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野澤武史×中竹竜二×益子直美│成長を加速・減速させる「大人・親・指導者」とは?

 

指導者同士が上手くやるためには、「共通項」を探すこと

野澤 事前の質問もたくさん来ているので、ぜひお二人にお答えいただければと思います。思考が古いタイプの指導者もいると思います。そういった方の思考を変えていくには、どんな働きかけが有効でしょうか?

中竹 難しい質問ですね。僕もそういった思考の方とたくさん戦ったのですが、戦っちゃダメだと失敗して感じました。古いタイプの指導者は好戦的な方が多くて、「選手は叩けばいいんだよ」みたいな人も中にはいます。でも元々その人も、最初は「選手を勝たせたい、優勝したい、自分自身も成長したい」という「共通項」があったはずです。だから、その共通項に話を持っていけば「お前分かってんじゃん」と意見が一致すると思います。そう言わせるところまで、まずは行く必要がありますね。「あなたの指導は古くてダメです」とダメなところから入ると簡単にやられるし、一生ぶつかりが取れません。僕も最初は結構失敗しました。僕のコーチングは「学びを得る」ことを目的としていますが、大体「それをやって勝てるのか」と質問が来ます。でも勝ち負けの話は別なので、これに付き合ってはダメ。直球が飛んできてもスッとかわして、「さっき肩組んだじゃないですか」と言える関係性に持っていく。お互いの「YES」を合わせるのが重要ですね。

益子 私は全部受け止めていましたね。テレビに出ると、「こんな怒らない指導で勝てるのか」みたいなメッセージをいただくこともあって。上手くかわすのがいいんですね。

中竹 そうですね。そういう方には議論すれば勝てますが、相手に嫌な思いをさせてしまう。勝負はパイの取り合いだから、勝てない人もいるのがスポーツ。何かをやったら必ず勝てるという理論がそもそもおかしいですよね。その理論で行けば、皆がやったら皆勝てることになってしまいますから。その質問自体がスポーツの構造を理解していないということで、それに気づいた相手はだんだん恥ずかしい思いをします。ただ、そうやって論破した後はお互い気分が悪いんですよね。だから、僕は論理的に詰めるタイプですが、それは止めた方が良いと気づきました。スッとかわして、「さっき肩組んだじゃないですか」と言えるのが理想ですね。

野澤 面白いですね。お金の交渉する時も、どちらが勝った負けたじゃなくて、お互いの幸せが最も大きくなる取引が最も優れた交渉と言われています。「ここまでは僕達同じ意見ですよね」と言って、相手にも気持ち良くなってもらうのは大事ですよね。

益子 去年の益子カップの話をさせてもらってもいいですか? ベテランの監督さんで怖い指導をする方がいたのですが、重鎮すぎて私もあまり怒れなかったんですよ。ただ去年の11月に4回目の大会を終えた時は、ちょうどテレビ撮影をしていたから、怒るのを我慢していたと思います。その監督のチームは接戦で負けたのですが、私の所に来て「タイムアウトを取ったけど、怒ってはいけないから我慢した。なんて声をかけたらいいか分からなかった」と。今までは怒りを使った指示出しをしていたようで、全く言葉が出てこなかったそうです。それで、「どうすればいいか教えてください」と頭を下げてきて。4年目にしてベテランの監督さんが変わってくれたことが、すごくうれしかったですね。

中竹 いいですね。その監督さんは本当に苦しまれたと思います。答えがない中にいるのが、実は学びを得ようとしている所なので。声をかけられずに苦しんでいる監督を見て、選手も「勝ち負け関係なく、この人も苦しみながら学んでいるんだ」と分かったでしょう。すごく大きな学びの場になったと思います。スポーツだから、試合に負けたら否定された方がいいわけです。それを受け止めて、次にどうするか考えるだけですよね。その監督さんは素晴らしいですね。

 

「勝利」というスポーツの原則の捉え方

野澤 楽しむことを優先して平等にチームを組んで、結果があまり良くないスポーツチームもあると聞きます。どこかの段階で叱ったほうがよいのでしょうか?「勝利」と「楽しむ」、バランスが難しいですよね。

益子 私は怒ってはいけない大会を主催していますが、その大会だけの特別ルールです。普段の練習では叱らないといけない場面もあると思うので、それをダメとは言いません。けど、やっぱりテレビの影響も大きくて上手く伝わっていない部分はあります。ルール、規律は大人がしっかり正してあげないといけません。ただ、小学生の環境でも「ミス」という言葉がすごく多く使われています。小学生のうちはミスじゃなくてチャレンジと考えるべきだと思うので、藤沢の大会ではミスという言葉も禁止にしました。怒る時は理由を説明して、ちゃんと伝えた方がいいと思います。

中竹 同感ですね。スポーツをやる以上、勝利は絶対に必要です。選手に「勝利はどうでもいい」というべきではないと思います。競技によっては、勝利を目指すということがルールに書かれています。「今日の試合、負けてもいいからやろう」というのは、そもそもスポーツの原則に合いません。勝負に勝つことを目指さないと、ゲームが成り立たない。楽しさと勝利、お互いが矛盾するような議論がされていますが、やっぱり勝つ喜びをスポーツで味わうのは大事です。世の中の流れを気にして「勝利至上主義はダメなのかな」と考えるのは、もったいないと思います。楽しむために平等にすると言ったら、本気でやっている子の楽しみが半減してしまう。目的に応じたコーチング、しつけが必要です。とはいえ楽しむことも必要なことなので、ちゃんとした整理を指導者側がすべきですね。それを理解したうえで、選手や保護者とうまくやれればいいと思います。

野澤 確かにそうですね。100対0ではなくて45対55とか65対35とか、そういう微妙なところに答えがあって。そこを見つけていくのがユース世代の指導者にとっては一番難しいところ。親御さんがかける言葉にしても同じです。野澤家が良かったのは、親父が僕の勝敗を全く聞かなくて、いつも「ご苦労!」しか言わなかったところ(笑)。日本代表の試合だろうが大学選手権だろうが、「試合に出たのだからすごいね」みたいな。あまり突っ込まれなかったから、ほっとできたかなと思います。

中竹 それは大事ですよね。勝負も大事だけど、終わった後はあっけらかんとした方がいいですよ。

益子 私はそれが出来ませんでしたね。

野澤 バレーボールの方がClubhouseで語っているのを聞くと、溜まっているなと思いますね(笑)。

益子 今まで言える環境がなかったのですよね(笑)。「怒ってはダメ」とか発信するのは、お世話になった監督さんを裏切っていると言われることも。でもそんなことはなくて、感謝はしています。ただ、心が育っていなかったので、以前は発信しづらかったんですね。勉強し始めて、自分のダメな所が分かったり、「監督のあの言葉に救われたな」と気づいたり。当時はモヤモヤしていて、アバウトな世界でした。「声出せ」と言われてもどんな声を出せばいいか分からないし、「気合入れろ」と言われても、入れ方が分からない。そういうものがどんどん明確化して、「寄り添ってくれていたんだな」ということが分かるようになりました。

 

大人が学ぶのに必要な「learn」と「unlearn」とは!?

野澤 指導者や親御さんは、本当に子どものために一所懸命考えていると思います。ただ、「子どものために学ぼう」というところには、中々向かないようです。

中竹 学びには「ラーン(learn)」「アンラーン(unlearn)」の2種類あります。ラーンは「新しいもの、自分にないものを学んでいくこと」で、これをやる人はたくさんいます。でも益子さんが言っていたように恥を捨てて、自分をさらけ出して、自分とは違う考えを受け入れる。「一旦学んできたものを捨てて、新たに自分を塗り替えていく」というのがアンラーン。これは痛みをともなうので大変ですが、これこそが大人の学びです。後者のアンラーンをどれだけ促せるかが指導者、大人にとって相当重要。アンラーンだけを単体でやるのは難しいので、普通のラーンをしながら人と交わる中で、自分の中でアンラーンしていく。大人は2つの学びをしていかないといけないから、ハードルが高いのです。僕の専門分野なので、色々なメソッドを使ってスポーツのコーチだけでなく、経営者の方々にも仕組みを提供しています。

野澤 益子さん、始まってからずっとメモをとっていますよね?

益子 ばれてますか(笑)。

野澤 めちゃくちゃ下向いていたので(笑)。その姿勢を見習わないと。あとは、トップ選手を目指すのに必要なメンタリティーの作り方も、知りたい親御さんは多いようです。色々な経験をした大人の目線から、まだ年齢分の経験しかない子どもへの言葉のかけ方、どうしたら良いのでしょうか? 子どもへの言葉は、響きすぎてしまうことがありますよね。実際の体験などもあればお聞かせください。

益子 私が高校生の頃は合宿が多くて、一カ月間くらい一気に合宿することもありました。基本は自宅から通っていましたが、「今日の練習はどうだった」とか、親はあまり干渉してきませんでしたね。ぶたれることもある時代だったので、手の痕が顔にバッチリ付いた状態で帰ることもありましたが、見て見ぬふり。私自身に任せてくれているし、先生を信用していたと思います。「スパイク決まったの?」とか聞かれると、反発して何も答えたくなくなってしまう。でも見て見ぬふりでおいしいご飯を出してくれたり、泣いたことが分かるとプリンが出てきたり。あまり深くは聞かずに、そういうサポートをしてくれたのが本当にありがたかったですね。でも最近の子どもは何でも親御さんに話す人も多いですよね。今、私はスポーツメンタルコーチの勉強もしています。でも親御さんたちも、お子さんが部活ですごく大変で、それを何とか助けたくて学んでいるパターンが多くて。コミュニケーションの取り方なんかは、学ぶ必要がありますよね。

中竹 益子さんの親御さんは、あえて触れなかったものの、愛情は注いでいたのですね。

益子 朝から焼き肉を食べさせてくれたり(笑)。「パワーを付けろ」とか「負けるな」みたいなメッセージは、言葉がなくても感じていましたね。

 

成長には「加速」と「減速」がある

中竹 研究でよく言われている話ですが、大成するアスリートの親がかける言葉には共通項があります。「大丈夫、あなたは大器晩成だから」とずっと言い続けて、常に伸びしろを見せているのです。子ども本人は試合に負けて悔しくても、「あなたは最後に勝つから」と。色んなトップアスリートが、そうやって親に言われたことを覚えています。近くにいる親が、楽観的に伸びしろを見てあげるのが大事ということですね。あとは、グロースマインドセット(必ず成長できると信じること)も大切です。うちの会社では、商標を取って「YETMIND」と言っています。意味は同じですが、yetは「まだ」という意味ですね。たとえば「お前はダメだな」に、「お前はまだダメだな」と「まだ」を付けるだけで大きく変わりますよね。日本ラグビー協会のコーチ資格試験では、合否のときに「不合格」ではなくて「未合格」と伝えており、それがYETMINDの概念です。必ずどこかで合格するけど、今はまだダメ。そう言えば「まだ学べるんだ、頑張るぞ」という気持ちになります。そういうちょっとしたアプローチのテクニックは大事だと思います。

野澤 僕も今「Bigman & Fastman Camp」というものをやっています。「大きいか速いけど、下手」という子を集めたキャンプです。彼らに伝えたいのは、「成長は右肩上がりだけじゃない」ということ。「加速」の反対語は、実は「減速」じゃなくて「失速」なんです。「減速」でもゆるやかに進んでいるなら、逆走していないなら成長だと今回思いました。右肩上がりに成長したいとどの子も思いますが、色んな成長の仕方があっていいのです。ダメな瞬間だけを見て「あなたはあの子に劣っている」と言ってしまうのはまずい。そんなことを、中竹さんのお話で思い出しましたね。

中竹 減速の概念、あらためて考えると確かにそうですね。

野澤 ベンチャー企業でも加速していて利益が出る時もあれば、成長が鈍化する時もあります。でも、成長スピードのコントロールには、どちらもあっていいのかなと思います。子どももずっと成長していけるとは限らないから、減速も許容してあげる。減速にイライラしているのは、伸ばしてあげられなかった自分にイライラしていることに他なりません。アンガーマネジメントでも、同じようなことが言えるのではないでしょうか?

益子 そうですね。アンガーマネジメントは自分のストレスを軽減するために勉強する方が多いのですが、相手のためにもなります。練習していかないと身に付かないスキルなのは、スポーツと同じです。怒るのは楽ですが、怒りっぽい人はボキャブラリー(語彙)が少ないとも言われています。私もまだまだですが、ゴリ(野澤)さんもぜひアンガーマネジメントを実践してみてください。

野澤 分かりました。近いうちに勉強します。

 

──最後に、皆さんへ一言ずつお願いします。

益子 素晴らしいラグビー界のカリスマに囲まれて、本当に緊張しました。まだまだ実力不足で勉強中ですが、今日は本当にたくさんの気づきをいただいて、学び続けることは本当に大事で素敵だなと感じました。あんなに勉強が嫌いだったのに、大人になってこんなに勉強が楽しいと思える日が来るとは思いませんでした。中竹さんに教えていただいた「まだ」の気持ちで、私も頑張っていきたいと思います。今日は皆さん、素敵な時間をありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

中竹 素晴らしい企画で、僕としてもすごく学びがありました。益子さんの学ぶ姿勢はすごく新鮮でした。振り返ってみると、ラグビーの指導者改革の中で劇的に変わったのは一番の重鎮、トップ2が学ぶ姿勢を貫いてくれたことです。それで高校ラグビー界がガラッと変わっていきました。大人が学んでいく偉大さを、益子さんを見て改めて感じました。今回皆さんいい質問が多かったのですが、大事なのは問いを立て続けることです。僕自身も今日いただいた刺激をもとに、新たに問いを立てていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

野澤 今日は長い時間、本当にありがとうございました。率直な感想ですが、言葉は人間の武器ですね。今日はしゃべっただけですが、それでもこんなに自分の脳が劇的に変わっていくのだなと改めて感じました。「自分はできていないな」とか、皆さん打ちひしがれることもあるかもしれません。でも、ここに来て学ぼうとしていることだけでも、お子さんからしたら素晴らしいことです。それを誇っていただきたいなと。あまり思い詰めずに、今日学んだことを一つでも行動に移していただくと、その学びが定着していくでしょう。僕もまだまだ勉強中の身ですが、皆さんと一緒にこれからより良い社会を作っていけたらと思います。今日はどうもありがとうございました。

 

PROFILE

野澤武史(元ラグビー日本代表)
1979年生まれ、東京都出身。慶応義塾幼稚舎5年生からラグビーを始め、慶應義塾高校では主将としてチームを花園に導き、全国高等学校ラグビー大会ベスト8進出に貢献。慶應義塾大学ラグビー部では2年次に大学日本一に輝く。神戸製鋼コベルコスティーラーズにて現役引退後、母校の慶應義塾高校や慶應義塾大学でコーチを務め、U17日本代表ヘッドコーチに。日本ラグビー協会リソースコーチとして人材の発掘・育成にも勤しむ。現役時代のポジションはフランカー。グロービス経営大学院卒(MBA取得)。 山川出版社代表取締役社長、一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事。
中竹竜二(株式会社チームボックス代表取締役)
1973年生まれ、福岡県出身。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年監督退任後、日本ラグビーフットボール協会においてコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを兼務。2019年理事に就任。またラグビー界の枠を超え、2014年には、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、一般社団法人スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
益子直美(元バレーボール日本代表)
1966年生まれ、東京都出身。中学校でバレーボールを始める。共栄学園高等学校に進学し、1984年の第15回春高バレーでは、準優勝に輝く。同年、高校3年生で全日本代表メンバー入り。大林素子らと共に1980年代後半から1990年代前半の女子バレーボール界を席巻した。1985年、イトーヨーカドー女子バレーボール部に入団。1990年、第23回日本リーグで念願の初優勝に貢献。その後も全日本代表メンバーとして活躍し、1992年、現役引退。
引退後はイトーヨーカドーアシスタントコーチを務めた後、タレントに転身。
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