目次
大人と話すことで迫られる言葉の取捨選択
質問の本質を見抜くチカラが発信力を養う
──コミュニケーション能力を育むことについてはいかがお考えですか?
「私はコミュニケーション能力の向上に、大人と話すことはすごく重要だと考えています。我々指導者はもちろんですが、例えば記者やメディアの方と選手が触れる機会も重要だと思っています」
──なるほど。
「(メディアの取材に)制限をかける指導者の方もいると思います。チームの勝利のために何を優先させるのか。メディアから取り上げられることで『選手が勘違いをする』という捉え方もあるでしょうし、その考え方は否定しません。ただ、私はより積極的に(選手への)取材を受けていくように考えています。僕がメディアの方に申し上げるのが、『選手から引き出してください』ということです。メディアの方が聞きたいことがあっても、最初は選手も言葉が足りなくて、伝えたいことをうまくしゃべられないんです。でも、そこで自ら勉強をし、学びを得ることで成長してきます。大人と話すときの言葉のチョイスは、普段仲間と話す時のチョイスと違うことは、選手誰もが分かっているんです。あとは、そこでどうやって自分の引き出しを増やせるのか。そこに取材と学びの関連性があると思っています」
──取材を受けることで選手も変わってきますか?
「明らかに変わりますね。僕も新聞社の方によく聞くのですが、『去年と比較してずっとしゃべられるようになった』と言われます。(取材で)自分には何を求められているのか、質問の本質を見抜くチカラも重要なことだと思います。求められていることを発信するべく、自分で言葉をチョイスする作業は、社会でのコミュニケーションと一緒ですよね。自分の言葉が本意とは違う伝わり方をすることもありますから、『言葉には責任が伴う』ということを部員全員によく伝えています。幸い全国大会に出場することでそのような場が増える状況は、非常にありがたいと思っています」
──選手はそこで社会経験を積んでいるわけですよね。
「そうですね。社会経験を好きなサッカーでできるのは、成長の場としてはすごくありがたいことです。注目されることに対しての責任もありますし、自分をコントロールできないと話はできませんからね」
チーム変更によるストレス自体がもったいない
中高一貫指導で、選手の伸びに柔軟な対応ができる
──昌平高校はジュニアユース(中学年代)のFC LAVIDA(ラヴィーダ)との提携により、中・高6年間で選手を育成できる環境があります。2020年は第4期生の小見洋太選手(アルビレックス新潟加入内定)、小川優介選手(鹿島アントラーズ加入内定)のプロ内定選手を輩出していますが、長期教育の意義・意図について教えてください。
「私は6年間ですら短いスパンと思っています。サッカーはチームが変わると求められるものも変わりますが、そこでストレスを抱えること自体がもったいないと思っています。もちろん、日本代表に選ばれれば、そこに順応する必要はありますが、中・高の3年間+3年間において、チームの方向性がリンクしている状況の方が、選手の伸びに対して柔軟な対応ができると思っています。逆にいえば、着地点をどうするのかが重要で、僕らが思っている以上に選手には成長してほしいですから、そこへのアプローチをどうするかはすごく重要だと思います」
──昌平高校の指導スタッフ全員が両チームを担当するのも大きいですよね。
「『サッカースタイル』という言い方が正しいかは分かりませんが、ウチにはボールを大切にし、動かすというコンセプトがあります。周囲もFC LAVIDAと昌平高校が同じサッカーをしていると思われているかもしれませんが、同じサッカーはしていないですから。逆に同じサッカーではなくて、中学校年代で学ぶべき本質的なことにチャレンジしています。そこが高校年代でリンクできれば、選手の良いモチベーションにもつながると思います。高校からの3年間だけだと、指導する側も焦るし、急ぐわけです。一貫指導であれば、求めることをどんどん増やし、いろんな経験をさせて、いいところを見てあげることができる。地に足をつけて指導できる体制というのは、間違いなく選手にとってチカラになると思います」
「早熟」は指導者の逃げの言葉に過ぎない
通用しなくなった時に、次の工夫が生まれる
──育成現場には「早熟」と「遅咲き」という言葉があると思います。藤島監督はこの言葉をどう捉えていますか?
「まず、何をもって『早熟』なのか、ですよね。例えば小学生の頃から身体の大きかった選手が伸び悩み、プレーの限界を感じることなのか。逆にそれを指導者が決めてしまっている状況もあると思います。私は各々の選手たちが確固たる武器は何なのか、を答えられる状況にしてあげたいと常に思っています。『遅咲き』というか、まだ花も咲いていませんが(笑)、鹿島アントラーズへ加入内定した小川優介は、昔から技術のある選手でした。でも、それを試合でどれだけ生かせるかの幅が広がったことで、彼は飛躍的に成長しました。結局は、指導者が選手の何を見てあげるかだと思います。フィジカルなのか、技術なのか、その違いはあるにせよ、長い目でしっかりと理解できる環境は、選手、指導者の双方にとって意味があることだと思います」
──お話を聞いていると、「早熟」と「遅咲き」という言葉は単なる指導者のものさしに過ぎないのかもしれませんね。
「そう思います。それこそ『早熟』なんて、指導者の逃げの言葉だとさえ思っています。選手を導けなかったことを『早熟』という言葉に置き換えているだけなんです。身体が大きくならなかったのなら、別のアプローチをしてあげるだけの話です」
──なるほど。
「もし子どもが『早熟』と言われたら、指導者を変えた方がいいと思います。その子を知らない指導者が見たほうが、伸ばせる引き出しは増えると思います。それまで通用したことが通用しなくなったときに、次の工夫が自分自身のチカラを伸ばすことになる。そこは指導者のアプローチ次第だと思います」
──先ほど確固たる武器についてお話をされていましたが、選手の長所を伸ばす指導方針についてお聞かせください。
「例えば柴圭汰(福島ユナイテッドFC加入内定)は、小柄な体格で、これ以上身長を伸ばすことはできないかもしれません。でも彼には努力で培った技術、対人の強さという絶対的な長所があります。長所が短所を上回れば、人は絶対に成長できる。『夢を与えられる選手になりなさい』と選手には伝えていますが、彼はそれを体現している選手の1人だと思います」
父から育まれた「見守る」ということ
選手の気づきを奪うのは、成長の機会を奪うのと一緒
──習志野高校・順天堂大学で選手として活躍された藤島監督ですが、元日本代表の父・信雄氏(FC LAVIDA代表)はどんな存在だったのでしょうか?
「私は父から『サッカーをやれ』と言われたことは一度もありません。もし『やれ』と言われていたら、やっていなかったかもしれません。私から聞けばサッカーについて話をしてくれましたし、もちろんサッカーに対する想いもあるのでしょうが、自分から発信することはなかったです。例えば、父がマリオ・ケンペス(元アルゼンチン代表の名選手)とユニフォームを交換したことがあるというエピソードも、20歳を過ぎて人づてに知りましたから(笑)。私自身はそれがよかったと思っています」
──見守る、というスタンスがよかったということでしょうか?
「口に出した方がいいことも当然あるのですが、子どもの判断・思考を止めてしまうことが一番よくないと思っています。前述したように、選手自らが“気づく”ことが重要であって、その気づきの機会を奪うことは、成長の場を奪うことと同じだと思います。そこはバランスが重要なのだと思います。また、父は人の批判をする、悪口を言うことがありませんでした。でも、人のことを悪く言わないって、言葉にすると簡単ですが、実際にはすごく難しいことですよね」
──物事を他責にするのではなく、自責にすることは難しいですよね。
「でも、そこに学びと成長があるわけです。自分の尺度だけではなく、相手がどう思っているかも紐解かないといけません。僕は今できているかといえば、できていないですよ。やらなくてはいけないという認識は持っていますが、そこはまだ向き合わなくてはいけないと思います」
──「自分と向き合うこと」の大切さですよね。
「今、自己評価が低い選手が多いと思います。自信を持ちすぎてもダメですが、低すぎてもダメなんです。それは自分自身と向き合っていない証拠なんです。いいところはいい、悪いところは悪いと、自分で課題を見つけて克服していかなくてはいけません。プロに進むとき、社会に出ていくとき、次のステージに環境が変わったときに、自らを客観視できることは重要です。自分自身ですり合わせて、どんな気持ちをもっていけるか、自己分析の重要性はぜひ知っていただきたいと思います」
PROFILE
- 藤島崇之(昌平中学・高等学校サッカー部監督/教頭 事務局長)
- 1980年生まれ。千葉の名門・習志野高校で高校サッカー選手権に出場。順天堂大学を卒業後、青森山田中学での指導を経て、2007年に昌平高校サッカー部の監督に。2014年には選手権初出場を果たし、2016年、2018年にインターハイでベスト4入り。2019年の第98回大会ではベスト8に進出した。2020年は4人のプロ内定選手を輩出。
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