COLUMN

【Dr.辻による スポーツから学ぶ「凪」の技術 辻秀一 ♯01】 元体操のオリンピアン、田中理恵さんにみるビジネスに活かすライフスキル―前編―

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく。

 

ライフスキルとは思考の習慣

 

 心を整えるには脳のスキルが必要です。それをライフスキルと呼称します。bizFestaでの田中理恵さんとのトークにはたくさんのライフスキルのヒントがありました。ライフスキルは思考の習慣です。この心を整えるライフスキルという思考習慣はスポーツだけではなく、ビジネスや日常の生活にも役に立つものです。

 心の状態は脳が作り出しているのをご存知ですか。脳は思考の中枢。思考が心を生んでいるのです。だからこそ、心を整えるための思考があると外界に振り回されることなく自分自身で心をマネジメントできるのです。これもスキルだから繰り返し意識して練習した方が身についていき、あらゆるシーンで役に立つようになるのです。

 

揺らがず・とらわれずな心=FLOW(フロー)

 

 どのような思考習慣が田中理恵さんにあって、どんな時も心を守り心を整えることに繋がっているのか? についてを解説する前に、心が整っているということについて述べてみたいと思います。心が整っているというのはどういうことでしょうか? 当たり前ですが、心が乱れていることの反対です。田中さんの言葉でいえば、平常心です。いつものような心持ちですね。すなわち自然体といえます。

 田中理恵さんの自然体で平常心といえば、明るく楽しい機嫌のよい気持ちです。心理学ではこのような揺らがず・とらわれずの自然体の状態をFLOWと呼んでいます。田中理恵さんはFLOWな人ですね。このような心の状態がなぜ大事なのでしょうか? それはパフォーマンスの質がよくなるからなのです。スポーツの世界ではそれがはっきりと結果に繋がるのでわかりやすい人間活動ですが、実は仕事でも生活でもそのパフォーマンスの質に心の状態が大きく影響しているのです。

 

すべてのパフォーマンスと人生には質がある

 

 みなさんは、心の状態に関心を持って、ビジネスや日常のパフォーマンスの質を大事にされていますか? わたしも医学部受験や医師国家試験の勉強や医師になってからの激しく忙しい仕事、またスポーツも大学まで体育会でバスケをやってましたが、パフォーマンスの質など考えたことがありませんでした。ほぼ気合と根性でなんとか結果を出してきたように思います。

 質の存在を気づかせてもらえたのは慶應病院で内科医をやっていた頃にパッチアダムスの映画を観たことがきっかけでした。すべてのパフォーマンスと人生には質があると。その質を決めているのが心の状態だということを本物のパッチアダムスが来日した講演の中で人生で初めて心や質の仕組みとその重要性に気づかされたのです。質を大事にした生き方、そのために心をマネジメントする考え方は体操、スポーツだけでなく、仕事ビジネスはもちろん、日常や生活、そして人生にも極めて大切なポイントなのです。そのことをみなさんに田中理恵さんとの対談を通じてここにお伝えしたいと思っています。

 

体操体験を通して自然と培われたフローの価値

 

 さて、田中理恵さんにみる私が気づいた心のマネジメントに繋がるライフスキルをご紹介していきましょう。

まずもって特筆すべきは、フローの価値が高く完全にスキル化されていることだと思います。フローの価値とは自分の心の状態が揺らがず・とらわれずの楽しい、機嫌のよい状態が自身の競技において必須だと心底理解していること。このスキルが彼女に育まれたのは明らかに成育歴におけるご両親、特にお父様の声かけが影響を与えていたのだと思いました。体操をやるということは楽しい気持ちで機嫌よくやることなのだと小さい頃からずっと言われてきたことで自然とスキル化されるのです。

 みなさん、フローの価値、ご機嫌の価値を考えたことありますか? 機嫌が悪いより機嫌がよいと自身のパフォーマンスにとってどうなのか? 苦しいと感じているより楽しいと感じてやっているのはどう違うのか? ノンフローな自分とフローな自分は何が違うのか? フローでいることによるさまざまな価値を考え自分事にしているのがライフスキルなのです。ご機嫌の価値を考えるより不機嫌の理由を考えることに多大な労力を注いでしまっている人が少なくありません。それでは自然体なごきげんな心はやって来ないのです。まずはご機嫌の価値を考え習慣化してみましょう。景色が変わってくるでしょう。

 

囚われることで生じるパフォーマンスの乱れ

 

 次に感じたのは、理恵さんは結果を出すためにも、心を整えるためにも、結果は準備によって後からついてくるものだと考えていることです。これも重要なライフスキルになります。もちろん、スポーツもビジネスも結果が問われます。そのためには結果にとらわれず、するべき準備に全力を傾けると言う考え方です。結果はコントロールできない。したがって、自身のできる結果に相応しい準備をすれば、あとは大丈夫という思考です。優勝するとか、完璧な演技をするということに囚われると、心の乱れが生じてパフォーマンスの質が落ちるのです。

 そこで、大事な試合になればなるほど、準備に全力、これかが理恵さんのライフスキルだと感じました。それによって2012年の全日本選手権では見事に個人総合で初優勝。優勝は準備によって後からついてくるものだとおっしゃっていました。わたしは選手たちによく「結果は決まっている」と試合前に伝えます。自分に相応しい結果しかでないのだから、どれだけそれにふさわしい準備、すなわち自分づくりをしてきたなので、今さら試合でビビる必要はないと……。相応しい結果はやってくるのです。

 

後編に続く

 

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。
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