永井友理×荒木博行│＜第2回＞スポーツフィールドで学ぶMBA式ビジネススキル「オリンピアンから学ぶ、クリティカル思考力」

 

怒りの指導、恐怖のマネジメントの功罪

荒木　キャプテンとして尊敬している先輩や指導者、参考にしている人はいますか？

永井　新しく日本代表の監督になった、インド人のジュード・メネゼスさん。今までの監督とは違って、試合の時に上から見るスタンスで、選手の近くにいないようにするのです。なぜかと言うと、監督が試合中に選手にワーワー言ったり、ネガティブなところを見せたりすると、選手のパフォーマンスに響くから。「試合は選手がやることだから、選手に任せたい」と、常に言っています。あとは、「とにかく落ち着いてやれ」ということも。そういうマインドの部分は、すごく参考になりますね。まだ一か月も経っていませんが、これから見習っていきたいなと思います。

荒木　なるほど。若干話が逸れますが、先日バレーボール元日本代表の益子直美さんと対談する機会がありました。彼女が開催している「益子カップ」は、指導者向けの「怒らない指導」。ジュニアのバレーチームは、子ども達への当たりが結構強いらしくて。地元のバレー経験者が、頭ごなしに「これするな」「何でやらなかったんだ」という感じ。でも益子カップでは、一切怒ってはなりません。指導者が怒ったら、バッテンの付いたマスクを付けることになるのです（笑）。

永井　それは面白いですね（笑）。

荒木　指導者が口出ししたくなる気持ちは、すごくよく分かります。でも、それが選手のメンタルに影響を与えてしまうことは、ちゃんと理解しないとダメですよね。

永井　そうですね。今回先に失点してしまったのは日本代表にとって初めての経験でしたが、選手だけの話し合いで立て直せました。今までだったら監督に怒られていたのが、全く言われなかったのです。そこは新しいことでしたね。

荒木　それは大事なことですよね。私の個人的な経験ですが、高校から10年くらいラグビーをやっていました。高校時代の3年間は、今では考えられないほど暴力的な、恐怖のマネジメントが行われていたのです。ただ、その苦しい3年間を耐え抜いたからこそ、自信を持てたという側面もありました。でも時間が経ってから、誰かの目を見てしまう癖があることに気づいたのです。スポーツでも、ビジネスでも。ラグビーでは、ミスしてもいいプレーしても、まず監督の顔を見てしまう。怒っていなかったらセーフ（笑）。指導者が喜ぶかどうかが、自分の基準値となってしまったのです。その瞬間は自分の頭で考えず、思考を放棄しています。社会人になっても自分のメンタルモデルとして残ってしまって、拭い去るのに時間がかかりました。強い指導者には、功罪の両方があるなと思いますね。

永井　私も高校3年の時はずっと、ほぼパワハラみたいな感じで（笑）。試合に選ばれても、強い監督の時はたった一回のミスで選手交代。でも、そこを乗り越えたことが自信につながって、今があります。あの時代があって良かったなとは思いますが、正直今の若い子達にそれを味わわせたくはありません。若い頃にもっと伸び伸びやれていたら、違った結果になったのかなとも思うので。ちょっと難しいですね。

荒木　これは僕も本当に難しいと思います。微妙な心境。辞めていった仲間もいる中で、頑張って生き残ってきた高校3年間は、すごく深い自信になっています。今でも、ある種の心の支えになっているのです。

永井　そうですよね。あの時一緒に乗り越えた仲間とは、いまだに縁が続いています。今でも一番仲がいい仲間。そう思うと大きいですよね。

 

勝負に欠かせないのは、「短期」と「中長期」のバランス感覚

荒木　「功罪両方ある」と言ったのは、短期的な勝負だと恐怖のマネジメントが結構効いてしまうから。その一試合で絶対に勝つ必要があるとしたら、恐怖感の方が子どもには効果的。「この試合負けたら、お前らどうなるか分かっているだろうな」みたいな。ただ、結果は出たとしても、中長期的に見たらマイナスの方が大きいと推測しています。なぜそれが悪いかと言うと、考えることを放棄してしまうから。いいプレー、悪いプレーという判断軸を自分で持てなくなってしまう。他人に委ねてしまうと、クリエイティブなプレースタイルは生まれませんし、意見が言えなくなります。スポーツは常に、「短期と中長期のバランスをどう取るか」というジレンマに陥っているのです。短期的な勝負で結果は出したい。でも短期的に勝っても、中長期でボロボロになったら意味がない。そんな難しさがあります。