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【スポーツ成長法則 vol.5】
<前編>アスリートがビジネスで勝つ法則。マインドセットを変えて爆速成長するTENTIAL/中西 裕太郎

スポーツが持つ「人を育むチカラ」を経営者に聞く「スポーツ成長法則」。第5回目は、株式会社TENTIAL(テンシャル)代表取締役CEO中西裕太郎(なかにし・ゆうたろう)さんです。中西さんは「土俵の上で勝つことに集中する力は、スポーツもビジネスも同じ。でもマインドセットを変えないと」といいます。そんな中西さんの原動力は「スポーツで頑張った経験が還元されないフラストレーション」だったそうです。いったいどんな経験がビジネスの世界へといかされていったのでしょうか。

文=鶴岡優子(@tsuruoka_yuko

 

3億円の大ヒット!高機能マスクを爆速ローンチできた理由

TENTIALの2020年は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。コロナ禍でマスク需要が高まる中、スポーツウェア素材を使ったTENTIALのマスクが累計3億円を突破したのだ。

「実は今年の前半は苦しい戦いだったんです。TENTIALはECサイトなどオンラインで始まった会社です。オンラインだけでなくリアルイベントでブランド理解をしてもらおうと、子ども向けの新商品イベントを計画していたのですが、コロナで断念。それで、何か新しい打ち手を考えなくてはいけないところに、マスクのアイデアに行き着きました」

マスクの生産を具体的に考えはじめたのは5月。そのわずか一ヶ月後には発売を開始するという「爆速ローンチ」。最近でこそマスクを購入できるようになったが、当時はマスクの需要に対してどのメーカーも生産が追いつかなかった。それまでマスクを生産したことがなかったTENTIALがなぜ、爆速ローンチできたのか。

その理由は、TENTIALがマスクの前に開発していたインソールにある。インソールの開発にあたり、中西さんは素材を扱う企業、縫製・生産の工場を探して日本各地を飛び回っていた。そのご縁の中から、ある企業からスポーツウェアに使う高機能繊維を用意できる、という情報が入ってきたのだ。

「試しにその繊維でマスクを作ってみたら、非常にいいマスクができたんです。性能に厳しいアスリートに試しに使ってもらったところ、通気性に優れていると好評でした。機能性にこだわるアスリートが褒めるマスクならイケる、そう思いました」

マスク不足の中、大手メーカーはドラッグストアなど店舗販売を重視していたのに対し、オンラインに強いTENTIALはこのマスクをネット販売した。すると、あっという間に完売となった。吸水性、速乾性、通気性に優れているため、汗をかいても乾きやすく呼吸がしやすいことがヒットの要因となった。

「社会的なニーズがあったのはもちろんですが、これまでインソールで地道に準備してきた経験がマスクに活きました。僕らの製品へのこだわりとネット販売のノウハウが社会に役立つんだ、と自信になりました。それに、機能性を追求するTENTIALのブランドをマスクで理解してくれたお客さまのおかげで、インソールの売上も伸びたんです」

 

元アスリートならでは「インソール」という着目点

中西さんがTENTIALを起業し、最初に製造したのがインソールだった。D2C(Direct to Consumer:自社で製造した商品を自社ECサイトで直接消費者に販売するビジネスモデル)が流行し、シャンプーやスムージーなど生活に密着したヒット商品を出すベンチャーが増えていた。わかりやすい商材がD2Cの中でヒットを飛ばす中、靴の中に入れる「インソール」に目を付けたのは異色だったと言っていい。

インソールに注目したのは、「ただのスポーツメーカーではなく、NIKEを超える世界のスポーツブランドを創りたかった」からだ。アシックスがスポーツシューズで創業し、そのスポーツシューズに注目したのがNIKEだ。大手スポーツメーカーが「足」からスタートしていることを中西さんは意識していた。また、TENTIALが商品開発の前から運営していたメディア『SPOSHIRU』で、足や靴に関する悩みのコンテンツがよく読まれていたことから、足の悩みに対する消費者ニーズが高いことも実感していた。

「靴かインソールか、迷ったんです。日本にはまだインソールでいい商品が少ないですし、インソールならいろんな靴に入れられるので、マーケットとしてもよいと思った」

インソールに注目したのは、中西さん自身の体験もあった。高校2年の時、サッカーで疲労骨折してしまった。「今考えれば、明らかに自分に合っていない靴を履いていた。当時はいいインソールが何かもわかっていなかった。骨折後、海外ブランド『スーパーフィート』のインソールを使ったらすごくよかったんです」

『TENTIAL INSOLE』を入れた靴を履いてみると、その履き心地の違いに驚く。土踏まずのアーチの部分がインソールによって支えられ、足裏全体に体重が乗る。靴の中で浮いてしまいがちな足指も、足指で地面を掴むような感覚になる。

「足を大事にしている陸上選手も競技会場では足を大事にするのに、競技が終わるとサンダルを履いていることもあるんです。アスリートはもちろん、足をよく使う配達や介護の仕事、営業マンも日常から足のコンディションを整えることが重要です」

歩くシーンや好みによって選ぶ靴は異なるが、インソールであれば幅広い人がフレキシブルに使うことができるというわけだ。

中西さん自身のサッカー体験が着想した『TENTIAL INSOLE』。アスリートだけでなく、幅広い層のニーズに応える商品となっている。

 

子どもの成長は足が鍵を握る。「足育」の重要性 

「高校サッカー時代、足をケアしていれば、もっと上まで行けたかもしれない」と考えた中西さんは、子ども用インソールも開発した。

商品開発にあたり、久保建英選手、長友佑都選手などトップアスリートのトレーナーを務める木場克己さんに相談した。木場さんによると、現代の子どもの多くが指が地面をつかめていない「浮き指」になっており、それが姿勢など全身のバランスにも影響しているという。

「幼少期における足の健康管理の中でも、とくに小指のケアが大事なんです。成長期に合わない靴を履いたまま運動をすると、小指がつぶれてしまうことも。小指を鍛えることに専念したら、身体のバランスが取れて首が太くなり、体幹が鍛えられる選手もいるそうです。インソールを履くことでアーチが支えられ扁平足になりにくくなったり、疲れにくくなります。僕はいいインソールを履くだけで、将来の日本代表が強くなるんじゃないかと思っています」

海外では身体に対しての知識が教育されているのに比べ、日本ではまだ「足育」の重要性が知られていない。「足育」の重要性を伝えていくこともテンシャルのミッションだ。

 

小6の選抜で負けた悔しさをバネに「プロになりたい」

中西さんがサッカーを始めたのは幼稚園の頃。小学校では足が速くて体力もあり、「スポーツは得意。自分では天才だと思っていた」と笑って振り返る。しかし、小学校6年生の時、サッカーの県の選抜に選ばれず、ユースにも落ちてしまった。「地元ではそこそこやれても、県レベルでは下っ端」と、人生はじめての挫折を強く味わった。

選抜に落ちてからは、地元のクラブチームに進んだ。キャプテンで10番、ポジションはトップ下。小中は学校でもリーダーシップを発揮して、委員長をやっていた。中学校になると「小6の選抜で負けた奴らには負けたくない、プロサッカー選手になりたい」と決意。当時、全国にも出て勢いを増していた西武台高校に特待生で入学する。

しかし、中西さんが高校に入ると、再び挫折が待っていた。中学校では活躍できていても、西武台高校のサッカー部は約70名もいるのだ。高1と高3の実力の差は大きく、試合に出るのも必死な環境だった。サッカー漬けの毎日の中で、とにかくここで頑張って結果を出そうと、もがき続けた日々だった。自分に何が足りないのかを内省し、守備や対人でのボール捌きが弱点と気付き、トレーナーと克服していった。高校2年の時にはサッカーメディアに取り上げられ、西武台でエースナンバーだった「14番」を背負った。

高3の頃には「プロを目指せる」と実感していた。もし仮にプロに行けなくても、大学でサッカーを続けるはずだった。

 

――後編につづく――

 

PROFILE

なかにし・ゆうたろう
株式会社TENTIAL代表取締役CEO。
埼玉県出身。高校時代はサッカーでインターハイに出場。心疾患のためプロを断念し、プログラミング学習サービス「WEBCAMP」を手掛けるインフラトップの創業メンバーとして参画。リクルートで新規サービスの事業開発を経て、2018年2月にTENTIALを創業。

 

【スポーツ成長法則~back number~】

【#01】<前編>「利益も勝利も○○にすぎない」という生き方/野澤武史

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【#04】〈前編〉脱・常識が強さの根源。理不尽なスポーツの世界で育つ「折れない力」/宮田 誠

【#06】<前編>熱血野球教師から書道家へ。心のキャッチボールで育む「夢追う力」/栗原 正峰

【#07】<前編>発明家集団「モルテン」が目指すスポーツの未来/民秋 清史

 

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