COLUMN

発明家集団「モルテン」が目指す
スポーツの未来
民秋 清史【スポーツ成長法則 vol.7】
-前編-

スポーツが人を育む力について聴く「スポーツ成長法則」。第7回目は、モルテンの代表取締役社長 民秋清史(たみあき・きよふみ)さんです。バレー、サッカー、バスケなど競技用ボール、ホイッスルやゴールなど、プロスポーツや部活動の現場でモルテンの製品は欠かせない存在です。スポーツ環境を支えるメーカーの代表として、民秋さんが考えるスポーツが人を育む力についてお話を聴きました。

文=鶴岡優子(@tsuruoka_yuko)

 

オリンピックから部活まで、絶対不可欠を届けるモルテン

 動く――。

 このシンプルで力強い動詞を旗印に掲げた企業が、競技用ボールなどを手掛ける世界的なスポーツメーカー、モルテンだ。

 「molten」というブランド名を見ると、学校の体育館を思い出す人は多いのではないか。バレーボール、バスケットボールに刻まれた「molten」の文字は、スポーツ選手ならずとも、多くの人の体育や部活の思い出の中にある。

 1958年、広島市西区にモルテンゴム工業として創業した同社は、バレーボール、バスケットボール、サッカー、ハンドボールなど、スポーツ用品では知らない人はいない老舗メーカーだ。バスケとハンドボールでオリンピック・パラリンピック、サッカーのUEFAチャンピオンズリーグ、アメリカのNCAA女子バレーボールなど、数々の大舞台の公式試合球を提供し、同社が手がけるボールの種類は国内だけでも500アイテムを超える。

 ボールに代表される中空構造で空気を出し入れする技術をコアに、スポーツ用品だけでなく、自動車部品、床ずれ防止用エアマットレスの医療・福祉機器、浮桟橋といったマリン用品・産業用品と4つの事業に展開され成長を続けてきた。

 そんなモルテンの第4代代表取締役社長の民秋は、「人々が一歩前に動き出すための、未来に向けた製品を作りたい」とテクニカルセンター「 molten [the Box](モルテン・ザ・ボックス)」を2022年11月にオープンさせる。アメリカの自動車メーカーで7年修行を積み、国内外で精力的に活動する民秋は、スポーツについて問うと「パスが届く距離で、人がつながる」ことが何より大事だと熱く語る。

 

4代目は狂信的なNBA/ピストンズファン

 モルテンを世界的メーカーに成長させた3代目社長を父に持つ民秋だが、スポーツに対してとくに強い思い入れはなく、テレビで野球を観ることがない家庭で育ったという。

 中学時代、バレーボール部に入ったが「鳴かず飛ばずだった」と笑って当時を振り返る。そんな民秋がスポーツに大きく傾倒したのは、アメリカで出会ったNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)のデトロイト・ピストンズだった。

 「NBAに恋に落ちたんです。僕がいた2000年代は、コービー・ブライアント、マイク・ビビー、クリス・ウェバー、シャキール・オニールなど伝説の選手が活躍していた頃。アメリカに行った直後は友達がいなかったんですが、バスケを通じてめちゃくちゃ人と仲良くなれたんです。向こうでは日本人で熱狂的なピストンズファンっていうだけでおもしろがられて、ピストンズのグッズをもらったり、ランチ食べながら次のトレードは誰だとか盛り上がったりしました」

 「どんなに贔屓のチームがいたとしても、勝つのはたった1チーム。たとえ勝てなくても、地元のチームは応援したい。スポーツは勝ち負けだけでなく、人と人をつなげる力に価値がある。『観るスポーツ』にハマって知った」と語る。

 最近は日本のBリーグにも注目しているが、応援するのは地元のチームだという。

 「やっぱり地元チームを応援するから、スポーツはおもしろいのだと思います。スポーツに限らず、音楽でもプロ楽団よりも自分の子どものピアノの発表会の方が感動しますよね。スポーツでも音楽でも、観る対象と物語の掛け合わせで感動体験が生まれます。日本代表戦の高度なテクニックには盛り上がりますが、多くの物語を共有できる地元チームのリーグ戦にすごく感動するのは、そういう理由だと思います」

 

「普及と強化」はモルテン流で

 スポーツは「観る」「やる」「支える」の3つに分けるとすると、モルテンは「支える」視点からスポーツ環境を育む立場にある。では、どうやって、スポーツを支えるのか――。

 その方法が、普及と強化だ。

 「観る人、やる人の数は連動すると思います。日本では野球やサッカーが観る人とやる人が多い。でも、たとえばインドでは国民的スポーツのクリケットは、日本人は観ない。やったことがないスポーツは観ないものなんです。なので、観る人、やる人を増やして普及させるというのが1つ目の課題です」

 そんなモルテンが数年前から力を入れているのが、バスケットボールだ。日本バスケットボール協会によると、バスケの競技登録者数は約50万人もいる(2020年)。日本の小中学校の多くにバスケットボールコートはあり、体育の授業や部活で多くの人はバスケの経験があるはずだ。子どもの頃にバスケに触れることが多い環境も、女子日本代表のアジアカップ4連覇、東京オリンピック銀メダルという強さの一因だと、民秋は語る。

 しかし、そんなバスケにも大きな課題がある。それは、「バスケがしたくてもする場所が少ない」ということだ。

 野球やテニス、フットサルはやる場所があるが、バスケコートは少ないのだという。この課題を解決するため、モルテンは驚くべき新製品を開発した。

 それが、組み立て式のバスケットボールコート「B+ゲームユニット」だ。

一見すると屋外の常設バスケットコートのように見えるが……床にご注目! パネルを組み合わせたつくられた即席コートなのだ。

 

神出鬼没!組み立て式バスケットボールコート

 バスケをする場所がなければ、空いている場所をバスケコートに変身させてしまおうー。

 「B+ゲームユニット」は、パネル組み立て式のバスケコートだ。芝生などは除くが、祭りの会場や公園でもスペースさえあれば2時間ほどでバスケコートができあがる。

 「公園に常設のバスケコートを作ったとしても、騒音などの問題もあってなかなか普及しない。なぜなんだろうと考えて、バスケコート側を移動させることにしたんです。そこで思いついたのが、組み立て式という方法です」

 「考えてみると、日本人はコンパクトに収納させるものに馴染みが深い。ふとんもそうですし、ちゃぶ台や傘も折りたたみ式があります。ベッドなどは、実際には出しっ放しだとしても、折りたたみ式を購入する人もいますね。いざとなれば出したりしまったりできるという安心感が、折りたたみ式にはある。それを、バスケコートに応用しました」

 「B+ゲームユニット」はアリーナの外にコートを作ることで、観る人とやる人の境界線も取っ払うことができる。バスケ経験者に限らず、子どもをはじめどんな人でも気軽にバスケをする機会を増やすことが可能だ。人が集まる場所にバスケコートを作ることで、プレーしたり、観戦したりする人を増やし、まさに「パスが届く距離でつながる」ことができるのだ。

 また、モルテンはバスケの強化のために、「シューティングマシン」も開発した。昔のように長い練習時間が取れず、効果的な練習を効率的にする必要がある現代に合わせた「強化」の提案だ。自動的にボールを投げてくれるだけでなく、シュートしたボールをネットで回収してくれるため、連続したシュート練習が可能だ。仲間にサポートを頼む気兼ねも要らず、一人でもシュートを打つことだけに集中した効率のよい練習ができる。

バッティングマシーンのように、球拾いなして一人完結でのシュート練習を可能にした「シューティングマシン」。シュート練習はもちろん、設置から撤去まで一人でできる。

 

- 後編に続く-

PROFILE

民秋清史(たみあき きよふみ) | 株式会社モルテン 代表取締役社長 最高経営責任者
1974年11月22日生まれ。2001年 矢崎ノースアメリカインク入社。2006年 株式会社モルテン入社。取締役兼執行役員として海外営業や経営企画、広報部門を担当し、2010年8月より現職。「モルテン社内で誰よりもパワフル」で、既成概念にとらわれない独自の発想でスポーツ業界をリードする存在。
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