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【#03】坂井伸一郎│「チームをゴールへと導く魔法のコトバ 」理念でも目標でもない「コンセプト」とは何か?<後編>

アスリートの競技成果を向上させる座学プログラムを、ビジネスなどあらゆる分野の人材育成メソッドに体系化した「スティッキー・ラーニング」を開発した坂井伸一郎氏。「絞って伝えて、反復させること」をポイントに、多業種のビジネスパーソンを 「戦力」に変えてきた人材育成のプロが、時代の変化に適応するチームビルディングの在り方について、連載でお届けしていく。

>#03前編はコチラ

 

具体的すぎず抽象的でもない「コンセプト」の意味

 臨時チームの場合、お互いにそんなに良くわかりあっているわけではなかったり、共通言語や共通理解がないということがほとんどだったりします。でもチームとして集まり、チームであるが故にそこにミッション・ゴールがすでにある。往々にして臨時チームには時間の猶予がない。となると「まずはお互いを理解し合うところから始めましょうか」なんていう悠長なことはやっていられない。そんな時に一番重要なものはなんなのか? というのが私が村井チェアマンとお話ししたかった、そして実際にお話しできたことでした。

 その答えが「コンセプト」だったということです。

 コンセプトとはそもそもなんなんでしょうね? ……辞書で調べると「概念」とか「全体を貫く基本的な観点・考え方」と出てきます(グーグル日本語辞書 Oxford Languagesより)が、これだとなんだかよくわからなくって、仕事で使いこなすことは難しいと思います。私の肌感覚で申しますと、目標のように具体的なものではなく、理念のように抽象的なものではないもの、というイメージです。これでもまだあやふやですね。

2019年のW杯で日本を熱狂させたラグビー日本代表。コンセプトを徹底し、“ワンチーム”の結束力でいくつもの奇跡を起こした/Getty Images

理念と現場のギャップを埋めるコトバ

 「パターン・ランゲージ」と呼ばれる1970年代に建築家クリストファー・アレグザンダーが街づくりや建築のために提唱した知識記述の手法があります。 それを街づくりや建築にとどまらず人々のさまざまな営みの中での創造的活動にも使えるようにしていこうという研究を慶應義塾大学総合政策学部(SFC)の井庭崇教授が中心となって行われていて、ここで井庭先生の使うワードに「中空の言葉」というものがあるのですが、私はこれが「コンセプト」を使える形に具体化する絶妙な言葉であると思っています。

 「プロジェクト・デザイン・パターン 企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32(翔泳社 2016.4.1)」という書籍の中で、井庭先生は次のようなことを語っておられます。

『理念と現場のギャップを埋める言葉がない(=理念と現場の距離が遠い)と、理念を実現するために自ら考えて行動することが難しい。そのような状況で「自分たちで考えて行動してくれ」と言われても、メンバーは理念を踏まえつつ具体的にどう行動すればよいのかわからず動けなくなってしまう(※私の解釈に基づく部分要約です)』

 うん、まさに臨時チームにおける「コンセプト」の必要性を別の言葉で説明していると感じませんか? 私なりに整理すると以下のような構造なんだろうと思います。

 


  1. 臨時チームでは(常設チーム以上に)メンバーが「自分で考えて行動する」ことが早期から強く求められる

  2. そのためには、理念では抽象度が高すぎて動けず、目標では現実感が高すぎて自由度(=個性や強みの発揮)がない

  3. そこでその中間的な役割を果たす「コンセプト」が求められる

  4. 「コンセプト」が明確にあり、それがメンバーに共有されている臨時チームは、メンバーそれぞれの個性や強みが発揮されながらも、チーム全体としての方向性やまとまり感が保たれたままゴールに向かって前進することができる

 

 さて、今回は「コンセプト」をテーマに書かせていただきました。でも「臨時チームにはコンセプトが必要」ということはご理解いただけたと思う一方、「どうやってコンセプトを作るの?」というところについては何も書かないままに文字数を使い切ってしまいました。

 おそらく「こうやればコンセプトが描けますよ」という方程式はないと思います。みなさんがそれぞれに、理念と目標をつなぐ橋(=コンセプト)を考え、生み出していくしかないのだと思います。そうやって生み出したコンセプトも永久普遍のものではありませんから、結局リーダーは常にこの理念・コンセプト・目標を磨き続けていかなければならないってことなんでしょうね。

 はい、今回はここまでとさせていただきます。お互いにリーダーとしてチームの成果最大化を模索する旅を続けていきましょう!

 

―#04に続く―

PROFILE

坂井伸一郎(さかい しんいちろう) | 株式会社ホープス 代表取締役
成蹊大学卒業後、株式会社高島屋に入社して13年間在職。販売スタッフ教育や販売スタッフ教育制度設計も担当した。ベンチャー企業役員を経て、2011年に独立起業。現在は教育研修会社の代表を務めつつ、自ら講師として年間50本・2500名(業界の偏りはなく、製造業・サービス業・金融業・病院・学校法人など多岐にわたる)の研修を行なっている。社会人研修の他に、プロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修の講師経験も豊富(年間のアスリート座学指導実績1000名超は、国内屈指の実績)。講師としての専門領域は、目標設定・チームビルディングなど。座学慣れしていないアスリートへの指導経験が豊富ゆえに、「わかりやすく伝える」「印象に留めるように工夫する」という指導法を用いる。この指導教育メソッドを体系化した「スティッキー・ラーニング」は、アスリートのみならず、一般ビジネスパーソンにおいても、組織全体の人材レベルアップを図れると高く評価されている。

 

【アスリートに倣う「新時代のチームビルディング」/坂井伸一郎~back number~】

【#01】村井チェアマンの示唆を受けたビジネスとスポ―ツの相関関係<前編>

【#02】「臨時チームで個の戦力を最大化する方法を教えます」<前編>

【#03】「チームをゴールへと導く魔法のコトバ 」理念でも目標でもない「コンセプト」とは何か?<前編>

【#04】 ニューノーマルのチームビルディングにおける時間と空間の超え方 <前編>

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