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斉藤祐也│スポーツ指導で「伝えられる」こと

ラグビー日本代表としても活躍した斉藤氏は、2011 年に現役を引退後「コーディネーション・アカデミー」を立ち上げ、子どもの球技全般&陸上(かけっこ教室)&ダンス融合のスポーツ教室を開催し、全国各地でのラグビー指導を通じて普及活動を行っている。子どもの情熱を引き出し、「集中力を切らせたら負け。楽しんでなければ負け。学びがなければ負け」と、常に真剣勝負の斉藤氏のスポーツ指導。その中で特に大事にしていること、子どもに「伝えられる」こととは。

「心の成長」を大切にしている

──斉藤さんがスポーツ指導者になったきっかけは?

 

「スポーツ指導を始めて丸9年になりますが、ラグビー引退後は色んな仕事をしていました。SNSであまり発信していませんが、スポーツとは関係のない営業職です。それで、今お世話になっている南長崎スポーツセンター(豊島区)へ営業に行く機会もありました。僕のことを知ってくださっていて、『ラグビー選手としての経験を活かせないか』という話をいただいたのがきっかけです」

 

 

──今ではご自身のスポーツ教室を経営されていますよね。

 

「チアダンスや野球、サッカーなど、色々なスポーツを指導できる教室を作りました。ラグビー選手として活動してきましたが、小さい頃から色んなスポーツをやっていたので、子どもにも色んなことを教えています。今日も指導現場に立ちましたが、やはり子どもと会う時はめちゃくちゃ気合を入れますね」

 

 

──スポーツの指導現場に出るうえで意識していることは?

 

「一番気を付けることは、まず環境ですね。体育館やグラウンドに、危ない物が落ちていないか。人工芝のサッカー場だと、飛び出しているゴールが危ないので片づけることもあります。スポーツ指導は色々と気を遣う必要があるので、すごく難しいですね」

 

 

──子どもにはどのように接していますか?

 

「まず、『この人なら安心して指導を受けられる』という信頼関係を構築します。今やっているスポーツ教室には、シャイで話すのが苦手な子も多くいます。その子達に楽しんでもらうために、とにかく面白い話をする。その子が好きな物を聞き出して、それに合わせて話す。そうやって、信頼関係を構築することが大事です」

 

 

──最近では、自分からコミュニケーションをとる子が減っていませんか?

 

「全くそうは感じませんね。『心の成長』に重きを置いている僕のスポーツ教室では、よく話す子が本当に増えました。体験のお友達が来たときも、皆がワーワー話をする。グループ作りで漏れてしまう子がいても、それに気づいてチームに誘い入れることが自然にできる。『できる子ができない子をサポートする』という、いい雰囲気ができていますね」

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その子なりの強みを見つけることが、自信につながる

 

──勝つことを優先すると、子どもたち同士の支え合いが難しくなることもありますよね。

 

「チームを作って試合するので、勝った・負けたは当然ありますね。ただ、負けたチームは勝ったチームをたたえて、勝ったチームも負けたチームのことを考えよう、と指導しています。若年層においては、勝利至上主義であるべきではないと考えています。勝った時の感動は良いものですが、負けた時の悔しさや、負けたチーム・選手の気持ちも分からないといけません。それが僕のスポーツ指導のベースになっています」

 

 

──勝利至上主義になると、できる子とできない子の差が浮き彫りになってしまいますよね。

 

「子どもによって足の速さや体格などの能力差はありますが、その中でも自分の強みを作ろうと話しています。足が遅いから活躍できない、身体が小さいから活躍できない、ということはありません。たとえば、チームのムードメーカーになる。率先して作戦を提案する。それが成功するとチームが良い雰囲気になります。積極的なコミュニケーションやフォローも、強みになると思います」

 

 

──強みを見つけることが、自信につながりますよね。

 

「そうですね。スポーツ教室では5種目の体力テストをやっていますが、身体が成長すると必ずどこかの数字が伸びます。それで自信がついて、苦手な種目も頑張るようになるのです。長距離の苦手だった子が、得意になって好きになることもあります。あとは、スポーツ教室で体力テストをやることで、学校の体力テストでも緊張しなくなるメリットもありますね」

 

 

スポーツの現場では、親や指導者も成長するべき

 

──学業と同じように、スポーツでも『いい所に行かせたい』と思う親は多いですよね。

 

「スポーツの楽しさを伝える、試合をこなして能力を高める、などスポーツチームによって目的が違います。良し悪しを判断するのは子どもや親御さんなので、選択を否定することはしません。ただ、それぞれの目的を理解したうえでスポーツ環境を選ぶことが大事です。僕のスポーツ教室では、同じ子どもに毎週違う球技を教える『ボールパーク』を取り入れています。色んな競技や仲間、コーチに触れることで学びを得てもらうのが目的です。『もう少しサッカーをやりたい』と言う親御さんもいますが、その目的を理解した方だけに入ってもらっています」

 

 

──親の思いが先行すると、子どもの選択肢を奪うことにもなりますよね。

 

「そうですね。皆がスポーツでプロを目指しているわけではないので、子どもの思いも尊重すべきだと思います。スポーツの現場は、子ども・親・指導者の全員が成長する場所です。『自分の子どもが成長すればいい』ではなく、親も成長する必要があります」

 

 

──最近では、自分の考えをはっきり言う子も増えていますよね。

 

「子どもの言葉は、指導者にとっても学びが多いですね。スポーツのルールにはない発想が出てきます。それを『すごいね。大人にも思いつかないよ』などと尊重してあげると、成長につながるでしょう。ただし子どもは経験が少ないので、やってはいけないことも時にはします。暴力をふるったり心無い言葉を発したりした時にも、怒らずにきちんと説明してあげるのが大事です。上手くいかないと道具を投げ捨てる子どもがいましたが、あえて自分も同じことをやって見せました。身体が大きいから、僕が同じように道具を投げると当然怖くて、嫌な気持ちになる。そうしたらすぐに理解してくれて、もうやらなくなりました。そのやり方がいいか悪いかはともかく、伝え方は大事です。コーチの言葉がちゃんと伝われば、子どもに集中してくれます」

 

 

──自分の考えを子どもに伝える際に、心がけていることは?

 

「まず、ちゃんと話して子どもが何を考えているか理解する。そして、子どもが発する言葉に対して、ちゃんと返してあげます。今日も、3歳の子どもがルールが分からずに泣いていました。その年代だと普通は分からないまま終わりますが、その子は分からないのが悔しくて泣いたのです。色んな子がいるので、個々に合わせて話すことがコーチには求められます。時が経てば心も身体も成長しますから、そこであきらめてはいけません。コーチが子どもの成長をあきらめたら、そこで終わりだと思います」

 

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「本当のスポーツの楽しみ方」を教えている

 

──スポーツ指導では、1on1のコミュニケーションが重要だと言われています。しかし、多くの子どもがいる組織スポーツだと、一人だけに深くは関われないジレンマもあるのでは?

 

「当然1on1のほうが伝わりやすいですが、30人くらいいる1クラスの全員を付きっきりでは見られません。ただ、うちでは子ども達同士でサポートし合える環境になっているのが大きいですね。何人かのグループでセッションをやる中で、自信のある子がリーダーの役割になってくれます。それが周りにも波及して、今度はサポートされる側の子がリーダーの役割になる。だから、コーチが介入しない時間も大事だなと考えています」

 

 

──色んなスポーツを教えられていますが、ラグビーが指導に活きることはありますか?

 

「ラグビー憲章には、品位・情熱・結束・規律・尊重という5つのコアバリューがあります。スポーツ教室でも、そういうラグビーの教育的な部分について話します。それが大人になって心に残っていれば、きっと行動に反映されてくると思います。ただ、僕はトップアスリートを作ろうと思って指導しているわけではありません。子ども自身がなりたいと思うことが、結果としてトップアスリートにつながります」

 

 

──自らが進もうとする先にあるもの、ということですよね。

 

「トップアスリートを目指すなら、もっと試合ができる所に行きたい、という流れになりますからね。以前、『もっと強くなりたい』と言って辞めて、ほかのクラブに入った子がいました。その一年後くらいに話を聞くと、その子は辞めてしまったそうです。おそらくは『つまらない』『褒めてくれない』『試合に出られない』のような理由でしょう。そういう子どもを救ってあげないといけません。辞めても常に受け入れられる体制を作っていくべきだなと思っています」

 

 

──スポーツを「目的」にできるのは一握りで、大多数の子にとっては「目標」だと思います。大人がそれを理解してあげる必要がありますよね。

 

「やはり、大人が期待し過ぎるとプレッシャーになり、面白くなくなってしまう。親の思いが強くなり過ぎる長男長女よりも、楽しくのびのびやれる次男次女のほうが、トップアスリートは多い気がします。だからスポーツ教室では、本当のスポーツの楽しみ方も教えています。勝って感動することも大事ですが、一所懸命になる楽しさを知ってもらうことも大事です。一所懸命に努力すれば必ず運動能力は伸びますし、心の成長にもつながります」

 

 

向上心を持ち、本気で指導現場に立っている

 

──斉藤さんご自身も、スポーツ指導を通して変化を感じていますか?

 

「スポーツ指導を丸9年やってきて、自分自身もすごく成長を実感できています。だからこそ、現場に立ち続けています。指導者に向上心がなくなったら、現場に立つ資格はありません。二日酔いなんかで現場に立つようになったらアウトですよね。それくらい、自分を厳しく律しています。本気で現場に立つようにしています」

 

 

──大人が本気でないのでは、子どもも本気で学ぼうとしませんよね。

 

「子どもは嘘も見抜きますし、軽い言葉だと伝わりません。100%の力で伝えるようにしているので、本当に疲れはしますね。昔の指導者のような、情熱をしっかり持ってやらないと伝わらない。ラグビー憲章の5つのバリューは、自分自身も目指すべき姿だと思いますね」

 

 

──物事のとらえ方次第で人生も変わってくると、SPODUCATIONで色んな方のお話を聞いて感じます。

 

「一つのきっかけで変わりますね。スポーツを通して様々な出会いがあります。色んな指導者とふれあうことで、日々変わっていく子ども達の姿があります。反対に、指導者が悪い方向に変えてしまうこともあるので、言葉も行動も気を付けないといけません」

 

 

──格差社会になりつつありますが、その中でスポーツの力は必要ですよね。

 

「スポーツは、人間力をつけるうえで大事だと思っています。一所懸命になること、失敗してもあきらめない強い心、スポーツを通して自然とそういうことを学べます。誰かが道につまずいたら手を差し伸べる。物が落ちたら拾って渡してあげる。でも今はコロナの影響もあって、『拾ってはいけない』と教えられているようです。もちろん感染対策は必要ですが、本質までちゃんと伝えてほしいですね。子ども達が変にとらえてしまわないかと危惧しています」

 

 

──スポーツは色んなイレギュラーが起こるので、本質を伝えやすいのかなと思います。

 

「スポーツでは常に状況が変わり、時にはぶつかって倒れてしまうこともあります。その時に、指導者がどういう行動を起こすかが大事です。指導経験が浅いと、トラブルに対応できないこともあります。常に色んな状況を想定して、『こうなったらこう行動する』と考えるべきだなと、自分自身も思っています」

 

 

──分かりやすく簡潔に伝えることは、指導者の方でも難しいのかなと思います。

 

「絶対に伝わっていないだろうな、という場面は見かけますね。子どもが知らない単語や、難しい言葉を使いすぎてしまうのです。だから僕は、子ども達に分かりやすい言葉選びを念頭に置いていますね。これがラグビー解説にも活きていて、ルールを分かりやすく説明できます。あとは、話す目的を指導者自身が理解しないと、説明することが目的になって、ただ説明して終わってしまう。言葉選びは、子ども達に目的を理解してもらう意味でも大事です。幼児クラスはまだ話ができない子もいるので、特に理解しやすいよう気を遣って話していますね」

 

 

色んなスポーツの経験が、子どもの可能性を広げる

 

──小学生以下だと、あまり話を聞かない子もいますよね。子どもと話す時のコツはありますか?

 

「話しやすい雰囲気を作るようにしています。時にはジョークを入れて、『この人は面白いことを言ってるな』と思わせます。あとは、話の長さも注意が必要です。10分では長すぎるので、長くても5分に収まるように、自分の中で時間を計っています。その中でも、ちゃんと意見交換ができる雰囲気を作れるように、常にトークの訓練はしていますね」

 

 

──幼少から色んなスポーツをやるほうが、子どもの能力が引き出されやすいと分かってきているそうですね。

 

「まさに、先ほどお話したボールパーク、毎週違う球技を教えるスポーツ教室ですね。たとえば、後ろから来るボールを見ながら、走ってキャッチする動作があります。色んなボールを触れている子が、ボールを見ずに落下地点を予測して取っていたんですよ。色んな球技をしているとそんな能力も身につくのかと、驚きましたね。あとは、野球やサッカーのような競技の枠を壊すことで、皆が他競技を応援しやすい雰囲気になるのも大きいです。野球経験者やサッカー経験者、色んな指導者とのふれあいによって、様々な相乗効果も生まれます。ボールパークの可能性を感じています」

 

 

──斉藤さんご自身も、小さい頃から色んなスポーツをされていたのですよね。

 

「僕自身も高校でラグビーを始めるまでは、色んなスポーツを経験してきました。その経験が活きて、始めて二年で高校ラグビー日本代表に選ばれました。やはり色んな経験をすると強いですね。学業でも、色んなきっかけを与えることで、色んな可能性が生まれる。とはいえ、面白くなければ子どもは話を聞きません。夢中にさせられるように、しっかり伝えていくことが大事です」

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子どもに「本質」を伝えるために、大人も学び続けること

 

──スポーツ指導者になって良かった、と思うことは?

 

「親御さんが涙を流して、『うちの子が笑うようになった』と言われた時は、本当に感動しました。スポーツ指導者になって、良かったなと思いましたね。『よく勉強するようになった』という親御さんの声もあります。スポーツの影響で、行動する力も湧くのでしょう。兄から弟、姉から妹のように、流れで入ってくれるのも嬉しいですね。信頼されているなと感じますし、自分自身ももっと良い環境を作っていきたいと思います」

 

 

──ある意味で、スポーツを通した地域貢献でもありますよね。

 

「僕の選手時代には、いいプレーをしてお客さんが喜んでくれることが、自分のモチベーションになっていました。まさに今も、そういう心境です。何かをして『ありがとう』という言葉をもらえるだけでも嬉しいし、モチベーションになります。もっとも、スポーツ現場では色んな言葉が直球で飛んできますが。つまらなかったら『今日はつまんない』と言ってきますからね(笑)。それは『ごめん』と、ちゃんと謝ります」

 

 

──その原因は聞きますか?

 

「色んな経験をしているので、『分かりづらいゲームだったかな』とか、『ルールが難しかったかな』とか、自分で分かってはいます。ただ、スポーツ教室だと一年を通してプログラムが組まれているので、すぐには内容を代えられません。もちろん、少しずつ難しいものも入れながら成長させたい思いもあります。でも、それだけが目的になるとスポーツの『楽しむ』から離れてしまうので、気を付けるべきだなと自分で感じています」

 

 

──子どもにハマらないからと置いて行かずに、合わせていくのですね。

 

「楽しみ方を教えて、その中で優しさも教えなければなりません。その本質を知ったうえで、競技力をつけていくべきだと思います。小学生のうちに本質を理解していけば、中学や高校で壁にぶつかっても挫折して辞めないでしょう。勝利至上主義や『いい所に入れたい』も必要なことですが、その中でも本質を子どもに伝えていく必要があります。そのためには、子どもと接する大人も学び続ける心を持つことが大事です」

 

 

──最後に、皆様にメッセージをお願いします。

 

「僕は『学ぶ心がなくなったら指導現場に立たない』という強い意志や覚悟、責任を持ってスポーツ指導をしています。そして、そういう仲間をどんどん増やしていきたいなと思っています。ぜひ、子どものスポーツ現場に目を向けて応援してください。皆さんも、スポーツを通して本当の楽しさを子ども達に伝えていただけたらと思います。またお話の機会がありましたら、よろしくお願いします。短い時間でしたが、聞いていただきありがとうございました」

 

PROFILE

斉藤祐也(元ラグビー日本代表)
1977年4月28日、東京都生まれ。高校1年からラグビーを始め、若干 2 年で高校日本代表に選出される。東京高校では、攻撃の要である NO.8(ナンバーエイト)として活躍し、全国高等学校ラグビーフットボール大会(花園)へ初出場の立役者となる。高校卒業後はラグビーの名門・明治大学に入学し、1年生からレギュラーを獲得。全国大学ラグビー選手権に出場し優勝。4年時には主将を務める。大学卒業後はサントリーに入社、一年目のシーズンからレギュラーを獲得し、「日本ラグビーフットボール選手権大会」連覇など社会人でもタイトル獲得に貢献。2001 年サントリー単独チームでウェールズ代表を破る大金星を挙げる。2002 年フランス 1 部リーグ・ US コロミエに海外移籍。日本人離れした恵まれた体型から繰り出されるパワーとスピードを武器に、フォワードとして日本人初のプロ契約選手となった。帰国後、神戸製鋼とプロ契約し、一年目のシーズンで「ジャパンラグビートップリーグ」初年度の優勝に貢献。その後、豊田自動織機所属時には、トップリーグ昇格の原動力となった。日本代表として、7人制、10 人制日本代表、日本代表 A(15 人制)の各カテゴリーで選出。2003年にはオーストラリアで行われた W杯に出場した。

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