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【♯01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<後編>

マクドナルドやメルカリ、SHOWROOMで組織づくりを主導し、組織開発の体系化=「カルチャーモデル」の設計方法を紐解いた『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』を上梓した唐澤俊輔氏。事業と組織を急成長させてきたスペシャリストが、スポーツチーム運営の示唆を受け、ビジネスにおける組織文化の作り方について連載で論じていく。

 

#01 前編はコチラ >

 

事業モデルを構造的に分解し管理する「KPIツリー」の考え方

 

 売上の話が出たので、ここで少しビジネスにおける売上・利益の創出について触れたいと思います。企業とは、事業への投資を通じて顧客・売上を獲得し、残った利益をまた再投資しながら、成長してゆきます。このように、利益を上げながら投資を繰り返すわけですが、投資と一言で言っても種類は色々とあります。シナジーの効きそうな事業を買収することも投資ですし、新たに工場を作って製造量を増やすことも投資。広告やブランディングに投資することで企業や製品の認知を高めることもマーケティング投資と言われたりします。では、何に投資するのが重要かというと、私の答えは「人材」への投資です。

 そのように言える理由をご説明します。投資には利益が必要ですが、では利益とはどのように上げてゆくのでしょうか?

 

 

 一般的にはこの図のように、利益を売上とコストに分解し、さらに売上を客数と客単価に分解して……という形で、事業モデルに応じ構造的に分解しながら、管理してゆきます。この中で全体を左右する重要な指標をKPI(Key Performance Indicatorの略で、重要な経営指標のこと)として設定するわけですね。こうした図を「KPIツリー」と言ったりします。

 ここで例えば、「客数が少ないのは、新規顧客が取れてないためで、それは認知が低いことに問題がある」と分かったとします。すると経営陣は「認知を上げるために広告を追加しよう」と考えるわけですが、そうすると追加でコストがかかるので、どこかでコストを下げて帳尻を合わせないといけない。そこで、「では人件費を抑えよう」という判断がされ、採用や育成のコストを抑えにかかります。人件費とは、こうやって投資の対象というよりも、抑制の対象にされがちなのが現状です。そして、この経営陣は「認知が低いから広告を打つ」と発想していますが、これは本当に正しいのでしょうか? 認知が下がっている原因を特定できないまま、場当たり的に広告を打とうとしていますよね。

 

従業員体験(EX)の向上が、売上と利益を生み出す

 

 これに対して、「サービス・プロフィット・チェーン」という考え方があります。ハーバード・ビジネススクールのへスケット教授とサッサー教授が提唱したフレームワークで、主にサービス業を想定して考えられたものです。

 

 

 先の「KPIツリー」が指標を分解してできているのに対し、「サービス・プロフィット・チェーン」では、顧客体験と従業員体験がチェーン(鎖)上に繋がって売上・利益を作るといった、プロセスで構造的に整理しています。売上・利益を生むのは顧客のロイヤルティであり、そのロイヤルティを作るのは顧客体験(Customer Experience)です。そして、その顧客には価値が提供されていて、その価値を生み出すのは、従業員のロイヤルティと生産性であり、その手前には従業員体験(Employee Experience)があるという考えです。つまり、従業員体験が高まれば、回り回って売上・利益を生み出し、その利益を従業員に再投資することで、従業員の体験価値が高まって、また売上・利益が上がっていくというチェーン構造なのです。

 

 これを、上述の経営陣の例で捉えると、顧客体験として「認知が低い」としたときに、すぐに広告に飛びつくのではなくて、その原因が従業員側にないかと探ってゆくのです。そうすると、「最近担当者になった新入社員への育成が不足して、アクションが減ってしまい認知が下がっている」ということがわかるかもしれません。だとしたら、「広告費を増やす」のではなくて、「担当者を育成する」ことが原因を抑えた正しい打ち手ただということが分かりますよね。

 

スポーツもビジネスも選手・人材の個の最大化は欠かせない

 

 急にビジネスの小難しい話が多くなりましたが、ここでスポーツの話に戻しましょう。ビジネスにおいて、このように内部の人材への投資がビジネスを成長させるのと同様に、スポーツにおいても内部の人材、つまり選手やコーチ・トレーナーといった人材への投資が、チームの成長を促すのはいうまでもありません。

 現に名波さんとの対談でも、チーム運営を成功させる手法は、ほとんど選手の話でした。「いかに監督が選手の声を聞き選手を把握するか」「レジェンドと言えるトップ選手を獲得する」「ベテランから若手が学ぶことが大事」といった具合です。加えて、「変化に強くスピード感のあるチームであるべき」「価値観の揃ったチームは強い」といった、チームとしてのカルチャーのあり方についても言及されています。

 このように、スポーツもビジネスも、選手・人材の採用や育成による個の最大化が欠かせないですし、チーム・組織として価値観や組織文化を揃えて一枚岩にしていくこともまた、欠かせないわけです。

 こうしたことから、本コラムでは、名波さんの話をもとに、スポーツからの示唆をビジネスにどのように転用できるのかについて、チームづくりや組織運営の視点を中心に、連載の形でご紹介していきたいと思います。

 

02に続く

 

PROFILE

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ) |  Almoha LLC Co-Founder COO
慶応義塾大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者) 2020年より、Almoha LLCを共同創業。グロービス経営大学院 客員准教授。自身の経験をもとに「組織カルチャー」の可視化、言語化という難題に挑み、組織・経営課題の解決策を提示した『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓。

 

【スポーツ運営に学ぶ カルチャーモデルと組織づくり/唐澤俊輔~back number~】

【#01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<前編>

【#02】唐澤俊輔│ビジネス×スポーツに見る「カルチャーモデルの4類型」<前編>

【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<後編>

【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <前編>

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