参考にされ支援力を伸ばしリーダーシップを発揮されています。とてもわたしも心強く思っています。

 

有能なリーダーの必須項目

「支援力」のある人に共有するスキルとは?

―#05 後編へ続く

 

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

【Dr.辻によるスポーツから学ぶ「凪」の技術/辻秀一~back number~】

【♯01】元体操のオリンピアン、田中理恵さんにみるビジネスに活かすライフスキル<前編>

【♯02】『スラムダンク』に観るエクセレントチームの考え方<前編>

【♯03】「自立に重要なパフォーマンスマネジメント」<前編>

【♯04】スポーツにもビジネスにも必要な非認知能力<前編>

【♯05】周りのパフォーマンスを引き出すリーダー(リーダーシップ)<前編>

【♯06】アスリートが伝えるご機嫌の価値<前編>

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。

RECOMMEND