長く日本代表の守備の要として活躍し、FC東京の精神的支柱としてチームをけん引する森重選手。日本を代表するディフェンスリーダーが考えるスポーツのチカラが人間力に与える効果とは?(2020年4月に収録)
目次
今自分ができること考えて、課題を与えて、また考える
──SPODUCATIONが本日(2020年8月21日)サイトオープンをいたしました。「スポーツが持つ、人が育むチカラとは何か」を、森重真人選手たちSPODUCATORの方々と一緒に紐解いていければと思っています。
「僕はアスリートとして、そして子を持つ親として、皆さんの参考となるような経験談や情報を発信していければと思っています。また、僕がお話しさせていただくだけでなく、皆さんの悩みに対する意見の交換など、スポーツの持つチカラについて、一緒になって解明していく場にできればと思っています。まだ最初なので手探りですが、少しずつ積み重ねていければと思います」
──私は教育には答えがないと思っていて、だからこそ皆さん努力をするし、勉強をするんだと思っています。
「そうですね。サッカーに置き換えても同じことが言えると思います。前の試合で通用したから、次の試合でも通じるかと言えばそうではありません。状況に応じて、常に考えて選択をしないといけないのがサッカーです。考えても考えても、正解がない。教育と一緒で、答えを探し続けるスポーツなんだと思います」
──コロナ禍により試合や練習が満足にできない中、モチベーションを保つ方法は?
「平常時は『ポジションを奪う!』など目的があるから日々の練習に力が入るのだと思います。では今、この期間に何を目標にするのか? が大事ですよね。最初は新鮮さもあって2週間くらいは家でもトレーニングできると思います。ただ、その先は明確な目標や目的がないと、モチベーションを維持するのは難しいですよね。そこで、僕は外部からの刺激を大事にしています。YouTubeやInstagramなどで自分が知らないトレーニングをやっている人を見ると、それだけでモチベーションが沸きます。『この人がこれだけ頑張っているなら、自分も嘆いている場合じゃない!』と、いろいろ考えながらやっています」
──目標を作り出すことでモチベーションを維持する?
「そうですね。リフティングとか、今までできなかった技にトライすることは、外でサッカーするときに必ず生きます。今できることを考えて、自分に課題を与えて、それをクリアするために、また考える。サッカーは自分で考えて判断することを繰り返すスポーツです。今こそ目標を見つけて実践する、いい機会だと思います。何をしていいかわからない時は、YouTubeをみて人の真似から入ることで、次のアイデアも生まれるものです。参考にすることもすごく大事です」
──森重選手が子どもの頃は人の真似をして上手くなった?
「僕の小さい頃は映像・情報が今ほどなかったので、本当に好きでボールを蹴っていました。狙ったところにボールを蹴られたことが嬉しかったですね。そういうのを無意識にやっていました。今の子どもたちはYouTubeなど映像が溢れているので、公園でトライして自分で試してやってみてほしいと思います。今の環境は当時の僕からみたら羨ましい限りです」
──今は(新型コロナ感染拡大自粛による)時間もありますからね。
「サッカーをする時間は減ったかもしれないけど、じゃあ今何ができるのか。僕はサッカー以外のことを始めたり、シーズン中より忙しい毎日を過ごしています。新しいことを始めるチャンスなので、あえて自分を追い込み、学ぶようにしています。インターネットを通して、時間が足りないほどやることがありますよ。みなさんはプロになるために今何が必要か、一つずつクリアしていくことが大事だと思います。筋力や体力が衰える反面、伸びるところが別にあるはずです」
目先の目標に惑わされない。自分に意識を向けるべき
──「レギュラーになれない、試合に出られない」など、要は上手く行かないときに自分をどう鼓舞していけばいいと思いますか?
「そういう時は往々にして、目の前の目標しか見ていないケースが多いです。それがダメだと落ち込んでしまう。そうではなく、もっと先の目標を作るべきです。将来的にプロになるという大きな目標があれば、今試合に出られていないことを悲観している時間じゃないと気づきます。プロになるために今すべきことを考える。目先の目標に惑わされないことが大事です。あの人にできて自分にできないことは何か? 目標の組み立て一つで変わってくると思います」
──上手く行かないことを何かのせいにするでなく、課題を自分で作ると。
「人を変えるわけにはいかない。それより自分を変える方がいい。自分に意識を向け、環境のせいにしない方がいいです」
──それは人生にも置き換えられますね。
「サッカーから、礼儀、振る舞いなど、多くを学ばせてもらいました。人生の成長の中でサッカー、スポーツは人格形成で一本の柱になると思います」
人より10倍多く失敗してきた。それは人より10倍多く挑戦したから
──「失敗」という言葉があります。これをネガティブと捉えるか、ポジティブと捉えるかで意味合いが変わってくると思います。
「『失敗』という言葉がよくないですよ。イメージもよくない。失敗しない人生なんてないですから。サッカーなんて失敗の連続です。唯一成功したものがゴールであり勝利なんです。嘆いている時間がもったいない。失敗した数だけ上手くなる。これは間違いないです。トライしてエラーを繰り返すとで、精度が上がってくるものです。でも、やっちゃいけないのは、同じ失敗を繰り返すこと。初めてそこで失敗になると思います」
──森重選手は以前から失敗を恐れずに繰り返し挑戦を続けることで、成功を掴んできたとおっしゃっていましたね。
「僕はDFなので、ボールを触る機会が必然的に多くなります。そこで難しいパスを選択して、結果それを奪われて失点するケースもありました。でも、その困難なパスが通り、ゴールに結びつくことになれば、それは次につながります。自分がこだわって、チャレンジしたことが結果につながれば、次はさらにその精度を上げていこうという気持ちになるものです。もちろん、周囲の意見を聞き入れないわけではありませんが、自分のこだわりは常に大事にしています」
──自分もこだわりを持ち、考える癖ができているから、それが挑戦する動機になるのですね。
「もちろん、監督やチームメイトの要求もあります。ただ、それに従うのでなく、自分の特徴を理解し、チームの戦術の中でプラスαで体現することが重要だと思います。サッカーはチームスポーツでもあるし、個人スポーツでもあるので、その両方のバランスが大事なんだと思います」
──森重選手は試合でも失敗を恐れていない印象があります。
「僕は若い頃にパスミスが多いと指摘されていましたが、僕は人よりチャレンジした数が10倍多いと思っています。だからミスする可能性も10倍多いんです。それでも難しい10本のパスの中で3本が通れば、それが自分のプレーになるなんだと思います。ミスすることは僕にとって『次は別のやり方をしたらパスが通る』と考えるものなんです。そこで経験値が生まれてくる。その繰り返しですよね。どんどん失敗してほしいです。本当に失敗という言葉がよくない。何か新しい言葉を探してくださいよ(笑)」
──今度一緒に考えましょう(笑)。「失敗」はチャレンジした先であることが大事ということですね。
組織の成長を考えてから新しい世界が見えるようになった
──サッカーは組織スポーツでもあり個人スポーツでもあると思います。森重選手は自分だけでなく、キャプテンとして組織を成長させないといけない立場にあると思います。それゆえの悩みがあったと思いますが?
「サッカーに正解がないのは大前提として、僕は個人が良くならないとチームもよくならないと思っています。まず自分自身の能力にこだわってほしいですね。特に若い年代の時はそれでいいと思う。僕はプロになってFC東京のキャプテンになってからチームのことを考えるようになりました。それまでは自分のプレーばかり気にしていましたが、組織の成長を考えてから、新しい世界が見えるようになりました。そこで悩むこともあるし、逆に周りをみすぎて自分のプレーができていなかったりすることもあります。そのバランスが難しいのですが、基本的には個人の能力が優先だと思います」
──キャプテンになってチームのことを考えてからの方がサッカーが楽しくなった?
「正直、純粋にサッカーが楽しかったのは自分のことだけを考えていた小学生時代(笑)。サッカーはシンプルなんですけど、情報が入れば入るほど、その中からチョイスして行かなくてはならないスポーツです。選択する作業は難しいのですが、考えることはすごく楽しい。サッカーはこんなに奥が深かったんだという発見もあります」
不安があるから「緊張」する
──次は「緊張」することについて。森重選手は試合で緊張する方ですか?
「いい意味での緊張感はすごく大事だと思います。僕はリラックスと緊張感の間の状態でZONE(究極の集中状態)に入ります。『左からきたパスを右にはたく、相手がきたらこう動く』など常にイメージしていますが、良い緊張感の時は考えるより先に身体が動くんです。その状態がベストな緊張感ですね。リラックスしすぎるのもよくないと思います。
──緊張はしちゃいけないと思うことがダメで、受け入れると緊張をしなくなるとも言いますね。
「緊張しやすいタイプとかは人それぞれだと思いますが、自分を分析してやっていくことが大事だと思います。不安があるから緊張する。ミスすることを恐れているのであれば、それは練習が足りないのだと思います。考えて考えて限界まで練習したら人は開き直れて、良い緊張感になります。小さい時の『根拠のない自信』は持っていていい。できないとわかった時点で成功ですから。それを成功させるために発展していくことが大事なんです」
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