COLUMN

発明家集団「モルテン」が目指す
スポーツの未来
民秋 清史【スポーツ成長法則 vol.7】
-後編-

スポーツが人を育む力について聴く「スポーツ成長法則」。第7回目は、モルテンの代表取締役社長 民秋清史(たみあき・きよふみ)さんです。バレー、サッカー、バスケなど競技用ボール、ホイッスルやゴールなど、プロスポーツや部活動の現場でモルテンの製品は欠かせない存在です。スポーツ環境を支えるメーカーの代表として、民秋さんが考えるスポーツが人を育む力についてお話を聴きました。

文=鶴岡優子(@tsuruoka_yuko)

 

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空気を入れない、奇想天外な組み立て式サッカーボール

 モルテンの発想の転換は、バスケ以外にも広がっている。

 発展途上国などでは、壊れたサッカーボールや、ボール以外のものを蹴って遊んでいる子どもがまだ多い。子どもたちのためにボールを寄付したい、とモルテンに問い合わせをしてくれる企業もあるという。しかし、仮にボールを寄付して届けたとしても、現地に空気入れがないため、すぐにボールはベコベコになってしまう。

 そんな課題を解決するため、同社が開発したのは組み立て式サッカーボール、「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)」だ。日本の伝統的な「竹鞠」の構造に着想を得て、デザインした画期的な商品だ。

“空気を入れなくてよい”組み立て式サッカーボール「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)」

 

 最初は「空気が抜けないボールを作ろう」と考えたが、技術的に難航した。ある時、「そもそも空気を入れなければいんじゃないか」とエアレス構造を作ることを思いつく。もともとボールに空気を入れるのは、形状保持とリバウンドが目的だ。この2つさえカバーできれば、必ずしも空気を入れる必要はない。

 「空気を入れていたのは、それが形状保持とリバウンドのために簡単な方法だったからなんです」と話す民秋だが、中空構造で空気を出し入れする技術はモルテンの創業当初からのコア技術だ。過去の技術にしがみつくことなく、課題解決のために手段は軽々とピボットする。

 「蹴った感覚にもこだわりました。ボール屋がボールを作るのだから、オモチャではダメだ。子どもが蹴っても、ちゃんとボールを蹴った感覚は重視しました」

SDGsに貢献するプログラムとして「MY FOOTBALL KIT」は、ボールを扱うことすら叶わないアフリカ諸国でも広められている。

 

組み立て式サッカーボールがもたらす、質の高い教育

 組み立て式ボールを開発する途中で、組み立てるという作業と教育との結びつきにも新たな発見があった。

 花まる学習会代表の高濱氏との出会いにより、「MY FOOTBALL KIT」の平面を立体にする作業が、人の立体能力を伸ばす可能性に気づいた。同氏によると、ブロックや積み木などで遊ぶことで、子どもの立体の能力は育まれるという。進学校の入試で図形の問題が出るのも、図形の問題を解けるかどうかで差が出るからなのだそうだ。

 「自分で作ったものであそぶと、めちゃくちゃおもしろいんです。組み立てていくと徐々にボールの形になっていく、そうなると子どもの顔が輝いていきます。作ったボールでサッカーをしている子ども達の表情が、とにかくたのしそうなんです」

 「MY FOOTBALL KIT」を組み立てることで、サッカーボールができ上がるだけでなく、立体能力を育くむことにつながる。また、もしボールが壊れたとしても、パーツを取り替えれば自分で直すことができる。SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」と目標12「つくる責任・使う責任」に貢献するプログラムとなっているのだ。

 これまでどのくらい販売しているのか、という質問に対しては、「MY FOOTBALL KIT」の一般販売はしていない、という意外な答えが返ってきた。

 「社会貢献を考えている企業や団体に『MY FOOTBALL KIT』を寄付として活用してもらうことで、循環型の社会を実現したいんです」

 この地球をフィールドとして、人から人へボールをパスする――。モルテンが目指すのは、あくまでも人が介在することによって育むスポーツ環境のようだ。

画期的な製品ながら一般販売をしていない「MY FOOTBALL KIT」は、社会貢献活動としてスポーツ環境を「支える」活動を世界中で行っている。

 

モルテンが目指すスポーツの未来

 学校における働き方改革で、休日の部活動を民間委託する検討などが進んでいる。子ども達のスポーツ環境の転換期を、どうみているのだろうか――。

 「日本における体育と部活の貢献は、とても大きいと考えています。自分の学校にやりたい競技の部活があるかどうかはさておき、やりたいと思えば何かしらスポーツができる環境にあるのがこれまでの日本。選択肢もあるので、たとえば野球がうまくいかないなら、サッカーやバレーなど、他の競技に変更することもできる。実はこれは大変恵まれた環境ともいえます」

 「街で増えつつあるスポーツクラブでもスポーツはできますが、そうなると塾のように通える子と通えない子がでてくるのでは。勉強は塾があってもなくても学校の授業がなくなるわけではないのに、スポーツは経済状況により機会の差が広がってしまうのではないか」

 心技体の「体」が育まれないと、「心」も「技」もついてこない。また、体育と部活が与えてくれるのは健康な体と心だけではなく、悔しいことを乗り越える仲間、思い出だと、民秋は語る。

 変わり続けるスポーツ環境の中で、民秋が繰り返し訴えるのは「パスが届く距離で、人がつながる」ことの大切さだ。どのスポーツにも課題があるが、モルテンにとってその課題は発明の元なのかもしれない。

 「秘策はたっぷりあります」と笑う民秋は、これからもスポーツ環境を育んでいくだろう。

 

 

モルテン 代表取締役社長 CEO 民秋清史さんが考えるスポーツの「人を育む力」とは――

“ スポーツは、たくさんの人をパスが届く距離でつなげる力がある”

 

PROFILE

民秋清史(たみあき きよふみ) | 株式会社モルテン 代表取締役社長 最高経営責任者
1974年11月22日生まれ。2001年 矢崎ノースアメリカインク入社。2006年 株式会社モルテン入社。取締役兼執行役員として海外営業や経営企画、広報部門を担当し、2010年8月より現職。「モルテン社内で誰よりもパワフル」で、既成概念にとらわれない独自の発想でスポーツ業界をリードする存在。
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