COLUMN

【#05】 辻秀一│周りのパフォーマンスを引き出すリーダー(リーダーシップ)<後編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく。

 

#05 前編はコチラ >

 

自身がフローな状態であるか

 支援力のある人には共通のスキルがあります。大きく分けると三つあります。

 一つめはまず自分自身がフローであること。ノンフローの状態ではどんなに指示していても相手はフローに導けないのです。指示をするには自身のご機嫌が必須ということなのです。それは甘やかすのではなく、指示し相手のパフォーマンスの質も高めてパフォーマンスを引き出すことになるのです。不機嫌な人が人を機嫌よくできるはずはなく……。自身の心を整えるという責任をもって接することが支援の基本中のきといえるのです。

 

他者への声かけは、自分の心掛けの投影

 支援力の2つめは支援の声かけが優れているということ。指示の声かけはもちろん大事ですが、支援の声かけはさらに大事です。しかし、多くの人はこれが苦手です。自身も認知的に生きていると、他者への心に配慮した声かけがよくわからないのです。支援の声かけの基本は自身がフローになるための心掛けこそが他者への声かけになります。

 前回、ご紹介した非認知的な思考の心掛けを普段から自身に意識している人はそれを声かけするのです。ご機嫌の価値を心掛けている人は相手のパフォーマンスを引き出す際に、「機嫌よくやろう! ご機嫌の価値を考えてみて!」と声かけするのです。自身が今ここ自分を意識して、心を整えている人は、他者にも今ここ自分でやろうと声かけするのです。

 繰り返しますが、自分の心掛けが声かえになるのです。気合と根性の心掛けのある人は他者にもそう声かけするでしょう。いつもダメで無理という心掛けのある人は他者にも同じように声かけするのです。頑張る・我慢するという心掛けの人はやはり声かけもそれになることが一般的です。支援の声かけを磨くには自身の非認知的思考を磨いて行くということになるわけです。非認知的思考を磨いている人は他者に対する声かえは自然と変わってくるのです。

 

人間にとって普遍の「コーチ力」とは?

 そして、最後のスキルは「自分がこうしてもらうとフローになる」ということを他者にもしてあげることです。わたしはこれを敢えてコーチ力と呼称しています。まず自分自身はどういうことをしてもらうとご機嫌に心が傾くのかを自問自答してみましょう。自分がしてほしいことをしてあげるという人間の基本がこのコーチ力になります。

 人それぞれあるかもしれませんが、人間普遍のコーチ力もあります。例えば、人はわかってほしいという本能があります。したがって、コーチ力の一つはわかってあげる姿勢ということになります。人は感情と考えをわかってほしいと皆が思っています。なぜかというと、この認知の社会で行動は常に何かしらに制限されている中、自分自身の感情と考えだけは自由だからなのです。すなわち、それは人の生きる尊厳でもあるということなのです。したがって、わかってもらえないと自由をはく奪され、生きる尊厳を失われることになり、当然のごとくノンフロー状態がひどくやってきて、パフォーマンスの質は必ず低下してしまうのです。

 

「agree」ではなく「understand」の「わかってあげる」こと

 わかってあげる姿勢は支援のためのコーチ力の王道といえる重要な姿勢です。ここでわかってあげるというのは同意ではなく理解です。agreeではなくunderstandです。同意のわかってあげるは難しい。人はそれぞれ感情や考えも違う多様性があるからです。すべてをagreeはできないはずです。わかってあげる姿勢は聴く力と理解する力によってなされます。同意されなくても聴いてもらい理解されるだけでフローに人の心は傾くのです。しかし、指示の権限を持っている人がわかってあげるよりもわからせるように働きかけ、相手をノンフローに追い込み、指示過多になっていることが少なくないのです。

 改めてまとめてみましょう。パフォーマンスの構造を理解し、指示と支援のバランスを常に意識する。そして、指示の原則を守り、支援のアプローチを磨く。これが周りのパフォーマンスを引き出すリーダーシップのあり方だということ。このようなリーダーリップのある方がスポーツはもちろんビジネス界でも増えることを望んでいます。

 

―#06に続く―

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

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【♯01】元体操のオリンピアン、田中理恵さんにみるビジネスに活かすライフスキル<前編>

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