子どもの成長のために、良かれと思って言っていることが実はマイナスに働いていたり、「育てよう」と強く思うほど、「育たない」ことにつながる。そんな悩みをみなさんお持ちなのではないでしょうか? 『すぐやる人とやれない人の習慣』(シリーズ40万部突破)の著者であり、心理学に基づいた指導法で教育コンサルタント、メンタルトレーナー、心理カウンセラーとして活躍する塚本亮さんが、子どもの「心」を強くするための習慣ついて連載でお届けします。
文=塚本 亮
スポーツは子どもたちの心身の発達に大きな影響力を持っています。
そこで前回から「心のしなやかさを育てるために何ができるだろうか」ということテーマに、レジリエンスについてご紹介しています。「レジリエンス」とは困難な状況や苦境からの復元力、回復力のことでしたね。
アメリカ心理学会が発表しているレジリエンスを鍛える方法は10あります。その中で前回は3つをお伝えいたしましたから、今回は「中編」ということでさらに4~6の方法をご紹介したいと思います。
いずれも周りのサポートが重要で、周りの忍耐も試されるものだと感じます。
もちろん、できたら完璧! なのかもしれませんが、なかなかうまくはいかないと思いますので、少しずつでもお子さんと一緒にチャレンジしていただければ嬉しく思います。
では早速ですが、新たに3つの方法を見ていきましょう。
目次
その4 出来事の解釈力を磨く
「私たちは自分の身に起こったことで傷つくのではない。その出来事に対する自分の反応によって傷つく」
これは私が高校生の時に読んだ世界的ベストセラー『7つの習慣』で出合った言葉ですが、少しずつ、そう考えるように意識したことで、私自身レジリエンスを高めることができたのではないかと感じます。
良いことも悪いことも起こるのが人生ですが、レジリエンスを鍛えるために大切なのは自分の身に起こった出来事への解釈の仕方を学ぶということです。
仕事でも周りが思うように動いてくれないことがあります。理不尽なことが起こることもあります。しかしそこで、「あいつがちゃんとやらないからダメなんだ」と不平を漏らし続ける人と「どうしたらもっとしっかり動いてくれるかな」と考えて動く人がいます。
同じ出来事でも人の捉え方は大きく違います。
私たちは人間ですから誰だって失敗をします。スポーツをしていると自分の思い通りにいかないことがたくさん起こります。チームスポーツならば自分の思いに反する事をやらなければならないこともあります。
「お前があそこでミスしなければ!」と感じることもあるでしょう。
思い通りにプレーできないこともあるでしょう。
しかし、ここでも自分の感情をただただぶつけてしまうだけに終わるのか、それとも怒りの感情を認識しながらも改善策を考えようとするのか。
「自分にできることは何があったかな?」
そう考えることができる選手は、チームメイトのミスを自分のチカラにすることができます。
失敗を責めるのではなく、そこから学ぶことができるのです。
チームメイトのミスを叱責することは簡単ですが、それでは自分自身の成長を放棄してしまうことになるのです。
もちろん、目の前の試合は大事なものだと思います。
みんな勝ちたい。
だけどもうまくいかないことの方が多い中で、その中から何を学ぶことができるのか。
子どもがそう考えられるように促す。
これが親や周りが子どもたちにできることなのではないでしょうか。
出来事への解釈力は、できる限り早いうちからトレーニングすることをおすすめします。何故ならば、思考を変化させることは時間を要するからです。
子どもたちが抱く感情を理解しながらも、どうすればいいかを一緒に考えるように導くわけですから、周りも忍耐が試されることでしょう。
しかしものごとへの解釈力が高まれば、子どもたち大人になった時にとても大きな力になることは間違いありません。
その5 変えられるものだけに意識を向けさせる
結果は結果としてついてくるもので、自分たちで決めることはできません。どれだけいい準備をしていても、天候や相手の出方、試合中の思わぬハプニングなどによって想定外のことが起こるのがスポーツです。
むしろ想定外のことが起こるから、スポーツは楽しいし、観る方もドキドキします。
先ほど、「出来事への解釈は選択できる」ということを、子どもたちと一緒に考えることの大切さをお伝えしました。
しかし、自分のチカラで変えられるものと、変えられないものがあるということを理解し、変えられるもののみに意識を向けるように促すことも、レジリエンスを高める上では大切であるとされています。
有名な話ではありますが、経営の神様と言われ、パナソニックの創業者である松下幸之助は自分の成功の要素を聞かれた時、こう答えたといいます。
①貧しかったから、工夫してお金を使うことを考えた
②学校に通えなかったから、人から素直に学ぼうとした
③病弱だったから、人との協力を考え、人に任せようとした
これも解釈の仕方一つで生き方が大きく変わるということの例でもありますが、何よりレジリエンスが高い人に共通するのが「自分に変えられるものだけに意識を向ける」ということなのです。
「もっと頑張れよ」と言われたところで、なかなか頑張れない。頑張りたいけど、どうしても頑張れない時もある。そんな時に「なんでもっと頑張らないんだ!」と言われても気持ちは動かないはずです。
無理やり相手を変えようとしても相手は変えられない。ならば、自分の接し方を変えればいいですね。他人を無理やり変えることはできなくても、自分の接し方を変えることで、相手を変えることはできます。
一番良いのが相手の気持ちに寄り添うことです。本質的になぜ頑張れないのかを理解してあげないと、問題は根本は解決はできないですから。
これがいきなり完璧にできるようになることを、子どもに期待する必要はありません。
ただ、周りがそう考える「選択肢がある」ことを子どもたちに伝えること。これだけでも子どもたちのレジリエンスは大きく向上するはずです。
その6 自己発見の機会を与える
当たり前のことなのかもしれませんが、たくさんの困難を乗り越えてきた人の方が、レジリエンスが高い傾向があります。苦しんだり、もがいたりする経験の中から自分のことを理解するようになったり、そこから学んだりするわけですね。
心理学の研究でも、苦難を乗り越えて来た経験が多い方が、心がブレにくくなり、ものごとへの感謝の気持ちを持ちやすくなると言われています。
ですから、なるべくたくさんの経験を積ませるということがレジリエンスを高める上でも重要です。夏休みなどの休暇期間には、いつもと違うスポーツにチャレンジしてみたり、見知らぬ人ばかりの短期教室に参加してみたりと、普段とは違った環境を与えてみても良いでしょう。
いつもとは違うものに触れることによって、普段は感じることのない感覚を覚えたり、一時的にストレスを感じたりすることがあるかもしれません。しかし、それが子どもの精神的な成長にもつながっていくのです。
次回はレジリエンスを高める方法、最後の4つをお伝えできればと思います。
読んでいただいてありがとうございます。
PROFILE
- つかもと・りょう
- ジーエルアカデミア代表取締役、マッチャモーレ京都山城代表、同志社大学嘱託講師。高校時代、偏差値30台、退学寸前の問題児から一念発起し、同志社大学に現役合格。卒業後、ケンブリッジ大学大学院で心理学を学び修士課程修了。帰国後、京都にてグローバルリーダー育成を専門とした「ジーエルアカデミア」を設立。心理学に基づいた指導法が注目され、国内外の教育機関や企業、トップアスリートなど6000人に対して世界に通用する人材の育成・指導を行っている。著書は『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』(明日香出版社)など多数。新著「ヤバいモチベーション完全無欠のやる気を手にする科学的メソッド50」(価格:1,500円税抜/発行:SBクリエイティブ)発売中。
【強い心の育み方/塚本亮~back number~】
【♯01】ネガティブ思考を払拭! 子どもの「自己効力感」を伸ばすためにできること
【♯02】 VUCA(ブーカ)時代を生き抜く「レジリエンス」の高め方<前編>
【♯03】 VUCA(ブーカ)時代を生き抜く「レジリエンス」の高め方<中編>
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