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COLUMN

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結成わずか5年で全少制覇!
20年度王者・FCトリアネーロ町田・若山監督の人間育成論
【サコーCPの育成探訪#4】

日々、スポーツと教育を探求するSPODUCATION コンテンツ・プロデューサー(CP)の「サコー」こと酒匂紀史が、気の向くまま思いつくままに、日本全国の指導者や育成現場に赴き、その理念や信条を紐解き、書き記すこのコーナー。第4回は、2020年度JFA第44回全日本U-12サッカー選手権大会で名だたる強豪を下し、クラブ結成5年で全国の頂点に立った「FCトリアネーロ町田」の若山聖祐監督の育成論に迫る。

 

文=サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)

 

今回は、2020年度JFA第44回全日本U-12サッカー選手権大会において、結成わずか5年で全国の頂点に輝いた街クラブ「FCトリアネーロ町田」を率いる若山聖祐監督に、インタビューを行なった。FCトリアネーロ町田では、一体どのような育成が行われているのだろうか。高校卒業後からすぐに、地元の少年団でコーチキャリアをスタートさせた若山監督の考え方に触れることで、全国の指導者のみなさんや、キッズアスリートを持つ親御さんにとって、ご自身の育成や指導について考えるきっかけとなる情報をお伝えしていきたい。

 

コーチのキャリアは、地元の少年団を手伝うことから始まった

全日本U-12サッカー選手権大会で、全国の頂点となった若山監督の経歴は、決して華やかなものではない。高校生の頃、少年時代に所属していた川崎市にある少年団・菅FCの田代監督に「子どもたちと一緒にサッカーをやって欲しい。子どもたちにサッカーを見せてやって欲しい」と頼まれ、軽い気持ちで引き受けたのが、若山監督のコーチキャリアのスタートだ。

その後、部活を引退してすぐに菅FCのコーチになるものの、当然のことながら給料がもらえるわけでもなく、アルバイトをしながら、母校チームのコーチや、YASU SOCCER SCHOOLのコーチを掛け持つことで、生計を立てていた。しかし、やるならとことん向き合いたいと考える若山監督は、サッカーの育成や指導にまつわる本を読みあさり、独学で菅FCのコーチ業を全うし、コーチをはじめて4年目には、菅FCをバーモントカップの全国大会に導くほどの実績を残すに至った。

後に振り返ると、YASU SOCCER SCHOOLで幼児から小学生を、菅FCで主に小学校高学年を、母校のコーチとしてジュニアユースやユース年代を指導したことで、子どもの成長を長期的な視点で見ることができるようになったという。そして、2016年、満を持してFCトリアネーロ町田を立ち上げた。

 

 

FCトリアネーロ町田が、一番大切にするのは人間教育の部分

「FCトリアネーロ町田の育成方針を教えてください」と伺ったところ、若山監督が真っ先に答えたのは「人間教育の部分」だった。もちろん、プロのサッカー選手になることを大前提に育成を行っている。

将来、日本を代表するような選手を輩出したいというのは、若山監督にとっても大きな夢だ。だからこそ人間教育の部分を大切に考えているという。確率論で考えると、ほとんどの選手はプロサッカー選手になるという夢を叶えることはできない。またプロサッカー選手になれたとしても、トップ選手として長い期間活躍を続けられる可能性も、決して高くはない。さらに、例えトップ選手になったとしても、その後のセカンドキャリアの方が人生は長い。

本気で、プロサッカー選手を目指してほしいからこそ、アスリートとしてサッカーと向き合う時期を終えた後に、何を残してあげられるのか? ということを大切に考えているのだという。

「昔はそこまで考えることはできなかったですが、最近はそういう思いでやっています」と自身の変化に対しても若山監督は正直に話してくれた。サッカーという競技の魅力は、団体スポーツの部分にあるという。

「団体競技は、みんなで一つの物を作っていかなければならない。だからこそ、勝つために役割分担があって、自分の良い部分を主張する必要があって、相手の良い部分を受け入れる必要があって、パス一つとっても思いやりが大切で、一人ひとりがチームのために貢献することが大切である。それは、社会人としてチームで仕事をしていくことと共通すると思います」と語ってくれた。「先日合宿で、お弁当のゴミが落ちていて、それを片付けられるかどうか? が大切なんだと思います。自分のゴミじゃないと無視をするのか。チームのゴミなんだから自分から率先して動けるのか。一人ひとりがチームの看板を背負っていることを意識して行動することで、周りに良い影響を生むことができる」と話してくれた。

全国を制覇したFCトリアネーロ町田は、何か突飛で目新しい育成方針を持っているのではなく、むしろ誰もが大切だと考える人間教育の本質的な部分を、頑なに徹底するところが強さの秘訣なのではないかと感じた。

 

 

全国制覇できた一番の要因は「チームの一体感が圧倒的」だったこと

「全国制覇をした2020年度大会のチームの様子について教えてください」と水をむけた。私は、どんな戦術を駆使したのか? どんな選手が活躍したのか? どんなエポックメイキングな試合があったのか? そんな話が聞けると思っていたのだが、若山監督の第一声は、私の予想と全く反するものだった。

「ベンチ入りできる選手の数って、ルールで決まってるんですよ」

若山監督が全国制覇をした時のことを思い出すときに最初に蘇ることは「試合に出られない選手がいること。ベンチに入れない選手がいること」なのだ。「小学校6年生の時点での評価なんて、本当にどうでもいいことだと思うんですよ。かつて高校生をコーチしていたから分かるんです。人はいつ、どんな形で伸びるかなんてわからない。だから今回レギュラーになれなかった子も、中学3年生の時はレギュラーになっているかもしれないし、今回レギュラーの子だって中学3年生の時はレギュラーを外れているかもしれない。だからこそ、試合に出られる子は、試合出られない子、ベンチに入れない子のためにも頑張る。試合に出られない子は、試合には出られなくてもチームが勝利するために何ができるかを考えて行動する」その部分を、何よりも大切にしたという。

最後のメンバー選考は「サッカーが上手いとか下手とかそういうことではなく、チーム全体として最高のパフォーマンスを発揮できるための布陣で挑んだ」という。「全国には、強いチームや、上手いチームなんてたくさんあるんですよ。実力的に、トリアネーロより上のチームだってたくさんあります。でも、”チームとしての一体感”だけは、一つ抜けている感じはありました」と当時を振り返ってくれた。

 

 

優勝したことで、優勝することがゴールではないことを確信した

「優勝を手にしたことで、育成について変わったことはありますか?」と問いかけたところ。若山監督は「変わったことはありません。ただ、何となく思っていたことが確信に変わっただけです」と話してくれた。

何となく思っていたこと、それは「優勝することはゴールではない」ということ。「結果はあくまで、結果。だから、結果に一喜一憂してはいけない。一番を取ることは偉いことでもないし、一番を取ることで未来が約束されるわけでもない。逆に、結果だけを大事にしていては、結果が出ないと誰にも相手にされなくなる」と語ってくれた。

「例えば、試合に出られなくても、大きな声で、応援できたり、選手に適切なアドバイスができるか。出ている選手に水筒を持って行けるか。逆に出ている選手も、悔しい中サポートしてくれる仲間がいることに感謝できているか。そういうことが大切なのであって、結果はあくまで結果でしかない」と続け、「私は、今回8人制のルールの中で、選ばれた選手も、選ばれなかった選手も、全ての選手の努力を心から認めています。そして、トリアネーロの6年生の段階でのレギュラーが全てではないと思っています。だからこそ、子どもたちには、中学・高校と進む中で、みんなに応援されるような選手になりなさい。ということを強く伝えています。」と力強く語ってくれた。幼児期からユース世代まで広い年代を見てきた若山監督だから語れる、とても説得力のある話だと感じた。

 

 

伸びる子に共通する資質。それは自分で感じて、考え、行動できる子ども

「これまで多くの選手を見てきた中で、伸びる子に共通する資質はありますか?」と問いかけた。若山監督は、しばらく考えて「まだ、明確には解明しきれてはいないんですけど」と前置きをした上で「自分で、感じて、考えて、動ける子どもだと思います」と答えてくれた。

「伸びる子は、やはり賢い子が多いです。今は何をしなければいけないかを考えている子ども。例えば、合宿中でも、ご飯食べて、洗濯して、風呂入って、ってことが自分でできる子ども。逆に、コーチの指示でしか動けない子どもは伸びてない気がします」と補足する。このことは、サッカーだけで培うものではなく、普段の生活から身につけていくものだと考える若山監督は、選手の親御さんに対しても「子どもができることは、全部子どもにやらせてください」と伝えているのだという。

「忙しい現代社会なので、親も子どもに『あれしなさい、これしなさい』『あれはしてはダメ、これはしてはダメ』と言った方が、簡単で早く片付けられるから、なかなか子どもに自分でやらせるのは、難しいですよね。子どもが、可愛いがゆえに、あれもこれも、全部やってあげちゃう親御さんもいると思います。でも、サッカーも、生活(人生)も、結局は自分で感じて、考えて、動くことが重要だと思うし、そういうことができる子が、実際に伸びていると思います」と語ってくれた。

「親がやるのは、子どもが気付くように仕向ける程度で十分だと思います。ま、時短にはならないですけど」と笑った。親もさることながら、子どもも忙しくなりがちの現代社会において、子どもの成長を焦るがゆえに、時間にゆとりを持てずあれこれ詰め込んでいくことは、逆に子どもの本来の成長を遅らせてしまっているのかもしれないと感じた。

 

 

物わかりの悪い子は、子どものせいではない。ほとんどが伝え方が悪い

さらに、若山監督が指導者として気をつけていることは「賢い子ばかりに、肩入れしないこと」だと言う。

「賢くて、自分で感じ、考え、行動できる子は、教えたときに物わかりもいいし、実際に成長も早いので、指導者としても楽しいと感じることが多いと思うんです。現に、そういう子ばかりに肩入れして、物わかりの悪い子を置いてきぼりにするような指導者もたくさんいると思います。でも、実際は、本当に物わかりの悪い子なんて、ほとんどいなくて、大体の場合はこちらの伝え方が悪いんですよ」と語ってくれた。

「自分の常識と、子どもの常識は違うんだということを、常に意識しています。それは、かつて幼児年代の子どもたちと向き合ったときに強く感じました。例えば、『一生懸命走りなさい』と言ったとしても、子どもは意外と一生懸命走ることの意味がわからないんです。だから、『運動会の徒競走みたいに走りなさい』と言い換えてあげる。キックオフをした瞬間に合わせて『よーい、ドン!』と言ってあげる。そうすることで、子どもたちはたちまち全力で走るようになるんです」と教えてくれた。このエピソードはあくまで一例でしかないが、つい大人は、自分の常識を子どもに当てはめてしまう癖があるかもしれない。子どもの常識に合わせて、自分の常識を疑ってコミュニケーションを工夫する。それは、指導者はもとより、親としてもとても大切なことなのではないかと思う。

 

 

 

育成の最大の喜びは、子どもの成長に立ち会えること

最後に、監督をする一番の喜びは何なのかを尋ねたところ、「子どもが成長することです」と答えてくれた。

できなかったことが、できるようになる。感じられなかったことが、感じられるようになる。言えなかったことが、言えるようになる。行動できなかったことが、行動できるようになる。サッカーを通じて、サッカーのプレーはもちろんのこと、人間として成長していく姿を見られるのが、何よりの喜びだと話してくれた。

全日本U-12サッカー選手権大会・全国優勝という最高の結果を残した若山監督は、実績や名誉といった結果ではなく、その結果を目標に置くことで生まれる成長というプロセスに喜びを見出せているのだと感じた。言い換えれば、そのプロセスこそが、サッカーをやる本質的な意味であり、目的なのかもしれない。

「子どもが、サッカーという団体スポーツを通して、人間として成長していくこと。そして、自ら自立して成長できる人間へと進化していくこと」という極めて本質的なことを、大人として、指導者として、親としてどうサポートしていけるだろうか。今回、若山監督への取材を通して、その本質に誠実に向き合うことの大切さを改めて感じた次第である。

 

PROFILE

 

 

 

 

 

 

若山聖祐(FCトリアネーロ町田監督)
1985年5月22日生まれ 東京都大田区出身。アルバイトをしながら川崎市にある少年団・菅FCのコーチで指導キャリアをスタートし、南菅中学校、日体荏原高校、YASUサッカースクールなど幅広い年代の指導を駆け持つ。4年目で菅FCをバーモントカップ全日少年フットサル大会全国大会出場に導き、2016年にFCトリアネーロ町田を立ち上げ。クラブ設立5年目にして、2020年度JFA第44回全日本U-12サッカー選手権大会優勝を成し遂げた。

 

サコー | 酒匂紀史(SPODUCATION コンテンツ・プロデューサー)
1976年4月1日生まれ、愛知県出⾝。株式会社 DOKAVEN 代表取締役。1998年に電通に⼊社し、2014 年クリエーティブディレクターに就任。数々のヒットキャンペーンを⼿掛ける。2021年独⽴に伴い、SPODUCATION コンテンツ・プロデューサーにも就任。未来ある子どもたちと、その親御さんや指導者の皆さんに、意義ある情報を届けることに情熱を注ぐ。

 

【サコーCPの育成探訪 ~back number~】

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【#02】KSA(コーディー・サッカー・アカデミー)山田代表に学ぶ「親は、子どもとどう関わるべきか?」

 

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    • 2023年7月3日 2:53 PM

    トリアネーロはいいチームですね。スカウト FC東京です。

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