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【♯01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<前編>

マクドナルドやメルカリ、SHOWROOMで組織づくりを主導し、組織開発の体系化=「カルチャーモデル」の設計方法を紐解いた『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』を上梓した唐澤俊輔氏。事業と組織を急成長させてきたスペシャリストが、スポーツチーム運営の示唆を受け、ビジネスにおける組織文化の作り方について連載で論じていく。

 

 2021年4月16日~18日の3日間、SPODUCATION主催イベントの「bizFesta」が開催されました。bizFestaは、「社会で活躍する為にスポーツから学ぶ」をコンセプトに、アスリートとビジネスパーソンの対談が10本行われ、スポーツとビジネスの接点について議論を深めました。子どもの頃にスポーツを通じて養われる力が、ビジネスパーソンとしてどのように価値を発揮するのかという論点で一貫しており、教育におけるスポーツの重要性を感じられる3日間となりました。

 その中で私自身は、元サッカー日本代表で背番号10番であり、ジュビロ磐田で監督も務められた名波浩さんと対談させていただきました。イベントから10日ほどが経ちましたが、今でも名波さんにお会いした時のワクワク感というか、少年の心に戻ったような気持ちはハッキリと残っています。やっぱりスポーツというものには、憧れや人を惹きつける魅力がありますよね。

 私は昨年、『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』という本を出版しました。企業経営において、「事業と組織は両輪」とよく言われますが、事業推進するためのビジネスモデルは各社描くものの、その対となるカルチャーモデルともいうべき組織像についての議論が足りていないのが現状です。こうした問題意識から、企業における組織文化や企業風土といったカルチャーについて、経営や人事・組織の観点からどのようにそれを形づくり、事業の成功へとつなげてゆくのかについて論じています。

 

スポーツ運営にも共通する市場・顧客、競合、自社の3Cという分析視点

 

 書籍では、企業経営を前提にしていますが、「これは企業だけでなく、部活動やチーム・コミュニティなど、あらゆるものに通ずるのでは?」という思いが当初よりありました。そこでbizFestaでは、監督としてスポーツチームの組織づくりを担ってこられた名波さんにご登壇いただき、カルチャーモデルの理論をベースに、スポーツのチーム運営からビジネスの組織づくりに活かせる示唆を学ばせてもらおうと考えました。こうして、名波さんとの対談のテーマは「最適な組織カルチャーのつくり方」と決まったわけです。

  対談を通して一貫して感じたことは、スポーツチームの運営と企業経営の組織運営は、極めて共通点が多く、本質は変わらないということでした。

 対談の冒頭、ジュビロ磐田でのチーム運営について伺ったのですが、名波さんは監督としてのチームづくりの前に、地域におけるチームのおかれた環境の話から始まりました。「地域の人口がどれくらいいて、その何割がサポーターになってくれるとすると、どれくらいの市場規模になるのか」という市場・顧客の視点から始まり、「ジュビロ磐田の前身のヤマハ発動機に対し、お隣の浜松市にある本田技研工業のサッカーチームの存在」という競合の視点、そして「ホームスタジアムのキャパシティがどれくらいあるのか」という自チームのケイパビリティ(組織能力)の視点。

 これらはまさに、ビジネスでいう3C分析、つまりCustomer(=市場・顧客)、Competitor(=競合)、Company(=自社)の3つのCという分析視点と全く一致するんですね。名波さんがこのフレームワークを意識されて発言されていたかは分かりませんが、視点としては全く同じ物を見ているんだなと感じました。

 

「率先して実行する」名波氏は経営者や組織のリーダー像に通じる

 

 次に名波さんが話された論点は、「売上をどうやって作るか」でした。企業運営に売上が欠かせないのは言うまでもありませんが、スポーツ運営においても重要だというわけです。

 驚いたことに、売上を構成する要素がスラスラと出てくるんですね。「まずは、客席をどう埋めるか。席数でスタジアム収入が決まるので、席数に余裕があるなら営業はスタジアム収入に力を割くべきだし、満席になっているなら営業は他のことをすべき」と、見事に売上の柱となる事業のポテンシャルを踏まえた上で、自社のリソース配分を考えられています。

 その上で、「有名選手を獲得すればマーケティングの効果があってグッズの売上が伸ばせる」とか、「ユニフォームやスタジアムの看板などのスポンサー収入を監督自ら地元の知り合いから獲得してくる」といった話も挙がってきました。

 スポーツチームの運営も、慈善事業ではないですし、売上がなければ選手に年俸も払えないわけなので、売上は確かに大事なのですが、監督自らこうした視点で取り組まれていることには驚きました。しかも、トップセールスマンとして自分で売上を獲りにもいくわけです。これはビジネスでも経営者や組織のリーダーに求められる、「率先して自らがまずやってみせる」姿勢であり、リーダーシップという観点でもやはり通ずるものがあると思わされますよね。

 

―#01後編に続く―

 

PROFILE

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ) |  Almoha LLC Co-Founder COO
慶応義塾大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者) 2020年より、Almoha LLCを共同創業。グロービス経営大学院 客員准教授。自身の経験をもとに「組織カルチャー」の可視化、言語化という難題に挑み、組織・経営課題の解決策を提示した『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓。

 

【スポーツ運営に学ぶ カルチャーモデルと組織づくり/唐澤俊輔~back number~】

【#01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<前編>

【#02】唐澤俊輔│ビジネス×スポーツに見る「カルチャーモデルの4類型」<前編>

【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<後編>

【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <前編>

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