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ONLINE SEMINAR

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野澤武史×畠山健介│ポジショニング戦略で育むセルフプロデュース術

 

他人を物差しにするのでなく
いかに自分と向き合えるか

 

──畠山さんがプロ意識に気づくきっかけになったのはどんなところなんですか。

 

畠山 2015年のワールドカップの後のトップリーグの試合ですね。ワールドカップに初めて出場したんですが予選敗退して、目標のベスト8には到達できなかったんです。ただ、自分たちのビジョンは達成したので良かった。でもそのあとのトップリーグの試合で、やっとラグビーの試合を多くの人に見てもらえると思った矢先…お客さんの席がガラガラだったりとか、チケットの問題だったりとかで、なんでなんだろうとか……憤りと苛立ちがあって、そこから色々考え出したんです。それまでは代表ってだけで良かったんですけどね。

 

野澤 プロって、どこまでの時間軸というか、どこまでそれに責任を持つかということだと思うんです。そのマインドが上手くいかない時期だったんじゃないかと思うんですよね。プロという制度ができた時、社員だった人も一緒に練習をしていたんです。僕の知り合いだと、課長をしていた仕事のできる人もいたんですけど、出張などで欠席することも多かったんです。自分はプロ契約をしていたんですけど、昼間仕事をしているわけではなかったんですが、取り組みはその人の方がプロだなって思いました。「プロになる」って言うのは簡単ですけど、実際は簡単ではないんですよね。

 

畠山 僕はそもそもラグビーに関しては、日本にプロはいないと思っています。僕の定義としては、「お客さんのお金でご飯が食べられる」のがプロだと思っています。社員契約でも日本代表になっている人もたくさんいますし、プロになれるのにあえてならない、という人もいるんです。そういうところは、自分と向き合っているかどうかだと思います。社員選手だから伸びる人もいますし。

 

野澤 得手不得手とか、自分のタイプだと思えるかっていうのは強いと思います。他人の物差しで自分を比べて勝負をするのは、苦しいんですよね。あいつはこういうタイプ、自分はこういうタイプだというふうに考えられると強いですよね。

 

畠山 僕は人と比べて筋力がないな、とか比較しがちなんです。エディー・ジョーンズとの面接で、「強みは何か」って聞かれた時に「わかりません」と答えてしまって。そういうと彼は僕の強みや特性を教えてくれたんです。その上で「こういうところを伸ばしていこう」というアドバイスをもらいました。だから、強みとか特性とかを導いてあげる人の存在っていうのは、すごく大きいなと思います。

 

 

「指導」ではなく「コーチングで」
個々の強みを引き出す

 

野澤 大切なのは「コーチング」なんですよね。人を目的地まで連れて行くという。でも日本にあるのは「指導」だと思うんです。聞いた子が言葉を受け取ってどう成長していくのかっていうところまで含めてのアドバイスができる人に出会えるというのは、セルフプロデュースを確立していく中では、いい出会いになりますよね。

 

畠山 そうですね。今の子供達を見ていると……自分の時もそうですけど、自分自身をどう表現するかっていうよりも、周りと足並みを揃えるというようなプロデュースをされているかなと思いますね。アメリカは個人主義で、日本は集団主義と言われていますが、一概にどっちがいい・悪いというわけではないと思いますけど。何が正解かはわからないので。

 

──ラグビーの組織戦術の中で培われるものは?

 

畠山 目標の共有ですよね。ビジョンや信念を共有するっていうところと、どうやって達成するかという目的意識を共有できるというところ。あと、個人で役割が与えられて、どう判断するかっていうところも、ある程度の裁量でもらえるので。チームとして、そして個人としての判断力を養われるというのは、間違いないと思いますね。ただ組織として大きすぎると動きも鈍ってしまいますし、少数人数の方が共有しやすいと思うんですよね。だから大きいからといって……強いとは思うんですけど、進む力が速いかというと、どうなのかなっていうところがあります。組織って難しいですよね。

 

野澤 僕はユース世代をコーチングしていて思うんですけど、「加速力」を重要視しています。大人になると、回数を図るんですよ。試合の中で何回加速しているか。簡単に言えば、「勝ちたいと思っている欲」だと思うんですよ。だんだんプレーが成熟して年齢が上がると、自分を100%で当てられるようになる回数が増えていくんですよね。このアクセルの数って、社会に出ても大事なことかと思うんです。

 

 

ナンバーワン、オンリーワン、そしてファーストワン
一番最初に飛び込む勇気

──ラグビーはポジションごとの役割が明確で、色々な個々の能力が結集しているイメージが強いです。

 

畠山 そのあたりがやはり、企業の部署と親和性が高く、ラグビーが企業のスポーツとして愛された理由なんじゃないかな、と思いますね。それぞれの特性を活かしつつ、一つの目標に向かって歩んでいくという……ビジネスとラグビーの親和性が、そのまま企業スポーツの発展に繋がっているのかな、と僕は思いますね。起業されている方や社長の方は個人の本質を見抜く力が長けてると思うので……ラグビーの可能性や価値などの本質的な部分を見てくれていると思うんですよ。それが大企業がラグビーチームを持っている所以かな、と思います。

 

野澤 会社って本当に面白いなって思うんですけど、自分の位が上がっていけばいくほど、自分が解決できる問題って減っていくんですよね。僕は偉くなればなるほど、自分でなんでも解決できると思っていたんです。でも実際は真逆なことが起こっていて……。自分が偉くなればなるほど、他の人がどうやったら動きやすくなるのか、目標に向かっていけるかとかっていうところが大事になってくるんです。仕事って難しいな、って思いますね。

セルフプロデュース力と言っても、僕は一流の選手にはなれなかった。かといって2流じゃなかったとも思っているし……ちょうど1.5流くらいだったと思っているんです。そういう人間が引退してラグビーに携わっていく中で、どうやって価値を見出していくのかということを考えていったんです。僕はポジショニング戦略を取りました。ポジショニング戦略とは空いているところを探してそこで勝負していく戦略です。よくよく自分のことを考えたのですが、この戦い方しか僕に勝ち目がなかったのです。でも、最後はすべてナンバーワン戦略になっていきます。いい場所はライバルもすぐにそこを目指してきます。そうやって、自分の戦える場所をまず見つけて、そこで持続的に生き延びるにはどうすればいいのか? を考えるのが僕は好きなんです。とにかく「自分と向き合う」っていうことだと思いますね。他人に指摘ができても自分に指摘をするというのは難しいんです。自分のことは一番わからないわけなんですけど、そんな風に、自分と向き合うことにどれくらい時間をかけることができるのかということが、大きな差になると思います。畠山さんはどうですか?

 

畠山 僕が小さい時はスマートフォンなんてなかったんですよね。だけど家にいても暇なわけで。そんな時にいろいろなことにイメージを膨らませたり、考えたりしていたと思うんです。でもはスマートフォンが普及していて、暇がつぶせますよね。そうなってくるとやっぱり、自分と向き合う時間は減ってきているんじゃないかな、って思いますね。あと先ほどオンリーワンの話が出ましたよね。僕はプロフェッショナルで生き残れる3パターンっていうのは、ナンバーワンとオンリーワンと、ファーストワンだと思っています。その競技のトップの人と、オリジナルの型を持っている人、そして一番最初にそれを行った人ということです。この3つのどれを目指すのかって、すごく大切なことだと思います。

 

──ファーストワンっていいですね。ちょっとできそうな気もしますね。

 

畠山 飛び込んでみる勇気と、チャレンジする勇気がないとダメだと思いますけどね。自分がどう他の人と違うのか、というところは常に考えていますね。日本は恵まれていると思うんですよ。普通にみんなと同じことをやっていたら、飯が食えるじゃないですか。アメリカとかヨーロッパの国、またアフリカとかもそうですけど、貧困とかで今日どう生き抜くかもわからないところで生きている人は、「この大会で勝ったら人生変わるかも」って思ったら、スイッチ入れますよね。頑張るじゃないですか。日本はそういうことが根本にないのかなって思うんです。逆に言えばそれがすごく幸せなことだとも思うんですけど。生活が安定している上で高みを目指すという……次元が高いような気がしますね。

 

野澤 だからこそ我々日本人には、目的が必要なのかもしれないですね。

 

畠山 僕は今35歳ですけど、今の僕の幸せの定義っていうのは、「選択できる幸せ」です。お金があるけれど、安いものも高いものも食べられる。一般的には「お金がないから、これしか食べられない」ということが多いと思うんですけど。そういう意味で言えば日本人は日本に住んでいれば幸せだし、ストレスも少ないし、犯罪に遭う確率もそんなに多くないかもしれない。それでも海外に飛び出せる選択があることは、すごく幸せなことなんじゃないかなって思いますね。

 

──本日は貴重なお話をお聞かせいただきました。どうもありがとうございました。

 

PROFILE

野澤武史
1979年4月24日生まれ、東京都出身。慶応義塾幼稚舎5年生からラグビーを始め、慶應義塾高校では主将としてチームを花園に導き、全国高等学校ラグビー大会ベスト8進出に貢献。慶應義塾大学ラグビー部では2年次に大学日本一に輝く。神戸製鋼コベルコスティーラーズにて現役引退後、母校の慶應義塾高校や慶應義塾大学でコーチを務め、U17日本代表ヘッドコーチに。日本ラグビー協会リソースコーチとして人材の発掘・育成にも勤しむ。現役時代のポジションはフランカー。グロービス経営大学院卒(MBA取得)。 山川出版社代表取締役副社長、一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事。
畠山健介
1985年8月2日生まれ、宮城県気仙沼市出身。仙台育英学園高等学校ラグビー部に所属し、全国高校ラグビー選手権に3年連続で出場。2004年、早稲田大学に入学。4年連続で大学選手権に出場し、3度の大学日本一を経験。2008年、サントリーサンゴリアスに加入。同年、日本代表デビュー。通算78キャップ。2度のワールドカップ出場を果たし、2015年アフリカ大会では右プロップとして日本の歴史的勝利に貢献。2016年、イングランドプレミアシップのニューカッスルファルコンズに加入。2020年からは米ラグビーメジャーリーグのニューイングランドフリージャックスでプレイしている。
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