自身の引きこもり経験克服を機に独自のコーチングメソッドを開発し、多数の企業経営者、アスリートなどのカウンセリングを務める中島輝氏。ベストセラー『自己肯定感の教科書』の著者であり、“自己肯定感の第一人者”として注目を集める人気カウンセラーが、社会で生き抜くために必要な実践的な技術を連載形式でお届けする。
心理カウンセラーの中島輝です。わたしは、「自己肯定感のスペシャリスト」として、自著はもちろん、各メディアやセミナーといった場で自己肯定感の重要性について語ってきました。
ただ、「“自己”肯定感」という言葉の響きもあってか、多くの人が「自己肯定感は個人にとって重要なもの」だと思っているようです。しかしそうではなく、組織全体の自己肯定感の高低は、その組織のパフォーマンスを大きく左右するものなのです。
今回は、組織における自己肯定感について考えていきます。
目次
この時代に自己肯定感が求められる訳
「自己肯定感」とは、「自分自身が価値ある存在であると自分で認める」感覚を指し、もっと簡潔にいえば、しっかり主体性を持って「自立」できているということになるでしょうか。
この、自己肯定感という言葉をほとんどのみなさんが聞いたことがあるでしょう。しかし、わたしがはじめて2019年に自己肯定感に関する著書を出版したときにはこれほどのパワーワードではありませんでした。こうして認知度が高まっているということは、自己肯定感がこの時代に求められている証だと考えます。
ではなぜ、自己肯定感がいま求められているのか——。推測するに、昭和の時代にはいまほど自己肯定感というキーワードは求められていなかったのではないでしょうか。当時の日本は経済成長が著しく、景気は右肩上がりの時代。必然的にたくさんの人に活躍の場が与えられました。それの意味するところは、みんなが周囲に承認され続ける時代だったということです。続いて平成に入るとバブルが崩壊し、不況の時代に突入します。ただ、バブルの名残もあったためか「自由に伸び伸びと生きていこう」といった時流が起きました。
ただそこで、「自由に伸び伸びと生きていこう」といっても、きちんと自立できていなければこの先は立ちゆかなくなるということに多くの人が気づきます。そうして、しっかりと自立して自由に伸び伸びと生きていくために、自己肯定感がより強く求められるようになったのだと見ています。
「世界的に見て日本人の自己肯定感は低い」という話を見聞きしたことがあるかもしれません。それには、日本人の長所であり短所が影響しています。
「和をもって貴しとなす」という言葉があるように、むかしから日本人は他人との調和を重視してきました。それは、日本人が持つ長所です。ところが、その特性がよくない方向に出てしまうことも……。他人との調和を重視するあまり、「自立できずに他人に甘える」ということにもなりかねないのです。
自己肯定感が低い組織に起こり得る問題
時代の流れを経て、その自己肯定感の低さが、スポーツチームや企業といったあらゆる組織において問題を招いているように感じています。組織のタイプにも様々あるわけですが、「ボート型」とでも呼ぶべき組織は多数存在します。複数のメンバーでオールを漕ぐボートでは、漕ぎ手が手を抜くことができます。なぜなら、複数人の内の数人が漕ぐフリをしていたとしても、他のメンバーの力でボートは少しずつ前に進んでいくからです。
もちろん、手を抜く人間というのは、他人に甘えていて自立できていない自己肯定感が低い人間だと見ることができます。つまり、自己肯定感が低い人間が多い日本の組織には、手を抜く漕ぎ手が多いということになります。そんな状態では、ボートは力強く前に進んでくれません。
わたしが主催している自己肯定感に関する講座で、受講生のひとりである会社経営者からこんな悩みを聞かされました。「『個人の目標は決めました。でも、それ以上のことはしません』というスタンスの社員が多いんですよね……」というものです。「自分さえよければいい」という、手を抜く漕ぎ手の存在に悩んでいるわけです。その人間の能力は上がるのかもしれませんが、チーム・組織という観点で見れば、それはやはり問題でしょう。
もっと極端な例ではこんな悩みもありました。組織運営において欠かせない「報連相」についての話ですが、「報告とはこういうときにするべきことで、連絡とはこういうこと、相談とはこういうこと……」というふうに、するべき理由も含めて一つひとつ丁寧に説明しないと理解できない人間もいるそうなのです。他人に甘えていて、自立などほど遠い状態です。
こうなってしまったことの責任がどこにあるのかは一概にいえませんが、いまの日本の組織にはたくさんのこうした問題があるのでしょう。
他人も肯定できる人間が組織に多くのメリットを生む
では逆に、自己肯定感が高い人が集まっている組織にはどんなメリットがあるのでしょう。わたしは、大きく3つのメリットがあると考えます。
【自己肯定感が高い人が集まっている組織に生まれるメリット】
➊ 組織の目的に対して共通認識が持てる
➋ 情報共有がスムーズになる
➌ 互いに協力し合おうとする貢献意欲が強まる
これらはいずれも、自己肯定感が高い「自立型人間」が集まっている組織だからこそ生まれるメリットです。
➊
自立しているからこそ、メンバーそれぞれが組織のためにしっかり行動して自分の責任を果たそうとするので、組織の目的に対して共通認識が持つことができる
➋ ➌
目的を達成しようとすれば、他のメンバーとの円滑なコミュニケーションや協力は欠かせないため、情報共有がスムーズになるし、互いに協力し合おうとする貢献意欲が強まる
自己肯定感には「自己」という言葉が入るため、「個人にとって重要なもの」だと考えられる節がありますが、決してそれに限ったものではありません。ここで重要なのは、自己肯定感が高く自分を肯定できる人は、他人も肯定できるという点です。そのため、自分が属する組織のメンバーを肯定することもでき、組織のために全力を尽くすことができるのです。
自己肯定感が組織にとって大事だということが見えてくると思います。
PROFILE
- 中島輝(なかしま てる) | 「トリエ」代表 /「肯定心理学協会」代表
- 心理学、脳科学、NLPなどの手法を用い、独自のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「肯定心理学協会」や 新しい生き方を探求する「輝塾」の運営のほか、広く中島流メンタル・メソッドを知ってもらうための「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感ノート講座」「自己肯定感コーチング講座」などを主催。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)など多数。
【第一人者が解き明かす“自己肯定感”のビジネス学/中島輝~back number~】
【♯01】<前編> 自己肯定感から見る組織論「自己肯定感」は「心理的安全性」から生まれる
【♯02】<前編>やるべきは、自分自身の怒りのコントロール。チーム・組織における「怒りのトリセツ」
【♯03】<前編>スポーツが育んでくれる、ビジネスシーンで役立ついくつものマインド
【♯04】<前編>失敗を成功へと導く。リーダーに必要な「声かけ」のポイント
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